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[当事者と地方議員]LGBT―石坂わたる中野区議 (2019/4/4 政治山)

 4年に一度の選挙シーズン。地方自治体選挙にも注目が集まっていると思います。ちょうど、4年前の2015年の統一地方選挙の際には、渋谷区長選に立候補を表明した長谷部健氏(現区長)が、LGBT(性的少数者)の方々へのパートナーシップ制度導入を掲げて全国的な話題にもなりました。また、選挙といえば子育て中の親であることや、出身校、地元育ちかどうかや、資格や職歴など候補者のもつパーソナルな部分も特徴の一つとして、候補者のウリにされることも多くあります。私たちは自治体、議会をどう考えるべきでしょうか?

 今回は、人によってはマイナスの要因として見られることもあった課題・特性を持った5人の方に取材しました。中にはそういった課題と社会の共存の難しさを、実際に経験してきた方もいます。それぞれ、LGBT(性的少数者)、高校中退、引きこもり、非正規雇用、産後うつ、シングルマザー、発達障害、自死遺族、てんかんといった特性を抱えている皆さんです。

 課題を抱えながら社会をどう考えていたか、選挙に出て、議員となって何を感じたか?なぜ当事者が必要かを答えていただきました。

 今回、お話をうかがった方は東京都の区議会議員ばかりになりました。人の流出入も多く、町内会の力も縁も薄くなっている大都市東京で、地方議会はどういった役割を果たすべきでしょうか? 国会のような大きなテーマでもなく、首長のように強大な決定権を持つわけでもない自治体議員とは? そこに様々な課題の当事者がいることで何が起きるのか?自治体や選挙を身近に考える一助となればと思います。

     ◇

石坂わたる 中野区議会議員(2期)LGBT(性的少数者)

 石坂さんは一度選挙に出て落選(2007年中野区議選)。2回目の挑戦(2011年)で初当選の過去を持ちます。現在2期目。

議員になる前、当事者として選挙、政治への思いは

 当事者のいろいろな活動に参加をしていました。自分以外のマイノリティ、障がい者関係の活動にも参加していましたが、自分の中の気持ちとしては多数の側が当事者の気持ちを汲んでくれることはないと、そう簡単には聞いてはもらえないんだろうと思っていました。

 2007年当時は、テレビやメディアなどでも真面目に扱う番組もありましたが、まだまだ面白おかしく扱う番組が当たり前で、当時はまだLGBTという言葉も広がっておらず、身近な飲み会や職場でLGBT等を揶揄するような言葉が飛び出すような環境がありました。また、自分自身、知的障害養護学校の教員をしていましたけれども、養護学校の教員は障がい者関係の人権意識についてはそこそこあるはずなのですが、LGBTに対しては差別的な発言がポンポン出る状況は一般社会と変わらなかったですね。

 「その辺を変えていかなければいけないけど、ちょっとやそっとじゃ変わっていかないだろうな」と思いつつ、じっとしていたら何も動かないので、何かをしなければならない。当時付き合っていた連れ合いと一緒に、候補者にアンケートを送って回収し、ネットにアップしたりしましたね。

差別は、制度や待遇などで酷い扱いを受ける場合と、日常的に軽く扱う、馬鹿にしていいというような扱いを受ける場合とがある

 ジェネレーションギャップも大きいですね。リベラルとか保守ではなく。

 自分は賃貸でマンションに連れ合いと住んでいましたが、管理組合の会合でうちの大家さんに対して「なんでゲイカップルに貸しているの?」という話がされたりしたこともありました。大家さんは「家賃もらっているからいいい」と突っぱねてくれましたけど。

 連れ合いが胆石で入院した際、「本人意識のある状態での入院だから、入院同意書と手術の同意書はあなたのサインでもいいけど、麻酔をしての状態で胆のうを摘出し、その時に別のものが見つかった場合は、あなたは親族ではないので、その追加の手術の同意はあなたではできない。本人意識が回復したら意思確認を行う」と言われましたね。

 ちなみにマンションの話は、連れは嫌がりましたけど、二人そろって一緒に防災訓練とかに出るということをあえてしていたら、周りの空気が変わってきました。

 2007年の選挙の時は、ゲイの候補者を見て笑ってもいいというような有権者もいたように感じますね。今は、スタンスの違いはあっても、LGBT(性的少数者)の課題を多くの方が認識しました。

