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東芝の不正会計問題について (2015/12/15 企業法務ナビ

1 事件の概要

総合電機メーカーの東芝は、過去5年間過大に利益を計上し、不正な会計処理を行った。自動車のETCの受注をはじめとしたインフラ事業を中心に548億円の過大計上や、半導体やパソコン事業などでも合わせて1000億円以上の利益がかさ上げされていた。

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2 追及されうる責任

(1)刑事罰(懲役、罰金)

 有価証券報告書や四半期報告書は、金融商品取引法に基づき上場会社等に対して、継続的に提出が義務付けられる法定開示書類である。

 これらの法定開示書類は、投資者に対して投資判断の基礎となる材料を提供するものであり、「金融商品等の公正な価格形成等」(金融商品取引法1条)を実現するための根幹をなすものと考えられる。従って、これらの法定開示書類について虚偽記載を行った者に対しては、金融商品取引法は厳罰をもって臨んでいる。

 具体的には、有価証券報告書や四半期報告書について、「重要な事項につき虚偽の記載のあるもの」を提出した者に対しては、懲役刑など、金融商品取引法の中でも特に重たい刑事罰が科されている(金融商品取引法197条1項1号、197条の2第6号)。

 刑事罰のほかにも、内閣総理大臣(実際には金融庁長官に委任)による課徴金納付命令が下される場合もある。具体的には、発行者が、「重要な事項につき虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項の記載が欠けている」有価証券報告書等を提出した場合、課徴金を国庫に納付することが命じられることとなる(金融商品取引法172条の4)。

 今回の事案において、証券取引等監視委員会(監視委)は金融庁に対して73億7350万円の課徴金の納付を東芝に命じるよう勧告した。

(2)会社・取締役の損害賠償責任

 有価証券報告書等に虚偽記載が行われた場合、発行会社は、虚偽記載のある有価証券報告書等が一般に公開されている間に、その有価証券を募集・売出しによらずに取得した者に対して損害賠償責任を負うものと定められている。(金融商品取引法21条の2)。この場合、発行会社は、有価証券報告書等の虚偽記載について無過失責任を負うものと解されている。つまり、損害賠償を請求する株主は、その会社の有価証券報告書等に虚偽記載があることを立証できればよく、発行会社に故意又は過失があることを立証する必要はないと考えられている。

 有価証券報告書等に虚偽記載が行われた場合、その発行会社の役員(取締役、会計参与、監査役、執行役、これらに準ずる者)は、虚偽記載を知らずに、その有価証券を取得した者に対して損害賠償責任を負うものと定められている(金融商品取引法24条の4による同22条の準用)。ただし、会社に対する損害賠償請求の場合と異なり、損害額の推定規定が設けられていない。そのため、損害賠償請求を行う株主は、損害と虚偽記載の相当因果関係や、損害額について自ら立証しなければならない。また、役員は、「記載が虚偽であり又は欠けていることを知らず、かつ、相当な注意を用いていたにもかかわらず知ることができなかったこと」を証明できれば免責が認められる(同前、過失責任)。

 勧告と同じ日、株主ら50人も、東芝と旧役員5氏を相手取り、合計約3億円の損害賠償請求を東京地裁に起こした。また、12月14日には大阪で45人が合計約1億7000万円の損害賠償請求を起こした。その後も2016年3月頃に東京と大阪で、福岡や高松でも訴訟が予定されており、請求額はさらに増加する見通しだ。

3 企業統治(コーポレート・ガバナンス)

有価証券報告書等の虚偽記載など、企業不祥事が発生するたびに、わが国の上場会社の企業統治(コーポレート・ガバナンス)に関する問題がクローズ・アップされる。

そもそも内部統制システムは、経営者にその整備、運用に関する責任と権限があるものと考えられる(会社法362条4項6号)。その意味では、本来、内部統制システムは、経営者が、組織内における業務の効率性、財務報告の信頼性、法令等の遵守を確保するための役割を担っている。言い換えれば、経営者自ら内部統制を無視するような事態に対しては、内部統制システムは、必ずしも有効に機能しないものと理解されている(いわゆる内部統制の限界)。

有価証券報告書等の虚偽記載についても、そもそも経営者自らが中心となって組織ぐるみで行うような場合(いわゆる「経営者の暴走」)には、形式的には立派な「財務報告に係る内部統制」システムを整備したとしても、それのみで、有効に防止することは難しいものと考えられる。コーポレート・ガバナンスや内部通報制度などを含めた多角的な対応が必要になるものと思われる。

4 本件における監視委の対応

異例だったのは、監視委が東芝に対して一定期間の「フォロー」を決めたことだ。管理体制の確立を主目的としており、金融庁とも連携していく方針だ。ただ「具体的に何をするのかは今後検討したい」(監視委)と期間や方法については未定としている。

監視委から勧告の背景について詳細な説明や、企業に対するフォローは過去に前例がない。理由について、監視委の佐々木清隆事務局長は、「日本を代表するグローバル企業で問題が起きたこと、ガバナンス体制を取る会社で機能しなかったこと、ガバナンスに対する世の中の期待が高まっているため」と説明している。

提供:企業法務ナビ

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