これは限界集落の未来なのか否か?廃校になった「尾鷲市立梶賀小学校」に潜入してきた。 (2016/4/22 地域移住計画)
学校の階段が急すぎて、膝がガクガク震えました。
こんにちは、三重県尾鷲市地域おこし協力隊員のすずきです。
梶賀小学校へ行ったよ
僕が行ったのは、尾鷲市の最南端に位置する漁村集落、梶賀町にある廃校「梶賀小学校」です。
梶賀町は尾鷲市の最南端にある漁村集落で、「あぶり」という魚の燻製が伝統料理として有名です。
急峻な山々と海に囲まれた、人口200人に満たない限界集落です。
今回は、梶賀に配属された地域おこし協力隊の仲間の要請を受け、特別に学校の備品を譲って貰える事になったそうなので、担当職員や他の協力隊も全員召集で、荷物の運び出しに駆り出されたのでした。
この梶賀小、開学はなんと明治11年だそうで…100年以上の歴史があるそうです。
ですが、梶賀はもちろん、近隣の集落や尾鷲市自体の少子高齢化は歯止めが効かず、その影響で平成10年に、近隣の賀田小学校に統合する形で休校(事実上の廃校)となったようです。
この梶賀小ですが、急な山々に囲まれた入江にひっそりと佇む梶賀の集落にあって、最も高い場所に位置しているのです。
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校門前から集落を見下ろす
この写真を見ただけで分かると思いますが、めちゃくちゃ高い所にあるんですよ…
標高は38mだそうですが、港のある集落の中心は、せいぜい海抜1m。
実に約37mもの高さを、急な石段でガーッと駆け上がらなきゃならんのです。
もちろん、見晴らしは良いのですが、膝はガクガクと震えてしまいます。
廃校に入る前にガタガタ震えてどうするんだっつーね。まぁ、学校の階段だからね。
しかし、毎日この石段を昇り降りしていた小学生、さぞかし鍛えられたでしょうね。
もしかしたら、競輪選手の如く、太ももだけ異様にパンパンになっていたかも知れません。
身体はガリガリなのに、太ももだけ五郎丸みたいな感じの小学生がいたら、「あっ、あの子梶賀の子やな」と思われていたのでしょうか。
でも、時代は移りゆくもの。
梶賀小学校も廃校になってしまい、太ももだけパンパンな小学生を尾鷲で見かけることは無くなってしまいました。
しかし、もし太ももだけパンパンな小学生が今いたとしても、住民は「梶賀の子やな」とは思わないはずです。
きっと「弱虫ペダルや!」「山の神・柏原の隠し子かいな」としか、声を掛けないのでしょうね。
もちろん、初めて梶賀小まで登っただけで膝ガクガク状態でへばっている我々オッサン連中に「弱虫ペダルや!」なんて声をかけてくる人はいません。
そこにはただ、単純に息を上げてへばっているオッサンしかいないのですから。
廃校の哀愁に交わる、オッサンの哀愁。合掌。
小学校の敷地に入ってみた
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グラウンドから 右は多目的ホール、奥が校舎
校門をくぐると、そこはまさに「ザ・廃校」といった感じの佇まい。
津波などの緊急避難所に指定されている為か、グラウンドの芝生だけは綺麗なのですが、錆びて朽ちかけのサッカーゴールや鉄棒がひたすらに哀愁漂っています。
そして、さらに石段の上に登って右手には、ガラスが落ちまくっている多目的室。そして、奥には本校舎がそびえます。
「こんだけ登っておいて、まだ登るのかよ!!」
と、嘆きたくなりますが、同時に膝もガクガクと嘆き続けております。
まずは、手前にある多目的室を覗いてみました。
