[当事者と地方議員]派遣社員・非正規―おぐら修平足立区議 (2019/4/8 政治山)
4年に一度の選挙シーズン。地方自治体選挙にも注目が集まっていると思います。人によってはマイナスの要因として見られることもあった課題・特性を持った5人の方に取材しました。課題を抱えながら社会をどう考えていたか、選挙に出て、議員となって何を感じたか?なぜ当事者が必要かを答えていただきました。
おぐら修平 足立区議会議員(3期)派遣社員
大学卒業後、弁護士事務所のアルバイトや日雇い派遣、イベントスタッフなどを経て、その後派遣社員で2年半勤務、26歳から議員秘書になりました。2007年初当選。現在3期目。
議員になる前、当事者として選挙、政治への思いは
秘書になった頃は、将来、選挙に立候補するという気持ちはまったくなく、勉強して政策秘書の資格を取って、国の政策立案に携わりたいと思っていたのですが、当時は浪人中代議士でそんな余裕はなく、次の選挙に向けての街頭活動や地域活動に奔走していました。
議員事務所には、いろんな方からの生活相談がとにかく多く、高齢者の方が年金だけで暮らしていけない、都営住宅に入りたいとか、若い子育て世代の方だと保育園やDVなどの相談だったり。そういう生活相談がたくさんある中で、特に社会的弱者、マイノリティの声がなぜ政治に届かないのかという思いがだんだん募ってきたのです。
これを何とかしたいと、変えるには地域に一番身近な区議会議員だというのが、立候補を決意した一番の理由です。
結局、物事決めるのは「お偉いさん」というか、政治・行政に近い一部の方たちだけで決められている構図にも疑問を感じていました。
サイレントマジョリティ(声高に自分の政治的意見を唱えることをしない一般大衆)という言葉がありますが、足立区の区議選の投票率はだいたい45%から48%くらいで、例えば、都心に通勤しているサラリーマンの方とか、政治に縁もゆかりもない方、そもそも投票に行かない無関心層や、誰に投票したらいいかわからない方もたくさんいる。そういう状況をもっと変えていきたいと。もっと政治との接点を作っていきたいと。
私自身、大学生の頃に当時、民主党学生部で活動している学生(泉健太 衆議院議員、村井宗明 元衆議院議員)にたまたま出会わなければ政治の道に進むことはなかったと思いますし、縁もゆかりもない方たちに対して政治を身近にしたいという想いは強かったですね。
いつも大学生の夏休み・春休み期間にインターン生を受け入れているのですが、若い方たちにもっと政治を身近にという思いからです。
非正規雇用から秘書、そして選挙。
秘書時代に経験したのが、学歴とか経歴で判断されるということ。
私が仕えていた代議士は慶應出身で「先生は慶應だから秘書さんも慶應なの?」と聞かれて「僕は関西の方の文学部だけの小さな大学で…」と言うと、「あ、そうなの」という冷たい反応がかえってきたり(苦笑)、「秘書さんの前は何をしていたの?」と聞かれ、「秘書の前は派遣社員で…」と言うと反応が急に変わったりと、肩書きで判断されるのだと。
アルバイトの時のおぐら、派遣社員の時のおぐらと、衆議院議員公設秘書のおぐらと、区議会議員のおぐらで周りの扱いが全然違うのです。当然でしょうが(苦笑)。
親しい方はその時にどんな肩書きだろうと関係なく変わらないのですが、知らない方の私に対する接し方は、その時にどういう職に就いているか、肩書きでこれほど変わるものかと。
当事者として実際に当選してから感じた事や取り組み
初めて立候補する時にブログを「派遣社員から政治の道へ」というタイトルにして情報発信しました。街頭でも非正規雇用の改善など訴えましたが、街頭活動や地域の方と話をしていてまったくと言っていいほど反応はなく、むしろ、ご年配の方からは「大学出てまで就職せず派遣なんてみっともないから言うのをやめなさい」とも言われましたね。
スーパーの前で演説していて「息子がなかなか就職でき来なくて」などと声をかけてくれる主婦の方が、何人かいたくらいでしょうか。
そういえば、10年ほど前の年越し派遣村の時に、派遣社員出身ということでマスコミから取材を受けて記事になったことがありましたが、それも一過性の話で。
経済右肩上がりの時代と、就職氷河期の時代では認識がまるで違うなと。非正規の話を地域や街頭で言っても響かない。役所の中でもなかなか理解されないという歯がゆさを感じましたけど、一方で、役所の中で問題意識を持っている管理職の方もいて、例えば、自分のお子さんとか、周りの若い方がなかなか職に就けないで悩んでいるとか。
特にマイノリティ(少数派)や生活困窮などの課題は、当事者や関係者でないとなかなか理解されないという難しさは今も感じているところです。
当時と状況が変わる 派遣・非正規はマイノリティでもなくなったが
私が派遣社員の頃より、非正規の割合はどんどん増え待遇も悪くなり、若い方は非正規が当たり前のような状況になっています。区役所で働いている方たちは全員正規職で定年まで安定して働けると思われがちですが、区役所の3割から4割は非正規で非常勤職員や臨時職員、指定管理者(公共施設の管理委託等を民間事業者に委託)などです。
足立区では住民票発行業務などの窓口の外部化、民間委託が進んでいて、そこで働いている方々が派遣の短期契約だったりします。引退した同じ会派の先輩議員は「役所がワーキングプアを作ってるじゃないか」と控室でよく愚痴をこぼしてましたね。
非常勤職員は1年契約で更新は最長5年などが多く、窓口の外部化で働く民間の方は短期契約の派遣などで、その方たちの待遇は一体どうなってるの?と。
繁忙期やイベントなど短期間だけ人手が必要ということなら臨時職員や短期の派遣も理解できなくもないですが、「窓口の仕事は、短期でなくずっと続くのに、そこで働いている方たちが数カ月の派遣の契約更新、更新で不安定雇用はおかしくないですか?」と議会で質問するのですが、「法的には問題ありません」とか役所は答弁するのです。
「その条件どうなの?待遇改善しないといけないのじゃないの?正規職になりたい方はそういう道を作るべきじゃないの?まず、望んで非正規で働いているのかどうか調べるべきだと」いつも議会で取り上げているテーマです。
なぜ当事者が必要か?当事者にできることとは?