石坂わたる 中野区議会議員

石坂わたる 中野区議会議員

当事者として実際に当選してから感じたことや取り組み

 2007年の選挙時、ゲイの当事者で選挙に出るというのは稀有な例だったので、ボランティアもたくさん来てくれての選挙となりました。その状況でLGBT関連の事に力を入れてほしいという意見も強くなっていきましたが、自分の考えは少し違っていて、街頭で演説していると立ち止まってくれる方の中にシングルマザーの方とか事実婚の方もいたので、選挙が終わり、落選が確定した際に、支援者からは「LGBTに特化するべきだった」という意見もありましたが、「そうでない。繋がれる方がもっといるはずだ」と思っていました。

 2011年は「いろんな人と繋がる、いろんなマイノリティの方と繋がる」という事をテーマにして選挙に臨みました。集まってくれるボランティアの方は激減したけれども、票は伸びて当選しましたね。そうした経験をして議会に入ったので、議会の中でも、最初からこの人たちに言っても判らないだろうというのではなく、やっぱり人と人との関係の中で分かってくれる人を増やしていこうと考えて行動に移しました。

 カミングアウトして当選をした後にも、議員同士の中でLGBTを揶揄する人もいましたが、拳を振り上げるよりは「こういうこともあってね」という持っていき方をする。そうすると、自分が議員になる前に「中野区議会でLGBTが増えるなんてトンデモナイ」という主旨の発言をしていたような議員が、視察の時にみんなで食事をして終えて、一番数の多い集団から打ち上げに誘われた時、その方に呼ばれて「たぶん、あのグループは女の人がたくさんいる店に行くから、石坂さん面白くないでしょう?私たちと一緒にカラオケに行こう」と別の集団に誘ってくれたということがありました。

 一緒に仕事をしていく、議員をやっていく中で人と人とで分かり合えることもあるんだと。それまでは「戦う事が必要だ」と2007年選挙に出たんだけど、その後の落選の4年間、議員になってからの経験を考えると、もっと別の形で理解してくれる人を増やしていけるんじゃないかと思うようになりました。

――石坂さんの質疑は細かいことに当事者として深く踏み込んでいるように感じます。

 それこそ、保守的な会派であっても議員であっても「でも、実際にこうした例が中野区民にはいますよね?困ってますよね?何とかしないといけないんじゃないですか?」と言えばそう簡単にはNOとは返せないんですよね。一個一個、困りごとをつぶしていく中で、これは既存の制度の運用を改善しなければならないとか、制度を変えなければならないとか、そういうことについて個別具体的な所から外堀を埋めていく必要がある。

 (LGBTは最近、話題になってきましたが)雰囲気が変わりましたね。渋谷のパートナーシップ制度ができてから、賛成するか反対するかは別として、真面目な課題と捉えられるようになりました。「自分はやったほうがいい」「いや反対だ」という声はありますが、テレビの中のお笑いじゃないんだ、現実の問題なんだと捉える方が多くなってきました。

なぜ当事者が必要か?当事者にできることとは?

 自分自身も共通した経験をしていること、加えて、同じ当事者の方から一定の信頼はしてもらいやすいということがあります。トランスジェンダー、Xジェンダーの区役所職員の方と会って話をしたこともありましたね。

 でも、難しい部分もあって例えば中野区で住宅の住み替え支援の話なのですが、高齢者、ひとり親世帯、障がい者を抱えた世帯などを対象とした、区が住まい探しを支援する制度があるのですが、その対象の中に「その他」というものがあって、そこに同性カップル、障がい者同士のルームシェアを入れ込んでいくよう進めることができました。

 ある日、区内の当事者の方から「石坂さんが住まいを紹介してくれると聞いたのですが……」と電話がありました。「私が議会で取り上げて、制度が拡充されました。必要であれば私も一緒に窓口に同行しますよ」と答えたところ、「担当職員に自分がゲイだと知られるのは嫌だから、それなら、やっぱりやめておきます」とのことでした。

 また、当事者の議員だから困った時に相談してみようというケースもありました。さらに、区内の施設職員などから「利用者の中で当事者の方がいて、どう対応をすればよいかわからない。どんなことについて悩んでいるのかが判らないから、石坂さんの意見を聞きたい」ということを言われたこともありました。

当事者同士のスタンスの違いもおきる

 同じ当事者であっても考え方も積み重ねてきた経験も違うので、意見がぶつかる事もあります。パートナーシップ制度を中野区で進めるために、前段階として、外堀を埋める作業をし、他のマイノリティとも連携していく。LGBTの中でもダブルマイノリティ、貧困を抱える方、障害を抱えて相談にいらした方々のケースや、それらのケースに共通する問題を取り上げて支援の必要性についての理解を広げていく。そして、私は「中野だったら話せばわかるはずだ」と考え、全会派、反対する会派がいない状態でパートナーシップ制度を進めようとしました。これについて、当事者の中からは物足りなさを感じた方もいらしたようで、「石坂のせいで時間がかかった」とか、制度の中身について「当事者の想いが100%通らなかったじゃないか」との批判を受けたこともありました。

