【休日に読む】一尾仁司の虎視眈々(2)◆入国規制混乱と欧州の重石◆ 株式会社フィスコ 2017年2月5日
一転調整、入国規制大混乱と欧州の重石
週末からのトランプ令による難民・テロ懸念7カ国からの一時入国規制は世界的な大混乱となっている。「良いとこ取り」をしてきた米株式市場だが、さすがにブレーキが掛かった。こういう激しい綱引きは、当初から想定されていたので、市場反応は比較的冷静に見えるが、先行き不透明感は引き続き重石となろう。
仮に入国規制混乱がなくとも、昨日の欧米市場は重い動きになった公算がある。イタリア、ギリシャの国債が売られ、欧州情勢の重い部分が圧迫したためだ。米国がダメなら難民は再び欧州に流れ込むと連想してもおかしくはないが、本質的には不良債権問題の改善が進んでいないためであろう。ドイツの好調が目立ち、欧州全体が以前のような危機感に包まれるとは思われないが、各国の選挙を控え、欧州の重いムードは足枷になる公算がある。
30日実施されたイタリア10年国債入札は利回り2.37%と14年10月以来の高水準(前回12月は1.77%)となった。既発10年国債利回りは2.31%、15年7月以来の水準、ドイツ国債との利回り格差は186bp。銀行不良債権問題に加え、政情不安が圧迫している。支援策にIMFが参加するかどうかが懸念材料になっているギリシャは10年物国債利回り7.76%、昨年11月初旬以来の水準。独財務相はIMFが支援から抜けた場合、ギリシャのユーロ圏離脱を主張するとしている。IMFはギリシャの公的債務が「爆発的に膨らむ恐れがある」とEUの対応が不十分と批判している。IMFは2月6日に理事会を開催予定。株式はドイツ1.12%安に対し、イタリア2.95%安、ギリシャ3.53%安。
一方、ドイツの独走感が強まっている。1月のインフレ率は前年同月比1.9%と約3年半ぶり高水準。前月の1.7%から上昇し、ECBの2%目標に接近した。預金金利がほぼゼロ状態なので、9月総選挙に向け、国民不満に転化するリスクがある。そのため、ECBに緩和策縮小の議論を始めるよう求める声が出始めており、オーストリア中銀のノボトニー総裁は「政策スタンスは6月に初めて見直すが、買い入れ策縮小はない」と牽制している。
また、独IFO経済研究所は16年のドイツ経常黒字が過去最高の2970億ドルに達するとの推計を発表した。中国の推定2450億ドルを抜き、世界最大になる。欧州委や米国は不均衡是正、成長押し上げに向け、内需促進や輸入拡大を求めてきたが、ドイツは今のところ聞く耳を持っていない。そういえば、トランプ大統領は目立ってドイツ批判を行っていない(ドイツの対米黒字は748億ドル、日本の689億ドル、メキシコの607億ドルより多い)。難民問題でも姿勢が異なり、どう出るか、大きな注目点となろう。
米GSは「今年の欧州株リターンは8%、米株4%を上回る」との楽観論を示している。各国選挙の不確実性が取り除かれれば、の前提付きだが、ユーロ安、世界経済回復、原油相場回復を追い風と見ている様だ。果たして、スンナリと行けるかどうか。ユーロ=マルク化が進み、ユーロは下がり難くなっているし、ドイツと他国とのギャップ感が拡大している。そこに英国の離脱交渉、米国との摩擦が加わると、アジア以上に混沌としていると見られる。当面、欧州の重石を念頭に置いておきたい。
以上
出所:一尾仁司のデイリーストラテジーマガジン「虎視眈々」(17/1/31号)
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