【コラム】2020年には30兆円を創出する市場になるIoTとは 株式会社フィスコ 2017年3月20日
「IoTとは何か?」、よくある解説では「Internet of Things」の略で「モノのインターネット」と説明している。政府は4月の産業競争力会議で、新3本の矢で目指すGDP600兆円経済の実現に向け、新たな有望成長市場創出を目玉とする成長戦略の全体像を示している。そのなかで、IoTやビッグデータ、人工知能、ロボットの活用による第4次産業革命により、2020年には付加価値創出30兆円を目指すとしている。
モノのインターネットとは、「モノ」がインターネットにつながることであるが、「モノ」の定義としては、「ありとあらゆるモノがインターネットに接続する世界」のことを指している。個人の生活においては、冷蔵庫や洗濯機がインターネットにつながることかもしれないという一方で、生産現場においては工場のラインがインターネットにつながること、また、身近なところでは電力システムでIoT化が進められており、例えば、スマートメーターによる電力使用量の把握、発電設備の遠隔制御、スマートグリッド(次世代送電網=供給側・需要側の両方から制御し、最適化できる送電網)のような地域単位でのエネルギー管理などで、欠かせない技術となっている。
ただし、IoTで「データを集められるようになった」だけでは意味がなく、そのデータを活用し、事業やサービスにいかに付加価値を持たせるかが重要なポイントになる。例えばインテルの事業戦略ではメモリ、プロセッサに続く新しい成長基盤と位置づけており、クラウドやデータセンター、ネットワーク技術等に積極的に投資していく考えである。付加価値といえば、蓄積したデータをいかに有効に使うことができるかであろう。
IoTビジネスの流れとしては、関連テーマとなると幅広い分野に広がる。まずは、(1)「センサー」でモノから情報を取得する(センシング)、(2)インターネットを経由して「クラウド」にデータを蓄積、(3)クラウドに蓄積されたデータを分析するほか、「人工知能」を活用、(4)分析結果に応じて最適な環境や行動指示(アクチュエート)が行われる(ヒトにフィードバックする)となる。
(1)のセンサーによる取得では、温度センサー、湿度センサー、加速度センサー、人感センサー、音声を取得するもの、静止画や動画など、様々なモノから情報を取得することになる。(2)「クラウド」にデータを蓄積するでは、クラウドに保存することによって、パソコン、スマートフォンなど様々な機器で情報を出し入れすることができる。(3)データの分析では人工知能を活用することにより、最適な指示を(4)モノにフィードバックすることが出来るということ。そしてこれが事業は1社で行うのは難しく、センサーなどの企業や、クラウドや人工知能などで得意分野を持つ企業による提携や協業が増えることが考えられる。
いかに付加価値を持たせるかが重要となるなか、IoT事業による急成長の局面はまだ先と考えられ、現在は活発な投資等を行うステージにあるとみられる。まずはシステム開発等を行うソリューション企業が潤い始めているところであろう。大手電機企業などは、苦戦するパソコンから撤退する一方で、クラウドのほか、ToT関連の投資増に伴い、企業向けシステム開発が拡大していくと考えられる。
また、日本企業のシリコンバレーへの興味が急速に高まっているとの報道もある。多くの日本企業の幹部がイノベーションを理解するためにシリコンバレーを訪れているようであり、現地のスタッフたちはこれを「イノベーション観光」と呼んでいるようである。
注目されるのは、日本企業がシリコンバレーに注目するのは、3回目ということ。1回目は1980年代から90年代にかけてのパソコンに代表されるハードウエアであり、2回目は90年代の終わりから2000年代初頭の、インターネットがテーマだった。そして、今回は、AIやフィンテック、IoTへの期待が高まっているという。また、これまでシリコンバレーに興味を持つ企業の多くはIT関連企業だったが、IoTでは全ての日本企業を支えることになるとみられており、様々な企業が関心を示している。
