オリンピック招致不正利益供与問題 日本で本当に開催できる? (2016/5/20 JIJICO)
オリンピック招致で不正な利益供与の疑惑
2020年に開催予定の東京オリンピック・パラリンピックの招致活動を巡り、日本の招致委員会側がコンサルティング料として支払った相手先企業が、開催地決定に影響力を持つとされる人物の親族と関係しているとして、これが招致のための賄賂だったのではないかという疑惑を招いています。そこで、これが贈賄として、日本国内で処罰の対象となるかという観点から解説してみます。
そもそも、日本の刑法で処罰の対象とされている贈賄罪(刑法198条)は、我が国の公務員の職務の公正とこれに対する社会の信頼を保護するために、公務員の収賄罪と合わせて処罰の対象とされているもので、基本的には我が国の公務員に対する利益供与等を処罰するものです。
しかしながら、グローバル社会が進むにつれて、国際商取引の公正さも叫ばれるようになり、OECD(経済協力開発機構)の「国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約」が平成11年2月に発効したのを機に、我が国でも不正競争防止法において、「何人も、外国公務員等に対し、国際的な商取引に関して営業上の不正の利益を得るために、その外国公務員等に、その職務に関する行為をさせ若しくはさせないこと、又はその地位を利用して他の外国公務員等にその職務に関する行為をさせ若しくはさせないようにあっせんをさせることを目的として、金銭その他の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をしてはならない。」(同法18条1項)と定め、これに違反する行為に対し、「5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金、又はこれを併科する」(同法21条2項7号)ものとして、処罰の対象としました。
オリンピック憲章に違反していることで開催権取り消しの可能性も
では、日本の招致委員会側が、開催地決定に影響力を持つとされる人物ないし国際オリンピック委員会(IOC)の関係者に不正な利益供与等を行った場合、この不正競争防止法違反という罪に問われるのでしょうか。
結論からいうと、この点は否定されます。
ここで定められている「外国公務員等」の中には、「公的国際機関の公務に従事する者」も列挙されているため(同条2項4号)、IOCも国際機関としてこれに該当するものと思われがちですが、実は、IOCは、オリンピック憲章において「国際的な非政府の非営利団体」と定められているとおり、民間の国際機関に過ぎず、公的国際機関ではないのです。
結局のところ、今回の問題について、我が国で贈賄罪ないし不正競争防止法違反といった罪に問うことはできないということになります。
もっとも、オリンピック憲章で定められた「オリンピズムの根本原則」には、「フェアプレーの精神」が掲げられております。今回の問題がこれに違反するものとして重大視され、オリンピック競技大会の開催権の取消しという最悪の事態にならないことを祈るばかりです。
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