[用語解説]担当大臣、組閣
菅新内閣発足―担当大臣には2種類ある (2020/9/17 関東学院大学経済経営研究所・客員研究員 本田正美)
「○○担当大臣」とは
菅新内閣が成立した。
組閣のたびに、「誰がどの大臣に」ということが話題になるが、何となく分かっているようで分かっていないのが「○○担当大臣」の存在である。
この「担当大臣」には、2つの種類がある。報道では、あまり区別せずに扱われることもあるが、それぞれ厳密に異なる存在である。
その2つとは、「内閣府特命担当大臣」と「内閣の担当大臣」である。どちらも略称で「○○担当大臣」とされるため、一見したところ分かり難いが、異なる存在である。
内閣府特命担当大臣とは
まず分かりやすい方の内閣府特命担当大臣から。こちらは、内閣府設置法第9条に以下のような規定がある。
第九条 内閣総理大臣は、内閣の重要政策に関して行政各部の施策の統一を図るために特に必要がある場合においては、内閣府に、内閣総理大臣を助け、命を受けて第四条第一項及び第二項に規定する事務並びにこれに関連する同条第三項に規定する事務(これらの事務のうち大臣委員会等の所掌に属するものを除く。)を掌理する職(以下「特命担当大臣」という。)を置くことができる。
2 特命担当大臣は、国務大臣をもって充てる。
内閣府特命とあるように、内閣府に置かれる大臣が内閣府特命担当大臣である。内閣府が関わる様々な政策テーマに基づき特命担当大臣が置かれるが、以下は法律に基づき必置とされている。
- 沖縄及び北方対策担当(内閣府設置法第10条)
- 金融担当(内閣府設置法第11条)
- 消費者及び食品安全担当(内閣府設置法第11条の2)
- 少子化対策担当(内閣府設置法第11条の3)
それら必置の担当以外では、経済財政政策や科学技術政策、防災といったところが平成以降で必ず任命されている特命担当大臣である。
その他は、内閣府設置法第4条に列挙される所管事務のうちでも、それぞれの内閣が重要と位置付ける事項に関わり特命担当大臣が置かれるため、常に置かれているわけではない。例えば、規制改革担当は第2次安倍政権以降で、地方創生担当は第3次安倍内閣以降で置かれている。安倍政権の前には、それらの担当の特命担当大臣は置かれていない。逆に、前の民主党政権下でだけ任命されていた特命担当大臣もある。
内閣の担当大臣とは
もうひとつの内閣の担当大臣は内閣府特命大臣と比べると少々分かり難い存在だが、内閣官房が担当する施策につき、その指揮に当たらせる大臣がこれに当たる。
内閣官房が担当する施策は多岐にわたるため、その中でも特に重要と目されるものにつき、担当大臣が置かれる。
例えば、先の第3次安倍政権では、麻生財務大臣は、内閣府特命担当大臣(金融)とデフレ脱却担当を務めていた。このデフレ脱却担当は、正式には「デフレ脱却を推進するため企画立案及び行政各部の所管する事務の調整担当」である。
このように、ひとつの内閣の担当大臣を兼ねる例どころか、同じく先の第3次安倍政権では、梶山経済産業大臣のように、内閣府特命担当大臣(原子力損害賠償・廃炉等支援機構)も務めた上で、産業競争力担当・国際博覧会担当・ロシア経済分野協力担当・原子力経済被害担当と複数の担当を兼ねる例も見受けられる。
なお、内閣府特命担当大臣は、内閣府設置法第12条に基づき、自らの所掌事務について関係する行政機関に資料提出や説明を求め、勧告を行う権限を有する。さらに、当該関係行政機関の長に対し、その勧告に基づいてとった措置について報告を求めることもできる。
対して、内閣の担当大臣には、そのような法律に基づく明確な権限がない。
複数の担当を兼務する理由
内閣法第2条では以下のように規定されている。
第二条 内閣は、国会の指名に基づいて任命された首長たる内閣総理大臣及び内閣総理大臣により任命された国務大臣をもつて、これを組織する。
2 前項の国務大臣の数は、十四人以内とする。ただし、特別に必要がある場合においては、三人を限度にその数を増加し、十七人以内とすることができる。
ここだけ見ると、国務大臣は17人が上限ということになるが、内閣法の附則により、東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部が置かれている間や復興庁が廃止されるまでは、その担当大臣を置く関係で、条文中の14人のところは16人に、17人のところは19人とすることとされている。さらに、万博特措法の附則で、もう一人の増員を可能としている。よって、菅内閣での大臣の上限は20人となる。
大臣がトップを務めるのは、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省、復興庁、国家公安委員会(警察庁)の11省2庁である。これに官房長官が加わる。それらの大臣ポストは兼務されることが少なく、14人分の席が埋まることになる。2020年現在であれば、20人から14人の引いた残りの6人が内閣特命担当大臣(あるいは内閣の担当大臣)ということになる。
「○○担当」を多数兼務する大臣がいるのは、大臣が指揮すべき政策テーマの数と比して任命することのできる大臣の人数が必ずしも十分とは言えないからである。