 LGBT当事者に冷たい態度を取った職員に関して「その区の職員をやめさせろ!」との連絡が入ったこともありました。これに対して自分のスタンスを貫き、「議員が職員を辞めさせることはできないし、そもそも、辞めさせるより、わかってもらうことが大切なんですよ」と伝えると、そこを不満に思う方もいました。

 また、私はLGBT当事者、障がい者、貧困など共通する課題をピックアップして取り組んでいますが、「LGBTが障がい者とかと一緒に見られるのが嫌だ」という方もいました。「福祉の対象・障がい=悪いもの、ネガティブなもの」という見られ方があり、私はそこも引っかかりました。「そういうあなたの中に障がい者への差別意識があるのではないですか?」と言いたくなることもありました。それが障がいなのかどうか、それが障がいじゃないものであったとしても地域で生活や様々な活動をしていく中で周囲の偏見があれば、それを解決していくのは、障がいもLGBTも変わりませんから。そういうことを障がい児教育に関わった経験とLGBTの当事者の目線を活かして発信できるのは、良かったと思います。

同じ課題・特性を持った方へのメッセージ

 LGBTに関係する事に取り組むことが、当事者の中からも、「ほっといてほしい」「ネガティブな面を取り上げないでほしい」「(活動家や政治家がいなくても)時代は動いていくんだ」という方もいますけれども、だれかが動くことで社会が動くわけです。誰かが声を上げて取り組んでいくことで一時、偏見を助長することもあるかもしれないけど、長い目で見て社会やしくみを動かしていくためには、一時的には避けられないこともあるかと思います。

 また、当事者じゃない区民の方に「自分には関係ない」とか、「障がい者特権や、多数者の側の不利益につながるんじゃないか」という方もいます。しかし、それはセーフティーネットの目を細かくすることで、様々な困っている人が救われていくことにつながります。結果的に、いざという時に誰もが支えあうことができ、みんなが暮らしやすい社会になっていきます。

 「みんながサポートを得られるという事に繋がっていくので、誰かの困りごとを解決していくというのは、みんなの底上げになっていくんだよ」ということに多くの人に気付いてほしいと思います。そのためにも、いろんな人とつながること、様々な人と一緒に何かをする経験が大切です。自分もLGBTの殻にこもらずに、障がい者や外国人の方々とも一緒にやっていきたい。様々なベースがある人が一緒にいろいろなことをやっていくことが回り回ってみんなの幸せになるのだと思います。

 マイノリティ問題に関して、議会で取り上げることとか、支援を手厚くしていくことについて強く反対する人の中に方には、その人もマイノリティであったり、マジョリティの中でもギリギリのところにいる方が多いような気がするんです。そういう方の話をよくよく聞くと批判をされている方自身が崖っぷちにいたりします。むしろマジョリティの中で盤石な位置にいる方でマイノリティへの支援等について反発する方は少ないような気がしています。マイノリティの支援に反対する人がマイノリティで、弱い立場にいるんです。社会の支援は椅子取りゲームでなくて、躓いた人は誰でもフォローされるんですよというふうにしていきたいですよね。

※次回は、シングルマザー・貧困の当事者として、三次ゆりか江東区議にご登場いただきます。

石坂わたる 中野区議会議員

石坂わたるプロフィール
昭和51年9月11日生 東京都出身 42歳
「他人と違う」と虐めにあい、幼稚園の登園拒否を経験。同性愛者である罪悪感から始めた障がい者ボランティアが性に合い、仕事に。私立養護学校教諭、公立校障害児介助員、区役所外国人登録担当任期付職員、区立教育センター職員(発達障がい児の巡回指導や心理検査)、専門学校非常勤講師、成年後見人等を経験。LGBT自治体議連世話人、東京若手議員の会前代表代行。
資格:教諭(幼・小・中《社、国》・高《地・公・商》・養護学校・司)、保育士、精神保健福祉士、ホームヘルパー、認定心理士、職業訓練指導員《事務科》、初級シスアド、MBA(in Social Design Studies)、行政書士、防災士、甲種防火・防災管理者
石坂わたる氏プロフィールページ

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