令和の女性活躍、違いを受け入れその人らしく生きられる社会へ―高階恵美子元厚労副大臣に聞く (2022/6/28 政治山)
2022年3月31日、自民党人生100年時代戦略本部に設置された女性の生涯の健康に関する小委員会(高階恵美子委員長)では、「健康活力社会を牽引する女性の健康の包括的支援について」と題した中間報告を取りまとめました。
人生100年時代と言われる今、女性にとってのウェルビーイングとはどのようなものなのでしょうか。自身の成長過程の経験から得た興味深い切り口で女性をサポートするための取り組みを精力的に推進している高階氏と、大塚製薬「女性の健康推進プロジェクト」リーダーの西山和枝氏にお話をうかがいました。
「女性の人生100年時代」を牽引する上で、“女性活躍”という言葉をあえて強調しないようにしていると話す高階氏。“女性”に限らず、その人らしく活躍できることが重要であるという考えの元、性別を取り上げてのアプローチとは別の切り口で女性の活躍についてとらえる背景には、先天性の両側股関節脱臼の治療のために不自由が多かった幼少期に、性差のみならず、日常生活の身近なところに潜む多くの無意識的な区別を越えて“その人らしく”社会参加できる、そんな社会が当たり前にならないだろうか、と感じた体験がありました。
高校在学中には「女性に生まれたことをどう思うか」「女性としてどのように生きていきたいか」という問いかけから自分の性を自認する機会を得たことで、何歳になっても自分の人生の現在地を常に考えながら歩んでいくことが大切、という思考法を学べたと述べています。
自分なりに整理した独自の切り口で物事をとらえられるようになり、性別よりも自分自身がどう生きていくか、人をどのように理解するかが大切という考えを自分なりに落とし込むことができました。昨今の「女性活躍」という言葉が社会全体で目指すべきシンボルのように扱われる側面を見て、そこまでしないといけない裏で障壁になっているものは何かを考えるようになりました。
性別ではなく自分自身がどう生きていくかを考え、選択できる社会を目指そうとする理念の元では、「男女共同参画」の言葉に代表されるような、女性が男性社会で同じように働き活躍するために、支障となるすべてのものをすてる自己犠牲と、男性の何倍もの努力をもって社会貢献するべき、とされてきた慣習的な価値観にも違和感を覚えざるを得ないと高階氏は話します。
【高階氏】 社会において個人で異なる思考や選択を可能にする機会が提供されているかという視点で見ると、いまだ制約されているから「男女共同参画」という言葉も根強く残っているのだと思います。「女性活躍」という言葉は使いませんという一方で、このような変えるべき部分は変える努力が必須であり躊躇することもないと考えているので、より攻撃的かもしれないですね。
女性として、社会の慣習としてのみられ方や与えられるポジション、期待される役割にはまることを求められたり、また当てはまるべきと考えるのではなく、人それぞれの好みや選択、思考の違いを理解した上で特性を伸ばした働き方を可能にしたい――。現代における“女性活躍”の考え方は新しい段階に入ってきています。
「女性の健康」を強調する意義
一方で、大塚製薬「女性の健康推進プロジェクト」を牽引する西山氏は、「女性の」という枕詞をつけなくても、社会全体が女性の健康に対する理解や問題提起を当たり前のものとしてとらえる環境を醸成できるまで、意識的に「女性の健康」と強調して発信することが重要であると話しました。
また、ヘルスケアのカンパニーとして「女性の健康」に関する企業の実態や女性の実態を調査し発信し続けている中で、単独では社会の土壌や文化を変えることまでは叶わないため、企業間や国などさまざまな分野がタッグを組んで声を上げることの必要性を強く感じていると話しました。
政府及び自民党のこれまでの取り組みについて
自民党では、2013年に発足した「女性の健康の包括的支援に関するプロジェクトチーム」において、組織的に女性の健康を総合的に支援していくための議論が初めて交わされ、政策としてこの問題に向き合う潮流がうまれました。
翌年に公表された報告書では、女性の健康支援や出産の環境の再構築なども盛り込んだ法案の整備についての言及もありましたが、必要な研究基盤や成果を共有するネットワーク、プロジェクトを動かす計画のスイッチやサイクルといった仕組みが整わず、いまだ法案の整備は実現されていません。
また、いわゆる“昭和の感覚”とも揶揄されることのある「男女共同参画」に男女問わず悪い意味で慣れきっていると痛感させられる意見が、この時の草案に対する反対の声の中にも散見されたと振り返る高階氏は、そのような環境を変え、男女は違って当たり前のものとして共有できる社会にすることを目標に、党内の意識改革の一環として女性議員を育てるための取り組みも積極的に行っています。
「女性の人生100年健康ビジョン」のカギは「更年期」の捉え方
人生100年時代における女性の健康を包括的に支援するにあたり、注目されたのは「更年期」のとらえ方です。革新的な視点で女性のウェルビーイングな人生を実現するための政策を構築する高階氏は、更年期への従来のとらえ方についても以下のような意識改革が社会全体に必要であると話します。
