[用語解説]電子投票
疑問票ゼロ、按分なしの電子投票 (2016/1/26 政治山)
2002年2月に電磁記録投票法(※)が施行され、条例を定めた地方選挙において電子投票を行うことが可能となりました。当時は開票作業の時間短縮や投票の簡素化、そして投票の正確さなどがメリットとして挙げられ、多くの自治体が導入を検討しました。
同年6月の岡山県新見市における市長選と市議選を皮切りに、全国に広まるかと思われた電子投票ですが、岐阜県可児市の選挙無効判決、神奈川県海老名市の異議申立などを経て、現在では2つの自治体で行われるのみとなっています。
電子投票とネット投票は、似て非なるもの
現在実施されている電子投票は、多くの人が思い浮かべるであろう「インターネット回線等を用いた投票」(以下、ネット投票)とは異なり、従来通り投票所に赴き選挙人確認の後に投票を行います。
2013年6月の「インターネットを用いた選挙運動」(以下、ネット選挙)解禁の際には、ネット投票も可能になると勘違いした有権者が少なからずいました。ここで、それぞれの違いを明確にしておきます。電子投票は、以下の3段階に大別することができますが、ここで述べる「電子投票」は第2段階のみを指しています。
- 第1段階 投票所内でマークシートやパンチカードを用いて投票し、電子機器を用いて集計すること
- 第2段階 投票所内に設置された電子機器の、タッチパネルやボタンを操作して投票すること(電子投票)
- 第3段階 インターネット等のネットワークを用いて、遠隔地から投票すること(ネット投票)
実質的な「白票」も受け付ける電子投票
1月17日に実施された青森県六戸町議補選では、同日実施予定だった町長選(無投票)とあわせて準備が行われ、電子投票が行われました。新見市と六戸町、電子投票を行う2つの自治体にサービスを提供しているのは、電子投票普及協同組合(EVS)で、その手順は以下の通りとなっています。
- 1.「投票所入場券」を投票所に持参し、受付を済ませる
- →従来の選挙と同様、選挙人名簿に照らして本人を確認する
- 2.投票カード交付係より「投票カード」を受け取る
- →個人情報を一切含まず、1人1枚使用する
- 3.投票機に「投票カード」を差し込み、投票する
- →カード挿入後、タッチパネルに候補者名が表示される
- 4.「投票カード」を抜き取り、回収箱へ入れる
- →カードの情報は初期化され、使い回す
投票箱を用いる選挙では、一番初めに投票する人が「その箱が空であること」を確認しますが、電子投票の場合は最初に投票カードを差し込んだ人が、その投票機が受け付けた投票数が「0票」であることを確認します。
投票用タッチパネルでは、投票したい候補者名を選択し、「○」と「×」の確認画面を経て投票を終えます。「×」を選択すると候補者を選ぶ画面に戻ります。首長と議員など複数の選挙の投票を行う場合はこれを繰り返します。
また、候補者名を選択する画面には「投票しないで終了する」という選択肢も用意されており、実質的な白票を受け付けることが可能で、その票数も公表されます。
開票作業は15分、投票者の負担も軽減
当日は午後8時に投票が締め切られ、記録媒体は封印されて開票所に運ばれ、立会人が確認します。午後9時から始まった開票作業は15分ほどで終わり、選挙長の挨拶と説明、立会人の確認作業などを除くと、集計作業はほんの数分で完了しました。投票結果は以下の通り。
投票総数……3,098(有効投票3,098、無効投票0)
(内訳)
電子投票による投票数……3,025
不在者投票など投票用紙による投票数……31
電磁的記録式投票機の操作を途中で終了した者の数……42
電子投票では、投票用紙への誤記入や他事記載、判読不能や疑問票も生じないため按分も行われません。42人は投票所に赴き、明白な意思をもって投票せず、投票所を後にしたことが分かります。
投票所から離れた場所で待機していたEVS担当者は、「高齢者への負担も少なく体の不自由な方へのメリットも大きい。集計作業の効率化による開票時間の短縮よりも、投票内容を正確に選挙結果に反映することが大事」と電子投票の意義を語りました。
その言葉を裏付けるように、投票を終えた70代の女性は「立ったまま名前を書くのは辛かった。電子投票には不安もあったけど慣れればこちらのほうが楽」と笑顔で答え、同じく30代の男性は「なぜ他の選挙や他の地域ではやらないのか」と首を傾げていました。
なお、選挙終了後は異議申し立てなど事後の検証に備えるため、投票機器は2週間、記録媒体は当該選挙の任期満了までの間保全されます。
※地方公共団体の議会の議員及び長の選挙に係る電磁的記録式投票機を用いて行う投票方法等の特例に関する法律
- <著者> 市ノ澤 充
- 株式会社パイプドビッツ 政治山カンパニー シニアマネジャー
政策シンクタンク、国会議員秘書、選挙コンサルを経て、2011年株式会社パイプドビッツ入社。政治と選挙のプラットフォーム「政治山」の運営に携わるとともにネット選挙やネット投票の研究を行う。政治と有権者の距離を縮め、新しいコミュニケーションのあり方を提案するための講演活動も実施している。