最近の企業の動きとしては、ソフトバンクグループ<9984>が、アラブ首長国連邦(UAE)とカタールの政府系ファンドに対し、サウジアラビアと設立する1000億ドル(約10兆円)規模の投資ファンドへの出資を呼びかけた。資金はIT分野の有望な技術を持つ世界の企業に投じるとしており、市場観測ではAIやフィンテック、IoTへの投資が有力とみられている。このような中、12月には米衛星通信ベンチャーのワンウェブに10億ドル(約1170億円)を出資すると発表。超小型衛星を使って世界中のどこでもインターネットに接続できる通信網の構築を目指している。株価は6900円処で推移していたが、これを受けて12月半ばには一時8000円を超えている。また、7月には英半導体設計大手アーム・ホールディングス(ARM)の買収を発表。同社はインターネットが登場した1990年台半ばに米ヤフーに出資したほか、モバイルインターネットが登場した2000年台半ばには英ボーダフォンの日本法人を買収するなど大型投資を行ってきた。ARMへの買収額は約240億ポンド(約3兆2千億円)。今回の大型出資は次のパラダイムシフトであるIoTに将来を賭けたことになり、同時にIoTの成長期待が一層高まることになる。
また、京セラ<6971>は、IoT用の低価格通信網の運営を始めると発表。KDDI<9433>や村田製作所<6981>など約40社が通信網を使ったIoTサービスやセンサー、通信機器を開発するとしている。IoTについては、ドイツが国を挙げて製造業の高度化に取り組むなど海外が先行するなか、IoTに欠かせないセンサーや通信部品は日本勢の得意分野ではある。世界に対抗する攻めの姿勢によりIoT分野での成長の可能性が一段と高まることになろう。
その他、国の取り組みとしては、特許庁は11月14日、IoT関連技術の特許分類を世界に先駆けて新設した。来年から順次、特許庁が一般公開している特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)を通じてIoT関連技術に関する特許情報を網羅的に収集・分析することが可能となる。これにより、IoT関連技術の研究・開発が効率的に進むことや、どのような事例が特許として登録されているのかを把握し、同技術に関する特許取得の予見性が向上することが期待される。特許取得の予見性が高まることで企業の研究開発も積極的になる可能性が考えられ、IoTに関連する技術を持つシステムを手掛けるソリューション企業の成長が加速する可能性がある。そのため、ソリューション企業を中心に、足元の業績において既にIoTに関連する事業が収益に寄与してきている企業のほか、IoT関連分野を中核事業として投資を強化している企業への関心は高まることになろう。
さらに、IoTの普及が拡大するとともに、サイバー攻撃が大きな脅威となってきている。これまでのパソコンやスマートフォンではモニター画面、メールからサイバー攻撃を受けている状態が確認できた。しかし、IoT機器は感染に気が付きづらく、ネットワークに接続してある駐車場の監視カメラ、つまりIoT機器がサイバー攻撃の発信元であったとの報道もされている。自動車や住居などは10年以上使用する訳だが、自動車では勝手にプログラムを書き換えられる可能性があるだろう。住居では火災報知機やインターホン、エアコン、テレビなど様々なものがネットワークにつながり、利便性が高まる一方で、サイバー攻撃の脅威にさらされていることになる。IoT機器は2020年には500億台を超えると予測されており、セキュリティ需要は高まることだろう。12月半ばには米ヤフーが、10億人を超えるユーザーの情報に関する新たな情報漏えいを公表。9月に表面化した同社ユーザー情報の流出とは別件で、規模はそのほぼ2倍となった。
情報インフラの構築とアプリケーション・サービスを展開するテクマトリックス<3762>は、米ヤフーの報道を受けて株価は1750円処から2000円の大台を回復。2017年3月期第2四半期の業績をみても、情報インフラ構築の情報基盤事業は負荷分散装置の販売が頭打ちになるも、サイバー攻撃対策などのセキュリティ需要の旺盛な伸びによってセキュリティ対策製品やセキュリティ監視サービス、ストレージ製品の好調などで同事業の売上高は前年同期比1.6%増、営業利益は同27.0%増であった。サイバー・セキュリティ対策製品を展開するFFRI<3692>は、IoT機器のセキュリティについて、パナソニック<6752>と共同研究を始めると発表。3300円処で推移していた株価は1週間程度で4600円を超える急伸をみせた。また、12月21日上場した セグエグループ<3968>は、ITシステムにおけるITインフラ及びネットワークセキュリティ製品に係る設計、販売、構築、運用、保守サービスを一貫して提供する「ITソリューション事業」を展開する。サイバー・セキュリティ関連としての人気も高まり、初値は公開価格(1700円)の3.2倍となる5500円。さらに初値形成後はストップ高となる6500円まで上昇し、買い気配と市場の関心の高さが窺えた。
<SK>
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