【高階氏】 人生100年時代において、前半生と後半生をつなぐ中間点にあたる更年期は自分らしい生涯を送れるかどうかの重要な転換点でもあり、その先の40年を決めるトンネルのような時期であると位置付けています。更年期を「静かに熟す移行期(※以下、「静熟期」)」ととらえ、このトンネルの時期をいかにうまく移行するかによってその先の生き方が決まるという考え方です。
自分だけで抱え込まずに、社会全体の知恵とパワーをもって静熟期を大切に次につなげてあげられるようにすることができれば、本当の意味での人生100年の豊かな日本社会を世界に発信できるようになると思っています。
この提言を取りまとめたことで、これまでは人生60年の延長線上に寿命の延伸対策を考えてきたことを反省し、また、自分自身の意識も変わるいいきっかけになったと感じています。
仕事・子育て・介護…生活課題が重なる時期にやってくる静熟期
成長期や妊娠出産期、老齢期と異なり、今までほとんど社会的関心が向けられてこなかった静熟期は、女性自身の自覚の有無に関わらず急激なホルモンの変化に伴った全身症状が最も体の不調を引き起こしやすい時期であることを、社会も家庭(家族)も女性自身も知らずに対応できていないのが現状です。
自身の身体に起こる大小さまざまな不調に10代の頃から当然のように対応してきている女性にとって、移行期のホルモン変動による不調は、これくらいは平気と考えやすく見逃しがちになります。自分自身が身体の変化を数値などから客観視できる機会を自動的に得ることができれば、身体のSOSに気づき、一度立ち止まって自分の行動を見直し考え、その結果適切な相談場所につながることでQOL(quality of life)が格段に上がるかもしれないという考えが社会で共有されることを目標に、さまざまな分野が参加することで社会全体での支援を可能にする体制の充実と、多様な支援メニューの開発、法的基盤の整備などが提言に盛り込まれました。
例えば家庭において、妻であり母である女性が自分でもコントロールできないホルモン変化による体の不調に悩まされている時、自らや家族、職場や役所などが正しい知識をもって多方面から不調をサポートできる社会になれば家庭内不和や熟年離婚などの問題も回避することが可能なのかもしれない、と高階氏。
女性の健康課題を放置することは大きな社会経済的なロスでもあることを社会全体が理解するのは非常に重要な観点だと話しました。
男性のみならず女性自身も自分の体のことを知らない
実際、自身の身体の不調について解決策に悩んでいる女性はすごく多いと西山氏も話します。
【西山氏】 調査すると、企業内で責任が上がるほど「更年期で辛い」ということは人に相談しにくく、また自分の体調は自分だけで何とかすべきと一人で思い悩んでいることがわかりました。一方で企業に対して女性の健康についての対策をしてほしいという要望も少なくないため、企業ゴトとして捉えて対策を講じる必要性は感じています。
女性の健康推進プロジェクト|大塚製薬 (otsuka.co.jp)
更年期をきっかけに退職やキャリアを諦める選択を余儀なくされる女性も少なくない中、女性に活躍してほしいという風潮がありながら、いまだ地盤が整いにくい現状を打破すべく、西山氏は国や企業や家庭が一丸となって静熟期を中心とする女性特有の健康課題について早急に考えるべき旨を提唱し続けると意欲を語りました。
「ワンストップで対応できる診療分野の確立」とは
上記のような包括的支援のポイントとして、提言の中に「ワンストップで対応できる診療分野の確立」が挙げられています。
女性特有の不調の診療は婦人科が最も適していると考えられがちですが、今回注目されたのは、個人が同時に抱えるさまざまな体の不調について、今の診療体制では症状ごとに診療科を受診し、それぞれの症状に応じた薬を多量に処方されるという多重診療の問題です。
家庭医や総合診療とは違った性差医療の切り口で総合的に診療ができる体制で、不調の根本部分をいち早く見つけ、そこから派生する症状の診断までを窓口一つで診られる体制の確立が急務であるとの考えが盛り込まれています。
若い世代の女性に向けたサポート
また、多様な支援メニューの提案の中には若い世代の女性たちを守り育てるための機構の整備についての言及もあります。
一例として、検診効率化の観点から特定の年齢に達すると推奨される女性特有のガン検診について、高階氏はそこに到達する前に罹患してしまう女性が何割いるかという問題に目を向け、若い世代に向けた診療報酬で格付けされないユースクリニックの整備についても、女性の健康支援に関する社会基盤を変える上で重要な点であると話しました。
【高階氏】 晩婚・晩産化の傾向が強くなる現代日本において、生涯の生理回数が格段に増えたことにより子宮内膜症や卵巣嚢腫に罹患する若い世代の女性が増え、それらはまた不妊の一因にもなります。自分の健康に関心をもち、小さな疑問を解決したり、その年代に適切な検査方法を知ったり、婦人科に行かなくても自分の健康について気づき知る機会を持つために、義務教育期間からの女の子のための、診療所以外の健康相談場所を整備することは地域に喫緊の課題であると考えます。
