「公務員は市民を幸せにする力がある」全国の地方公務員を勝手に表彰 (2018/9/12 政治山)
8月20日から25日にかけて、地方自治体を応援するウェブメディア『Heroes of Local Government(HOLG.jp)』が、『地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード2018(以降、地方公務員アワード)』の結果を発表し、全国12名の地方公務員が『すごい!地方公務員賞』を受賞した。
はたして地方公務員アワードとはどのようなものなのだろうか。開催の背景や目的を、地方公務員アワードを運営する株式会社ホルグの代表取締役、加藤年紀氏に伺った。
企業から地方公務員への熱視線
――ホルグ社の活動と地方公務員アワードについて教えてください。
弊社は2016年10月に創業し、「『人の根源的な幸せに繋がるが、儲からない事業』を、維持可能なビジネスへと育てる」という経営理念のもと、HOLG.jpというウェブメディアを運営しています。地方自治体で活躍する地方公務員に光を当てながら、成功事例を実務レベルに深掘りをして分析するようなメディアです。
地方公務員アワードは2017年から開催し、今年は2回目となりました。応募の特徴的な点は、まず、自薦ではなく他薦であることです。これはと思う“すごい”地方公務員の推薦文を書いて応募してもらいます。また、応募ができるのは地方公務員のみで、審査員もいわゆるスーパー公務員と呼ばれる地方公務員です。
従来、地方公務員に光が当たる際は、地方創生などの分かりやすい文脈で、派手な取り組みが中心でした。ただし、その中にはコストパフォーマンスや持続可能性に疑問符が付く施策も存在します。そのため、活躍する地方公務員が「すごい!」と感じる地味な活動にも、光が当たるようにしたいと考えました。
また、企業には公務員へ、公務員には企業へと、互いに興味を持ってほしい。その思いから、電通やPRTIMES、LIFULLなどの企業に協賛をお願いし、「電通賞」などを公務員個人に授与しているのも特徴です。
WIN-WINとなる官民連携が進む
――どのような方が「すごい!地方公務員」賞を受賞されましたか?
例えば、有田川町(和歌山県)の中岡浩さんは、県営ダムで放流されていた水を利用する発電所を設置し、年間5000万円の売電収入を獲得しました。また、寝屋川市(大阪府)の岡元譲史さんは精力的に滞納整理に取り組み、約35.8億円あった市税滞納繰越額を9年間の間に約19.5億円まで減らしました。
また、川崎市の木村佳司さんは大企業の開放特許(他社に有料などで使用させることを目的として、一般公開している特許)を中小企業に紹介する仕組みを作り、これまでに25件のライセンス契約と18件の製品化につながりました。
他にも、大阪府の領家誠さんは、府内の自治体や商工会・商工会議所、大学、金融機関などが参加するネットワークを構築し、本音で語り合うセミナーを毎週約2回、年100回という驚異的なペースで開催し、電通賞とのW受賞となりました。
叩かれ続ける公務員
――地方公務員アワードの目的は?
自治体職員が活躍しやすい環境構築が目的です。公務員に対するイメージは世間一般ではあまり良くないですよね。実際に、地方公務員アワードの取材記事がヤフーニュースなどに出た際に、コメント欄には「このイベントに税金使ってないよな?」など、否定的なコメントが書き込まれました。そういう風土が生む損失は大きいため、それをなくしていきたいと考えています。
ちなみに、弊社が勝手に地方公務員アワードを開催しているので、もちろん、税金は入っていません。ただ、仮に税金が使われていたとしても、それによって組織の人材確保や、退職率の低減、モチベーションの維持向上などにつながれば、最終的には市民に恩恵が返ってきます。企業も様々な切り口で社員表彰を行いますが、それは人材戦略の一環でもありますよね。公務員だからという理由で、何から何まで目くじらを立てる必要はないと思っています。
メディア運営から派生的に広がる仕事
――HOLG.jpはサイトオープンから2年が経ちました。事業の状況はいかがでしょうか。
2年間で自治体職員の方に知っていただく機会は格段に増えました。一方、アワードの協賛や、テレビ東京さんとのタイアップなども進み、大手企業からの認知度も高まるとともに広告掲載依頼も増えました。残念ながら、メディア単体ではまだ利益はありませんが、メディア事業を通じて得た人脈や知識をもとに、別の形でお金をいただくことも多くなりました。
例えば、自治体の有識者会議の委員を拝命したり、FORBES JAPAN.comやダイヤモンドオンラインなど大手経済誌への執筆、民間企業へのコンサルティングやアドバイザリーなどを行うようにもなりました。税金を企業の食い物にはしたくないので、自治体にメリットのない商品を売り込んだりはしていません。近年、行政に費用負担が生じない官民連携も増えていますが、お金の動きの有無にかかわらず双方にメリットがある連携を支援したいですね。
なお、少し変わった動きでは、元市長のビジネスの立ち上げを支援しています。若くして優秀な首長が、2期(8年)か3期(12年)で退職した後、生活に不安を覚えるお話は良くお聞きします。もし、首長の引退後のビジネスを支援できれば、全国の首長が任期中から既得権益者などの顔色を伺うことなく、様々な改革を大胆に進めることが可能になるのではないかと考えています。
地方公務員は市民を幸せにできる
――今後の展望を教えてください。
地方公務員は市民を幸せにする力があります。全国には約90万人の自治体職員が存在していますが、職員が成果をあげやすい環境を構築することで、日本全体の幸福度に寄与したいと思っています。
そのためにHOLG.jpはもちろん、影響力の大きい他社メディアの力をお借りしながら、活躍する公務員やその事例にもっと光が当たるようにしたいです。さらに、今後はWIN-WINとなる官民連携や、解禁に向かいつつある公務員の副業の支援、そして、前述した首長経験者の支援なども積極的に行っていきたいと考えています。
事業的な部分はやや優等生的に答えてしまいましたが、本音を言うと、喜んでくれる人や、共感してくれる人がいたら、単純にそれだけでも良いような気もしています。実は、地方公務員アワードを開催して一番嬉しい瞬間は、受賞者の方々が身近な人から祝ってもらえた時です。
「昨日、義兄から受賞祝いの金一封をもらいました。しばらく義兄に逆らえません(笑)」と連絡をもらえたら、それだけでアワードを開催して良かったと思えますよね。
他にも、「正直なところ賞の価値はよくわからないのですが、身近な人から褒めてもらったのが一番嬉しかったです。とても励みになりました」と、少し“傷つく”ことを仰る方もいましたが(笑)、そういった人たちが存在している限りは、これからも地方自治体を応援していきたいと思っています。
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加藤年紀(かとうとしき) 経歴
株式会社ホルグ代表取締役社長。2007年4月に株式会社LIFULLへ新卒入社。2012年5月に同社インドネシア子会社『PT.LIFULL MEDIA INDONESIA』の最高執行責任者(COO)/取締役として日本から一人出向。子会社の立ち上げを行い、以降4年半ジャカルタに駐在。社員数を約40名まで拡大し、累積黒字化を牽引。
同社在籍中、2016年7月に地方自治体を応援するメディア『Heroes of Local Government(www.holg.jp)』をリリース。2016年9月に同社退社後、2016年10月に株式会社ホルグを設立。三芳町魅力あるまちづくり戦略会議政策アドバイザー。forbesjapan.comオフィシャルコラムニスト。ニュースイッチ(by日刊工業新聞)ファシリテーター。
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