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【取材その後】包丁の街、堺の技術をのこす (2017/5/26 70seeds

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伝統工業の後継者問題は、年々深刻さを増し、様々な議論がされています。2017年版中小企業白書によると、伝統工業ふくむ中小企業の倒産件数は減り続けてはいますが、休廃業・解散件数は2016年に2万9583件と過去最多となったそうです。

先日、公開した大阪府堺市の包丁を利用した「藍包丁」。

包丁の業界も、もちろん同じ問題を抱えています。包丁のつくり方現場を実際に見てみたい。そして包丁屋さんはどのように後継者問題に向き合っているのか。「藍包丁」の刃を作る大阪府堺市の(株)山脇刃物製作所に取材してきました。

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完全なる分業制

――堺は包丁の街ということですが、どんな由来があるのですか。

由来は仁徳天皇陵、世界一大きいと言われているお墓。堺市にあるんですが、あそこが作られたときに、工事をするときに使う工具をつくる職人を全国から呼んだのが始まりと言われてますねぇ。

――仁徳天皇陵が作られたとき!

そのあと、鉄砲の製造で繁栄した時代を経て、和包丁が完成したのは江戸時代ですね。

――なるほど、織田信長の鉄砲は堺の商人から買ったっていうのは日本史で習いましたね。山脇刃物さんは創業してどれくらいになるんですか?

うちは90年くらいです。些細なことのように思うかもしれないんですが、包丁は柄ひとつで印象もガラッと変わる。切れ味は刃を柄に入れる角度で変化したりして、そこにもこだわっています。

――ずっと続けてきた誇りを感じますね。

うちは機能性の切れ味だけでなく、デザイン性も大事にしてる会社だなと思いますね。そこが藍包丁の坂元さんともいっしょにできた理由かもしれませんね。

――ちなみに一番価値が高いのは…どれですか?

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これですね。鞘に蒔絵と螺鈿を使ったもので、包丁のつくりもめちゃめちゃいいものなんですよ。研ぎ職人も、僕らの中で日本一の職人とされている方に研いでもらっています。刃紋は富士山をかたどっています。

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――ほんとだ!ちなみにこれはおいくらくらいでしょうか?

アメリカで小売価格100万円くらいで売れたって聞きましたけどね。

――100万円?!でも確かにその価値があるべき技巧なんだと感じます。藍包丁も本当に綺麗なプロダクトですよね。制作の話で何よりびっくりしたのが、2か月でできたっていう…。

そうなんですよ。2016年の秋ギフトショーで初めて提案を聞いて、年末には商品ができていましたからねぇ。

――私は包丁の試作って時間がかかるものだと思っていたんですけど…。

いや、我々が柄と鞘をアレンジするっていうのは、ふつうにやることなんです。あまり知られてないですけど、変わった柄を作ったり、銘木で鞘を作るっていうのは商品開発ではよくあることなんですよ。僕らはいつも通りに近い感じでやりました。

――そうだったんですか、なるほど。どうしてそんなに早く対応できるのですか?

包丁の制作は完全な分業制なんです。例えば、藍包丁はこんな感じで作られています。

藍包丁の生産フロー――もくもくと煙が。柄のお尻を叩いていますが、なぜですか?

叩いて、刃の根元と柄の入り方の角度と深さを調整するんですよ。
最後に銘を彫って、箱に収めて出荷します。こないだは料理専門学校の入学支給品で数千本納品しましたね。

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――ひとつひとつ手作業なんですねぇ。

こういう風に作り上げていくんで、藍包丁は「藍染の柄と鞘」があれば、適した刃と組み合わせる期間だけでできるわけなんです。

――なるほど。それであの開発スピードということですか。

センスの良い若手がいた幸運

――今堺にはどれくらい職人さんがいるんですか?

刃付け職人だと、会社だけで30社もないんちゃうかなぁ。あんまないですね。人数だと50~60人くらいやと思います。一時は140~150軒くらいありましたからねえ。あと鍛冶屋も人数は減ってますね。

――そうですよね。分業されているそれぞれの先で継承者がいない…。

堺は鍛冶屋さんは鍛冶屋さん、刃付け屋さんは刃付け屋さん、我々は問屋。問屋がいろいろプロデュースして、色んなところに発注掛けていくっていうやり方なんです。で、どうしても職人さんが減ってきていて、職人さんのリソースの(?)取り合いみたいになっていたんですよ。ほんまに職人さんが減ってきて大変です。

そんな折にですね、うちでほぼ専属でやっていただいてた刃付け屋さんの藤井さんという方が「リタイヤする」とおっしゃるので、「うち問屋ですけど工場と機械買い取りましょう」と、社長が言いましてね。

――大きな決断。

もし、何もしなかったら、堺から1人刃物職人が消えていったんでしょうけど。今、うちのもともと社員だった30歳の五十嵐と、堺市がはじめた伝統産業の後継者育成事業から採用した25歳の清水、2人が研ぎ職人しています。あ、それと、もう一人、高校卒業したての若い子が今見習いに来ています。皆、藤井さんに教えてもらいつつ、成長していってますよ。

――若い世代の男性が3人もお弟子さんに!すごく良いですね。

これは社長のいい判断だったと思います。元々、五十嵐が「職人やりたい」って希望をもっていたからこそのマッチング。しかも彼はセンスが非常によかったんです。幸運でしたよね。

――彼は継ぐべき人材だったんですねぇ。

刃付け職人が自社にいる問屋は堺でうちだけなんですよ。それは他社との差別化になっているので、売りにしてますし。自社に職人がいると、直接品質管理ができる事と、納期を守りやすいんです。この工場は稼働して6年になるのですが、手狭になってきたので、今年中に新工場を作る予定です。

――工場を買い取ったメリットがあったと。きっとこのことがきっかけで藤井さんが持っている技術が引き継がれていくんでしょうね。

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――藤井さん、元々はリタイアすると言っていたわけですが、お弟子さんが3人も増えてどんなリアクションがありましたか?

やっぱりうれしいんちゃいますかね?今まで1人でやっていたので、若い人に指導できるっていうのは、嬉しいと思います。弟子できてからさらに元気になりましたよ(笑)

――そういうお話を伺うと、嬉しくなってしまいますね(笑)。同じような良い技術をのこすサイクルがもっと増えたらいいのになぁと思ってしまいます。ありがとうございました。

◇        ◇

堺の老舗包丁問屋では経営者の英断で、1人の職人の技術が継承されることになりました。
でもこうやって技術継承に成功しているのはほんのひと握りだからこそ、冒頭のような現状が生まれてしまっています。貴重なつくり手の技術をのこすため、「使う側」ができることは何なのか。モノを買う機会に今一度考えてみることが必要なのかもしれません。

提供:70seeds

WRITER 
鈴木賀子

鈴木賀子
意志ある人の、レールガン!
ジュエリーメーカー、広告クリエイティブ領域の製作会社、WEBコンサルティング企業を経て、2016年より70seeds編集部。アンテナを張っているジャンルは、テクノロジー・エンタメ・オタクコンテンツ・自転車・食・地域創生・アート・デザイン・クラフトなど、好奇心の赴くまま、飛びまわり中。

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