【カラーユニバーサルデザインを考える・後編】黒板の文字がはっきり読めるチョーク、導入は各校判断へ (2018/3/16 カラーユニバーサルデザイン推進ネットワーク)
カラーユニバーサルデザイン推進ネットワーク(以下、CUDN)は人間の色覚の多様性に配慮し、より多くの人に利用しやすい配色を行う「カラーユニバーサルデザイン」の考え方を社会に浸透させるため、色弱者(眼科学会では色覚異常者)にとっても色の識別がしやすくなったチョーク(以下、色覚チョークと呼ぶ)を、全国の学校に普及させる取り組みを行っています。
前回に続いてCUDNの事務局を務める伊丹市議会議員のやまぞの有理氏、松戸市議会議員の関根ジロー氏、NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構の伊賀公一氏・田中陽介氏へのインタビュー後編をご紹介します。
――色覚チョークのメリットを教えてください。
【やまぞの】 色覚チョークを導入・使用すれば、色弱の子供を含めたすべての子供たちが従来のチョークよりも黒板の文字が見やすくなるだけではなく、教師が二色のチョーク以外の色も気にせず使用することが可能になります。その結果、学習環境の向上が見込まれます。
文科省が指導するチョークの使用法
【伊賀】 文部科学省は、2003年に策定した「色覚に関する指導資料」の中で、「黒板上に赤・緑・青・茶色などの暗い色のチョークを使用することを避けるようにする」と記載し、「白と黄色のチョーク」の使用を推奨しました。また、「白と黄以外の色チョークを使用する場合には、アンダーラインや囲み」をつけるなどの色以外の情報を加えます。」との記載もあります。全国の学校現場では、この「色覚に関する指導資料」に沿って授業が行われています。
【関根】 僕は定期的にインターンの大学生を受け入れていますが、長野県出身の学生は「自分が通った公立小中高校では、先生は白と黄色のチョークしか使っていなかった」と話しており、自治体によっては赤青緑などのチョークを完全に使わないといった自治体もあるようです。
【田中】 でも、黄色チョークの中には白と区別しづらいものがあるのが現状です。また、完全に白と黄色のチョークのみ使用するという一部の自治体を除き、学校現場では少なくとも赤はかなり使っているということがわかっていて、その他のチョークも割合は少ないが、算数などで複雑なものを判別させるために使用されていることがわかっています。
色覚チョーク普及の課題
――色覚チョークの価格は?
【伊賀】 色覚チョークと、色覚に配慮されていない従来のチョークは、製造会社の価格では同じ価格です。現在、日本国内で複数のチョーク会社が色覚チョークの製造を行なっています。製造にはチョーク会社に加え、大学教授やNPO法人カラーユニバーサルデザイン機構が携わり、どの色の配合であれば、色弱の子供たちによく見えるか研究を重ねて色覚チョークを開発しました。
【関根】 一方で、学校は製造元から直接チョークを購入する場合の他に、販売店を通して購入するケースもあるようです。その場合、販売量が多い従来のチョークが安くなるという現象が起きています。でも、これは色覚チョークの販売が増えれば増えるほど、色覚チョークの価格も安くなる、という話です。加えて、色覚チョークが従来のチョークよりも高いと言っても、1本のチョークにしてみると“数円”だけ高いという話であり、価格が導入を妨げる問題とは思えません。
【やまぞの】 ですから、色覚チョークが全国の学校現場で普及していない要因は、価格ではなく、文部科学省「色覚に関する指導資料」が「白と黄色のチョーク」を推奨しているためだ、と私たちは考えています。同資料が策定された当時は、「白と黄色のチョーク」は、色弱者に対する配慮として画期的だったのかもしれません。
でも、人間の色覚の多様性に配慮し、より多くの人に利用しやすい配色を行った製品や施設・建築物、環境、サービス、情報を提供するという「カラーユニバーサルデザイン」の考え方が社会に普及し始めており、その一環として白と黄色以外の色でも暗くなく、さらになるべく見分けやすくするために色相、明度、彩度を工夫した五色(白/朱赤/黄/青/緑)の色覚チョークが開発された今、見直しが必要になっているのではないでしょうか。
導入後、「文字がはっきり見えるようになった」との反響も
――色覚チョークの導入の実績を教えてください。
【関根】 2017年3月の予算委員会で色覚チョークの導入を松戸市教育委員会に求め、その結果、同年度は複数校で色覚チョークの導入が始まりました。その後、同年12月議会において、松戸市内全65校ある小中学校に色覚チョークの導入を求める提案をしたところ、市教育委員会は「先行で色覚チョークの導入をしている学校から『赤い文字がはっきり見えるようになった』『以前より文字が明るくなり、線の輪郭がはっきりするようになった』等の声が寄せられたことから、2018年4月から小中学校で全面導入する」ことを明らかにしました。
【やまぞの】 伊丹市においても2017年9月議会において色覚チョークの導入にむけて提案したところ、当時は色覚チョークが未導入であり、導入を検討したいという答弁でした。その後、2018年3月議会で再度、色覚チョーク導入にむけて提案したところ、小学校では17校中7校、中学校では8校中2校が色覚に配慮されたチョークを導入したこと、今後とも色覚チョークの導入・使用の拡大を図っていくことが明らかになりました。またCUDNに所属する全国の超党派地方議員も、同じようにそれぞれの議会において、色覚チョークの導入にむけて提案を行っており、全国で色覚チョークの導入が加速しています。
色覚チョークの取扱いは各学校に委ねる
――今後の取り組み教えてください。