若い世代の女性に対して、婦人科の受診に限定しないさまざまな検査法や相談場所を用意し、一緒に話しが聞けて課題共有できる機会を与えることで、将来の健康リスクに若い時期から備える機会がもてる女性も増えてくるのではないでしょうか。
女性の身体や健康についてネイティブに
同じく西山氏も、男女問わず若い頃から「女性の健康」に関してネイティブに育てれば、大人になってなぜ「女性の健康」を学ぶ必要があるのか?と疑問に思う人が少なくなると思っています。子どものうちから女性の身体の仕組みや健康について啓発していくことの大切さと、それがもつ別の重要な側面に言及しました。
【西山氏】 小さい頃から正しい知識をもっていれば、静熟期にあたる母親の体調の変化や不調に対して子どもから母親へ労ることができる、そうすればここでも母親が自分の身体を見つめ直すきっかけがうまれるのではないかと考えています。静熟期世代への啓発も大切ですが、若い子たちへの啓発が進めば、子どもと一緒に学ぼうという姿勢をもつお母さんたちも増えてくるのではないでしょうか。
自分の健康はセルフコントロールする時代
続いて西山氏は静熟期におけるセルフケアの重要性についても言及しました。
【西山氏】 大半の人が更年期症状で辛くても病院に行かず、何のケアもしていない方がいらっしゃる現状ですが、今は不調を我慢する時代ではなくコントロールする時代。静熟期に向かう女性たちには、食事や運動、サプリ摂取のみならず、定期的に検診に行く、かかりつけ医をもつといった「新セルフケア」を推奨していきたいと思っています。
何かが起きてからではなく今の段階でどうしていくか「知って対処する」という概念が根づくことを願って活動しています。また、女性の健康セミナー終了後、「もっと早く知っていればよかった」と言う声をよく耳にする事からYouTubeで「女性ホルモンの働きについて」情報発信しています。
医師にすべてを委ねるのがゴールではない
健康課題に取り組む上では医師にすべてを委ねることを安心できるゴールのようにとらえがちな面がありますが、こと医師不足の問題も大きい現在においては、医師や診療科の拡充といった改革では、ある意味で個人の健康意識が無責任になる危険性も孕んでいると高階氏は指摘します。
西山氏も言及しているように、「人生100年ビジョン」においても健康のセルフコントロールは重要なポイントとして挙げられており、個々が自分の健康を自分で守り、対処できる能力を身に着けるための機会をどのように提供していくか、それぞれの年代に即したさまざまな場を用意していくための方法に重点が置かれています。
報告書では、行政や地域・家庭の人との対談、AIやデジタルツールの活用など、広くさまざまな方法が可能であることが示されており、すべてを医療と診療に特化させるのではなく多くの分野の企業や団体が参加することで、一時代前には叶わなかった個人個人に合った、より良いアプローチ法を見つけられるのではないかと高階氏は話しました。
自治体・地域で「MYヘルスプラン」の作成支援を
また、今回取りまとめた報告書では、自分の人生を100年とした上で個々がそれぞれの人生の進み方や多様な形に合わせてライフステージごとに考える「MYヘルスプラン」の作成を支援し、それぞれの人生の節目でそのプランを取り入れられる環境を整備することを、自治体や地域に向けて提案しています。プランを作成することで人生に起こりうる健康課題やライフイベントを理解し、変化を自分ごととして向き合って選択できる機会を、企業・自治体・学校などさまざまな場所で系統的に用意していきましょうという提案です。
これらを地域ごとのヘルスポイントに融合させたり、地域の健康づくりの中にいかせる箇所があれば積極的にピックアップするといった自発的なアクションが期待されています。
また、厚生労働省や経済産業省では、企業が女性の健康課題解決とその人らしい生き方をサポートするために新たに導入する事業に対してさまざまな補助金制度を用意しており、より多くの企業や民間でそのような事業が広く展開されることが期待されています。
これらの制度を利用した各企業の動きがモデル事業として先行することで、多様なアイディアがうまれるきっかけになり、来年度予算の拡充に向けた前向きな要素となるため、積極的に取り組んでほしいと高階氏は話しています。
これからの課題
本稿で取り上げてきた意識改革を形にするためには、女性議員の発言は子育てや介護のことばかりなどと思われている中で、社会や家庭で得てきたさまざまな経験を形にしたいという気骨のある女性議員が適切な場で意見表明でき、交渉して政策をまとめられる土壌を整えることの必要性を強く感じると説く高階氏。そのための議論や問題分析の手法を学び、政策提言の例などを議論する勉強会も精力的に主導し、地方議員や国政の候補者も誕生しているといいます。
きっかけさえあれば地道に撒いた種が育ち大きな力になる――。政治が変わる可能性を感じる今、フックになる「女性の」という言葉をしばらく顕示することで、さまざまな場所で「ウーマンリブではない、女性のウェルビーイングな人生100年を実現するための意識改革」が興ることを目標に、秋以降の法案提出に向けた準備を始めていきたいと話しました。
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