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多目的室内部
うーん、これは激しい…
床は一部腐って抜け落ちているし、天井もバキバキと剥がれまくっています。
もう何だか砂埃やらでザラザラに汚れている卓球台とか、
豪快に倒れているグランドピアノが哀愁漂いまくりです。
舞台の上にはオルガンが何台もあったり、立派なスピーカーがそびえています。
ここが音楽室としても良く使われていた事が伺えますね。
卓球台もあるという事は、おそらく雨で体育ができない時に、卓球でもやっていたのでしょうか。
音楽室としての用途が最も大きい気がしますが、他にあまり利用方法が浮かばないのは、僕も小学校を離れて久しいからでしょうか。
本丸の校舎跡に行ってみよう
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校舎前 ダメ押しの石段
さて、いよいよ本丸の校舎へ行ってみましょう。
膝ガクガクのオッサン軍団に襲い掛かる、最後の刺客。
石段の一歩一歩の重みが、足に、身体に、老い始めた心にのしかかって行きます。
しかし、僕達はあくまでも小学校に訪れているのです。
童心…あるいは、温かい保護者の心。そのいずれかを持たなくてはなりません。
このフィールドでは、我々は単なるオッサンでいる事はまかりならぬ。
小学校という環境に身を馴染ませる、一流の猛者でないとならないのである。
嘘である。
さて、廊下を見てみましょう。
どうですか。この趣のある「ザ・廃校」な感じは。
廃墟好きだったら、喜んで飛び回って床を舐めずりまわすのではないでしょうか。
逆に怖いのが苦手な人には、理科室に行かずとも「ヒィィィィーーー!!」と叫んで逃げ出すかもしれません。
当然のことながら、廊下はほこりや落ち葉等々で汚れまくっていて、床もきしみます。
日当たりが悪い部分は朽ちて抜け落ちていますし、中には天井から床まで、こんなダイナミックな崩落も…
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裏の崖から落石でもあったのだろうか…
もちろん、この部分の床面は非常にもろくて、歩くのが恐ろしかったです。
きしむし、凹むし、障害物だらけでバランス崩すし…スリルがありますわ。
そして、教室もまたいい味出してるんですよねぇ。
冒頭の写真ですが、これを見てください。
広い教室に、たった一席。
やたらめったら書きなぐられた黒板の前に、たった一席だけ、ポツンと佇んでいるのです。
すごくないですか?この佇まい…
学校の階段…いや怪談だったら、きっと「廃校直前に亡くなった子の席」なんでしょうねぇ…
こんな本当に絵に描いたような廃校の風景が、普通に広がっているんですよ。
廃墟好きには、梶賀小ってすごい良いスポットですなぁ。 ※無断立入は犯罪ですよー
他にもいろいろと、廃校らしさ満点の興味深い写真たち。
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廃校後に遊びに来たんですねぇ。他にも、ヤンキーが荒ぶってる黒板とかもありました。
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趣のあるトイレ。もちろん和式ボットン。
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校舎裏に佇む遊具。これも哀愁たっぷり
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左上怖っ! 「死に……」絶妙に読めないのが怖い!!
