盛り上がる大阪~なぜ大阪市は快調な人口流入が続くのか (2017/2/1 NTTデータ経営研究所)
政令指定都市1、2を競う大阪市への人口流入
大阪市への人口流入が快調だ。同市の人口は2001年に転入超に転じたあと、2000年代後半は政令指定都市中3~4番目の転入超を続けた。それが最近2年間は、札幌市やさいたま市と1、2を競う転入超数となっている(参考1参照)。
大阪の人口をめぐっては、「東京圏や名古屋圏と異なり、大阪圏(大阪府、京都府、兵庫県、奈良県)は大幅な人口流出」、「大阪府の人口は、東京4都県や愛知県とは対照的に減少」との伝えられ方が多いために、縮小イメージをもたれがちだ。
しかし、実際は、大阪圏の中核域である大阪府、なかんずく大阪市に顕著な人口流入がみられる。
流入超の主体は若者世代
なぜ、大阪市に快調な人口流入が続くのか。まず、いくつかの事実を確認しておこう。
第1に、年齢層別にみると、大阪市への転入超は、絶対数はもとより、近年の超過幅拡大も20歳代の寄与が目立つ(参考2参照)。また、40歳代から70歳代にかけても転入超が続く。
第2に、大阪市とは対照的に、近隣の堺市、神戸市は3~4年前から転出超に転じた(前掲参考1参照)。とくに堺市は、足許、転出超幅の拡大が目立つ。
これらを踏まえれば、若い世代を中心に、周辺域から大阪市に向かって人口移動が生じているとみるのが自然である。
規制緩和に伴う住宅数の増加
こうした人口移動のきっかけは、やはり大阪市内の住宅の増加だろう。とりわけ目立つのが高層マンションの増加である。
高層マンションは、90年代後半の規制緩和をきっかけに全国で建設が活発化した。
さらに大阪市は、近年、目抜き通りのオフィスビルの容積率を緩和してきた。その結果、新築のオフィスビルが増え、老朽化したオフィスビルの跡地に高層マンションが建てられるようになった。
「勤務先に近い場所」が圧倒的に支持される
もちろん、高層マンションへの転入は年配層が主体である。一方、若い世代は、年配層が以前居住していたマンションやアパートに移り住み、空室を埋めるようになった。
関西で「住みたい街」といえば、大阪市だけでなく、神戸市や阪神周辺の各都市が挙げられることが多い。にもかかわらず、大阪市に人口が集中するのは、若い世代(除く子育て世代(注))が、「住みたい街」以上に「勤務先に近い場所」を重視するからにほかならない。
(注)子育て世代は、他地域と同様に郊外の生活への指向が強い。大阪市からの転出超が最も多いのは0~9歳層であり、30~39歳層がこれに次ぐ(前掲参考2参照)。
もともと大阪市は、面積が狭いため、市外から通勤してくる人が多い。実際、大阪市の昼夜間人口比率は、全国の市のなかでも1位の高さにある(参考3参照)。これは、潜在的な住宅需要を示す指標とも言える。
さらに、大阪市は、アジアからの観光のゲートウェイとして、近年、産業が活性化している。今後も住宅供給が増える限り、人口流入が続く可能性は高い。
地方創生は産業の活性化から
以上のように、子育て年代を除けば、人々は勤務地に近い場所を選好する傾向が強い(高齢層は病院・介護施設に近い場所を選好)。
90年代半ばまでの人口増加の時代は、それが大都市の過密を生み、人々は大都市からの転出を余儀なくされた。しかし、その後の生産年齢人口の減少に伴い、再び中心地に集まる傾向が強まっている。
このことは「地方創生」にとっても示唆するところが多い。
第1に、各市町村がどのような人口対策を掲げても、その人口動態は近隣の大都市や中核都市の施策に大きく左右される。人口対策を個別市町村が単独で考えると、効果を見誤る可能性がある。
第2に、仮に各市町村の子育て支援策が奏功し子育て世帯を呼び込めたとしても、地域の産業が十分でなければ、子どもたちが大きくなって就職する時点で、他の大都市に転出してしまう可能性が高い。
第3に、規制緩和のインパクトは大きい。高層マンションやオフィスビルにかかる容積率等の緩和が示すように、規制緩和は社会・経済活性化のためのキードライバーとなりうる。
以上を総括すれば、長期的な人口の流入とその定着を期待するには、活力ある産業の存在が必須である。地方創生にかかる施策は、やはり産業中心でなければならない。
同時に、人口対策は、個別市町村でなく、広域の経済圏を基本単位として考えるべきことだろう。個別自治体の人口ビジョンは、広域圏全体のビジョンと整合的なものでなければならない。
- 著者プロフィール
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山本 謙三
株式会社NTTデータ経営研究所 取締役会長
1976年東京大学教養学部教養学科(国際関係論)卒業。同年日本銀行入行。金融市場局長、米州統括役、決済機構局長、金融機構局長などを経て、2008年5月理事。 2012年6月より現職。
専門分野は、金融機関・金融システム、金融政策、決済、業務継続。
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