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[用語解説]選挙公営、供託金、文書図画

なり手不足の加速か、立候補の促進か―町村議と町村長選挙に関わる公職選挙法の改正 (2020/12/11 関東学院大学経済経営研究所・客員研究員 本田正美)

2020年12月12日から施行

 2020年12月12日に、改正された公職選挙法が施行される。改正法は2020年6月12日に公布済みだが、その対応の準備や周知が必要なために、施行まで半年の期間が設けられていた。

公職選挙法の一部を改正する法律の施行について(通知)総務省

 今回の改正点は主に3つであり、いずれも町村議会議員選挙および町村長選挙に関わる事柄である。

公職選挙法

第1の改正点「選挙公営の拡大」

 第1は、「町村議会議員選挙および町村長選挙における選挙公営の拡大」である。

 すぐに分かるように、ポイントは「選挙公営の拡大」の部分である。選挙公営とは、公職の選挙の運動に関わる費用を国や地方公共団体が負担する制度のことである。

  1. 選挙運動用の自動車の使用
  2. 選挙運動用のポスターの作成
  3. 選挙運動用のビラの作成

 候補者が行う上記の選挙運動に関わる費用は公費によって負担されることになり、候補者が負担せずに済むのだ。上記の他に、選挙運動に関わる新聞広告や政見放送についても候補者はその費用を負担する必要がない。

 また、ポスター掲示場の設置や選挙公報の発行、演説会の公営施設使用といったことについても候補者は費用負担をせずに済む。

 ただし、すべての候補者が費用負担をせずに済むわけではなく、供託金没収点を下回る得票数の場合には、上記の1から3などの公費負担は受けられなくなり、自費負担となる(供託金没収点は、衆議院議員の小選挙区や首長選挙では有効投票総数の10分の1)。

 既に国政選挙や都道府県議会議員選挙、首長選挙では、選挙公営が採用されていたが、この程の公職選挙法改正により、町村議会議員選挙や町村長選挙についても条例を定めることにより選挙公営を採用することが可能となった。具体的には、上記の1から3について選挙公営を採用することが可能となった。

町村の選挙における公営拡大と供託金導入について

町村の選挙における公営拡大と供託金導入について(総務省)

第2の改正点「ビラ頒布の解禁」

 第2は、「町村議会議員選挙におけるビラ頒布の解禁」である。

 これまで町村議会議員選挙では、ビラ配布が禁じられていた。厳密に言うと、公職選挙法では、選挙期間中の文書図画の配布について、選挙管理委員会の交付する証紙を貼ったものだけ、その配布を認めていた。交付される証紙の枚数には選挙ごとに差があり、例えば衆議院議員選挙の小選挙区であれば7万枚、一般の市の市長選挙であれば1万6000枚といった具合に、選挙の規模感に応じて枚数が決まっている。

 この選挙運動に関わるビラの配布が町村議会議員選挙では行うことができなかったところ、今回の法改正により、それが解禁され、枚数は1600枚とされた。

第3の改正点「供託金制度の導入」

 第3は、「町村議会議員選挙における供託金制度の導入」である。

 これは第一の選挙公営の拡大とも関係している事項であるが、これまで町村議会議員選挙に立候補する際に供託金を寄託する必要がなかった。その他の公職選挙では、立候補時にその選挙に応じて設定された額の供託金を寄託する必要があり、例えば衆議院議員の小選挙区や都道府県知事選挙であれば300万円、都道府県議会議員選挙であれば60万円、一般の市の議員選挙であれば30万円の供託金が必要とされた。

 このような中で、町村議会議員選挙についても供託金制度が導入され、その額は15万円となったのである。

 供託金制度が選挙公営と関係するというのは、選挙公営で公費負担により選挙が実施されるために、誰でもむやみに立候補できないようにするために供託金制度が採用されていると言われているからである。

 選挙の供託金については、諸外国と比較して日本は高額であるとされている。特に「なり手不足」が言われる町村議会議員の選挙で供託金制度を導入することは、一層のなり手不足を加速させてしまう可能性があるのかもしれない。

 ただ、供託金については、多くの場合、返還されることになることは知っておくべきだろう。地方議会議員選挙の場合には、有効投票総数と議員定数の商をさらに10分の1にした数が供託金没収点とされ、これを下回る得票数の場合には供託金が没収になる。地方議会議員選挙で落選した大半の候補者がこの供託金没収点を優に超える得票数となっている。

地方選挙の通常葉書とビラの頒布枚数、供託金の額

改正の影響はいかに

 現実問題として、町村議会議員選挙において供託金制度を採用したとしても、大半の候補者は後に返還されることになる。よって、供託金制度の導入についての影響は軽微であり、むしろ選挙公営の拡大やビラ配布の解禁によって得られる利点の方が大きく、選挙運動がやりやすくなることから、立候補が促進される可能性もあるように思う。

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