【田中】 2018年2月16日に櫻井シュウ衆議院議員にご協力頂き、政府に対して「『色覚チョーク』に関する質問主意書」を提出しました。質問主意書の質問項目は以下の3点です。
- 白と黄色のチョークを主体に使うのではなく、色覚チョーク(白/朱赤/黄/青/緑)を主体に使うことを推奨する考えはないか、政府の見解を伺う。
- 「色覚に関する指導の資料」には「白と黄以外の色チョークを使用する場合には、アンダーラインや囲みをつけるなどの色以外の情報を加えます」とあるが、色覚チョークを使用した場合には色以外の情報を加える必要がなくなると考えるが、政府の見解を伺う。
- 色覚チョークが全国の学校現場で普及していない要因のひとつとして、「色覚に関する指導の資料」において「白と黄のチョークを主体に使います」と記載されていることが挙げられるが、「色覚に関する指導の資料」を見直しし、政府として色覚チョークの使用を推奨することを全国の学校現場に通知するべきであると考えるが、見解を伺う。
【伊賀】 同年2月27日に質問主意書への答弁が出され、下記4つのことが書かれていました。
- 「色覚に関する指導の資料」における「白と黄のチョークを主体に使います」や「白と黄のチョーク以外を使用する場合には、アンダーラインや囲みをつけるなどの色以外の情報を加えます。」との記載は、「白と黄以外の色チョーク」の使用自体を否定するものではなく、黒板の文字等が児童生徒にとって識別しやすいものとなる配色や工夫の具体例を示したものである。
- 授業においてどのようなチョークを使用するかは、黒板の文字等の識別のしやすさ等の観点から、各学校において適切に判断すべき。
- どのようなチョークを使用するとしても、黒板の文字等が識別しやすいものとなる配色や工夫がなされる必要がある。
- 現時点では「色覚に関する指導の資料」を見直す必要はないと考えている。
以上のことから、「国としては色覚チョークの取り扱いの是非を評価しない、各学校に委ねる」、「各学校が『色覚チョークは黒板の文字等が識別しやすいものとなる配色や工夫がされているチョークだ』という判断をすれば、色覚チョークをその学校で使用して問題ない」ということだと思われます。
この答弁を受けて、CUDNは継続して下記の取り組みを行ってまいります。
- 引き続き、国に対して、国は「色覚チョークが黒板の文字等が識別しやすいものとなる配色や工夫がされているチョークだ』と判断するのか、等の見解を伺っていく。
- 同時並行で、全国の地方議会において色覚チョーク導入にむけて提案していく。
【関根】 政治山のウェブサイトに掲載されたことを契機に、社会に改めて色覚チョークが認知され、全国で色覚チョークの導入を求める社会の声が更に高まることを期待し、私たちも色覚チョークをはじめとした教育現場でのカラーユニバーサルデザイン推進にむけて引き続き力を尽くしてまいります。
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関根ジロー(せきねじろう) 松戸市議会議員 [ホームページ]
マニフェスト大賞3年連続7度受賞/【発起人・事務局】カラーユニバーサルデザイン推進ネットワーク、避難者カード標準化プロジェクト、東葛政令市移行推進協議会、学校トイレの洋式化推進ネットワーク、選挙公報.com/松戸市議会議員(2期連続最年少当選)/1984年生/上本郷小・明大明治中高・明治大法卒。明治大学公共政策大学院(池宮城秀正ゼミ)修了/前職はNTT東日本/O型・かに座・子年
関根 治朗氏プロフィールページ -
やまぞの有理(やまぞのゆり) 伊丹市議会議員 [ホームページ]
1985年8月伊丹生まれ・伊丹育ち/明治大学公共政策大学院修了(北大路信郷ゼミ)/マニフェスト大賞受賞(第11回12回と連続受賞)/2011年伊丹市議会議員選挙において1507票を得て初当選(当時25歳最年少当選)現在2期目 無所属/
山薗 有理氏プロフィールページ -
田中陽介 NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構 副理事長
1968年神奈川県生まれ。学生時、就職活動を通じ自身の色覚のハンデを痛感する。就きたい職業がパイロット、刑事、レスキュー隊員だったが、米国では色覚異常者であっても“夜間飛行禁止”等条件付きで操縦士になれることを知り、大学卒業後に資金を貯め1991年渡米、米国FAA Private Pilot certificate取得。同年運輸省自家用操縦士技能証明(固定翼)取得。1995年より家業に従事する傍ら色覚問題研究グループぱすてる世話人を務める。2003年まで色覚110番、色彩検討協力事業を担当。2004年NPO法人CUDO発足メンバーとなり現在、副理事長。2011年より東商カラーコーディネータ―検定試験認定講師。 -
伊賀公一 NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構 副理事長
1955年10月徳島県生まれ。P型色覚の色弱者。早稲田大学社会科学部を中退し全国無銭旅行ヒッピー生活の後、アップルコンピューターディーラー役員、ベンチャー企業役員などを経て2007年「ソラノイロ」を設立。「自由研究者」として多様な文化へのITの関わりを支援。2004年だれにでもわかりやすい配色を普及させ、だれもが自分の色覚に誇りを持てる社会の実現のために、NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構の設立に参画し副理事長に就任。1級カラーコーディネータ 湘南工科大学 デザイン科 特任講師。2009年グッドデザイン賞 団体ディレクターとして受賞。著書「色弱が世界を変える(太田出版)」他。
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