とても良い経験になりました
結局、廃校見学した後は、机だの棚だのを下の集落まで運び出して2往復。
死屍累々となったオッサンを癒すのは、ただただ作業後のお茶のみだったのですが。
今回、こうして梶賀小に来ることが出来て、とても良かったと思っています。
廃校とはどんなものなのか、改めて触れられて興味深く感じました。
ちなみに、僕の出身の東京・台東区は、23区内で最も高齢化率が高く、最近になって都心回帰傾向が強まるまでは、地方都市のごとく少子高齢化に悩まされていました。
その影響もあり、僕の住んでいた御徒町周辺の小学校はドンドン廃校。
僕が通っていた小学校も、合併・新設された学校だったのですが、にも関わらず、全学年1クラスしかありませんでした。
台東区はそんな状況だったので、区も増える廃校を憂慮していました。
そこで、廃校で「家族と子供でお泊まり会」をやったりとか、アート施設にリノベーションしたりだとか、今にわかに注目され出したような取り組みを、台東区では既に20年前くらいからやっていたんですよね。
そんな環境に育っていた僕だったので、廃校に行ったのは今回が初めてではありませんでした。
でも、「リアルな廃校」に触れられたのは、今回が初だったのかなぁと思います。
絵に描いたような廃校の風景が興味深かった、というのは非常に大きなポイントでしたが、「学校生活の風景」が風化しつつも残っている事に感銘を受けました。
生徒用のロッカーだとか、玉入れ競争の赤白玉だとか、机、筆記用具、図書室の本などなど。
かつてその場に子供達がいて、先生がいて、教育という営みをしていたんだなぁ、という感銘。
何というか、トルコ旅行で遺跡を観光した時と似た気持ちになったんでしょうかね。
あの時は、ガイドが付いて回り、「この施設はかつて~」なんて事を喋ってくれたので、昔の生活と今の廃墟を見比べて、興味深く聞くことができました。
「かつての生活を知る」という事が、今回も出来た、という事なんでしょうね。
廃校になって10数年、梶賀小学校は何を想う
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出てきたアルバム。確か昭和59年の写真
さて、廃校になって久しい梶賀小学校ですが、やはり学校が閉鎖した理由は「少子高齢化」です。
梶賀は既に限界集落となっており、総人口は200人に満たず、高齢化率も50%を大きく上回っています。
梶賀小は一足先に廃校となってしまいましたが、あと数十年、いや、下手したら数年後には、梶賀町自体が「廃村」になってしまう可能性も0ではありません。
子供が減り、老人は亡くなって行き、残りの住民は歳を取って行くのみ…
これが、多くの限界集落の現実となっています。
廃校は、そんな限界集落の小さな写し鏡と言えるのではないでしょうか。
僕も尾鷲に来て何度も梶賀を訪れていますが、ここは本当に「良い街だなぁ」と思います。
住民の方々は明るく元気で(おばちゃんがパワフル!)優しく、新しいものもしっかりと受け入れる。
協力隊の仲間もそれに大きく助けられつつ、また梶賀を確実に、より面白く、話題の生まれる街に育ててきています。
正直、日本全体の状況を鑑みても、少子高齢化や地方の過疎化は、大規模な移民政策でもしない限り、どうしても止められません。
しかし、「限界集落の消滅」という観点で言うと、ちょっと状況が変わってきている気もするのです。
限界集落は人口の絶対数が少ないからこそ、「一人の影響」がすごく大きい。
その影響力は、集落の内部も変えるし、外部にも波及して、人々の価値観を変えていくことができます。
高知の山奥に移住したイケダハヤトさんは、まさしく強い影響力を誇って、お住まいの本山町を面白くしていますからね。
各地の限界集落に地域おこし協力隊がドンドン入って行き、魅力の創造を行っている現状。
そして、「田舎暮らしをしたい」というニーズの爆発的な高まり。
こういった追い風が吹いている状況では、アクティブにまちおこしに取り組む限界集落は、よもやすると消滅を免れるのではないか?と思うのですよ。
実際、イケダハヤトさんに惹かれて本山町に移住した人は何人もいるようですし、尾鷲だって、梶賀、九鬼、早田、あらゆる集落に、魅せられて移住してきた人々がいます。
僕は尾鷲市の空き家バンクの運用をしていますが、外部から移住したいと思っている人の問い合わせは毎日のように来ています。
それはひとえに、尾鷲が面白い街になりつつあり、それをたゆまず情報発信をするようになってきたからだと思います。
こんな人口減少著しい限界集落…いや、限界自治体でも、外部から新しい人を呼び込む事は出来るのです。
廃校前、かつて梶賀小学校で学んだ人達は、現在の梶賀小、梶賀、尾鷲市を見て何を想うのでしょうか。
少なくとも、僕は、梶賀を、尾鷲市を、廃校のようにして風化させたくはありません。
どんなに少子高齢化が進もうが、街に新しい風=移住者を持って来られるよう、魅力をPRしていきたいと思います。
以上、二宮金次郎がお送りしました。
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