足立区の人口は約68万人。世代・年代も職種も生い立ちもそれぞれ違って、多種多様な方たちが街を形成しています。その中には、障がい者の方もいれば、外国人、学生、主婦、高齢者、子育て世代など様々です。
雇用形態も正社員、派遣社員・契約社員・アルバイトなどの非正規、また、会社経営者、自営業、商店主、専門職の方など、いろんな方たちがいて、多様な声を挙げて物事を決めていくというのが民主主義の最善たるプロセスではないでしょうか。
その中で、特に社会的弱者とかマイノリティの声がなかなか届かない。そもそもどうしたらいいかわからない、というのを秘書時代から何度も目の当たりにしてきましたし、派遣社員や非正規の経験で当事者として実感してきました。
議員は住民の代弁者であり、私の持論として、いろんな年代、いろんな考え、多種多様な経歴や年代の方たちで議会が構成されてしかるべきだろうと。
議員が同じ考えや同じ年代の方だけだったら、政策、制度が必ず偏りますし、多様な意見をくみ取って物事を決めるというプロセスができません。
あと、何事も当事者や家族、普段関わっている関係者でないと、それぞれの抱えている課題とかその状況について、なかなか理解されないというか実感がわかないというか。
非正規、社会的弱者、生活困窮、マイノリティの話とかは、自分自身なかなか職に就けなかった経験や、いろんな非正規を経験したこと。秘書時代から数多くの生活相談を受けてきたからこそ、一生懸命取り組んでいますが、そうでなければ、ここまで取り組むこともなく、話を聞いてもなかなか実感してなかっただろうなと未だに思います。
だからこそ、いろんな当事者、課題を抱えた方の声を代弁する議員は絶対に必要だと思うのです。
これからの時代、議員のやる事はたくさんある
今の時代、行政のやるべき範囲が広がっていて、官民誰がやることなのか線引きが難しく、議員のやることも山ほどあります。机上の空論でなく、地域の暮らしに根ざして実際に起きている現場の課題を可視化することが重要じゃないかと思うのです。事件は現場で起きる。現場に魂ありで。
特に、これまで人の命に関わることや、社会的弱者やマイノリティが抱える課題というのを重点的に取り組んできました。例えば、足立区で引きこもりの若者(足立区内に推計約1,500人)とか、ニートの若者(推計約3,500人)の置かれた状況ですが、学校卒業後、職に就けずにアルバイトも経験したことがなかったり、高校中退となると就職したくても履歴書で弾かれるわけです。
特に新卒でもなく、職歴がなくアルバイト経験もなければ、どこにも雇ってもらえないわけですよ。これはインターンよりも実践的に少しずつステップアップしながら訓練する場が必要だと議会で質問して、全国で初めて「あだち仕事道場」という職に繋げるためのいわゆる中間的就労の制度ができ、区内企業の協力をいただき、スーパーの商品の検品や整理、靴の箱詰め作業など、NPOのスタッフが一緒についてサポートしながら訓練を実施しています。
この取り組みに厚労省も注目して、少しずつ全国に広がっていきました。これまで誰も取り上げることもなかった話です。こういうのは議会の果たす役割として大きいなと。毎年数十人の若者がアルバイトや就職とか自立にむけてステップアップしているので、この制度ができて本当に良かったです。引きこもりの相談窓口の設置も議会質問で実現したのですが、この制度で毎年、数十人の若者が次に向けてステップアップしているので、とても嬉しいです。
あと、議会質問が実現して、荒川河川敷にAEDが設置されましたが、実際に心肺停止で倒れた方の命が助かったという話を聞いて、本当に良かったと。人の命が救われたわけですから。
ただ、これで自己満足してはいけないといつも自分に戒めているところで、もっと街を歩き声を聴き現場を見て、皆さん一人ひとりに寄り添い、引き続き頑張っていきます。
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社会には様々な課題があります。そうした課題を持つ方も含めた多くの住民で地域は構成されます。選挙の際、候補者の様々な活動やプロフィールにも関心を持っていただければと思います。
※統一地方選挙は、各道府県知事、道府県義、政令市議などを選ぶ選挙が行われる前半戦は4月7日投票。市区町村長、市区町村議を選ぶ後半戦が4月21日投票です。
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おぐら修平プロフィール
昭和49(1974)年5月4日生 三重県尾鷲市出身 44歳
英知大学文学部卒業後、派遣社員や様々な非正規雇用を経験。藤田幸久衆議院議員秘書などを経て、2007年の足立区議選で初当選、現在3期目。足立区議会 立憲・民主の会 幹事長、千住消防団第8分団班長、官製ワーキングプア研究会会員、自治体政策青年ネットワーク事務局長(全国若手地方議員の政策研修会)など務める。「すべての人に居場所と出番を」理念に掲げ、貧困問題や非正規雇用を重点政策として取り組む。
■趣味:バンド活動(メタリカなどスラッシュメタルのベース、ギター)、料理、ボクシング観戦(友人が元プロボクサー)
おぐら修平氏プロフィールページ
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