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「女性が働きやすい社会は男性にとっても働きやすい」一緒に考えてみませんか? (2017/3/17 政治山)
「女性の健康週間」初日の3月1日、「女性が健やかに輝きつづける社会へ―Women’s Health Actionシンポジウム」が恵比寿ガーデンプレイスで開催されました。なぜ、今の社会では女性が輝き続けることができないのか?シンポジウムの内容を紹介しながら考えてみたいと思います。
シンポジウムの定員は700人で、関係者によると募集直後に満席になったとのことです。参加者の9割以上が女性で、テーマへの関心と期待の高さが伺えます。シンポジウムの冒頭では厚生労働省の有賀玲子氏と内閣府の大隈由加里氏から女性活躍の背景と取り組みについて紹介がありました。配布資料も充実していて、予備知識の無い参加者にも配慮された内容になっています。
現在、働く女性2500万人のうち17.1%が婦人科疾患に罹り、その経済的損失額は医療面、生産性面を合わせて6.37兆円にものぼると試算されています(日本医療政策機構「働く女性の健康増進調査2016」より)。政府の掲げる成長戦略に女性の活躍は欠かせません。多くの女性が社会で活躍する一方、婦人科系の病気の増加、不妊症、更年期の問題などが生じています。本シンポジウムの冒頭では吉村泰典 慶応義塾大学名誉教授より「現代女性のライフサイクルと求められる健康支援」と題して基調講演が行われました。
すでに病みたるを治せず、未だ病まざるを治す
吉村氏の基調講演の概要は以下の通り。
「近年、女性の勤続就業率が延びる一方で晩婚化・晩産化が進んでいます。昔の女性は一人で4~5人程度子どもを産むことが当たり前でしたが、現代女性は出産回数が減り、経験する月経回数が増加した事で女性ホルモンのバランスに大きな影響を与えております。女性ホルモンは女性の健康を維持する上で大事な役割を果たしており、その証拠に閉経を迎えて女性ホルモンが減少した更年期症状の女性は心筋梗塞などの病気に掛かりやすくなると言われています。また思春期の無理なダイエットが祟り、無月経になると女性ホルモンが減少し、骨密度に悪影響を与え、骨粗鬆症等の呼び水になるなど生涯の健康に影響を与えてしまいます」
「日本は各国と比較しても2倍から3倍の速度で高齢化しています。さらに男性の平均寿命と健康寿命の差は9.02歳、女性の場合は12.4歳と年々、寝たきりで余生を過ごす期間が長くなっています。そこで、これからは健康寿命を延ばすSuccessful Agingが重要になります。具体的には自分の体調を記録して自己管理を行い、悩んだ時は健康管理を助けてくれる『かかりつけ医』に相談することなどです」
「これまでは治療医学が主流でしたが、女性医学が見直されることで、予防医学へのパラダイムシフトが起きました。女性の健康を包括的にケアする体制と、正しい知識とエビデンスを提示していくことが重要ですし、女性の心と体を深く理解することは男性にも幸せをもたらします。最後に紀元前に記された中国医学の古典『黄帝内経』を引用し“すでに病みたるを治せず、未だ病まざるを治す”が医学の基本である」と締めくくりました。
続いてNHKの後藤繁榮アナウンサーによる司会進行でパネルディスカッションが始まりました。
女性の一生を守る女性ホルモンの働きとは
最近は女性の社会参加が進んでいます。独身女性を対象にした調査で結婚・出産後は仕事を辞めると回答したのが2004年には24%だったのに対して、2014年には6%と、ここ10年で女性の仕事への意識も変化しています。ホルモンケア推進プロジェクトの調査によると、更年期症状やPMSが原因で3人に2人の女性がキャリアを断念したり、考えた事があるという結果が出ました。基調講演にあった女性ホルモンの働きについて、NPO法人女性医療ネットワーク対馬ルリ子理事長のコメントを紹介します。
ホルモンの目的は子孫を残す、命を繋ぐことにあります。性ホルモンは脳から指令が出て卵巣や精巣から分泌されます。女性の場合は卵巣から出るホルモンが女性ホルモン、男性の場合は精巣から出るのが男性ホルモンです。女性ホルモンは生涯でティースプーン1杯分程度の分量しか分泌されません。
女性ホルモンにはエストロゲンとプロゲステロンがあります。卵巣で卵子を育てる際に働くのがエストロゲン、排卵後に妊娠を助けるために働くのがプロゲステロンです。卵子がなくなればエストロゲンが出なくなり、妊娠もできなくなりますし、女性の心と体にも影響を与えます。更年期とは卵巣の寿命の事で、人間の寿命が短い時代には問題になりませんでしたが、今では寿命が100歳近くまで延びたので人生の半分で更年期を迎える事になりますし、いざ産もうと思って産めない、働こうと思って働けないなどは社会全体としても深刻な問題になります。
更年期のメカニズムについて説明しましょう。卵巣がどのくらい働いているかは脳が見張っています。脳から働くように指令を出しても卵巣が答えられないと、脳は焦ってしまい自律神経に影響を及ぼします。めまい、動悸、そして感情や免疫が不安定になり、かつ病気になりやすくなります。
女性の人生の前半はホルモンがあって、後半はない。また、日本人全体の栄養バランスは乱れてきていますが、女性ホルモンが減る時期は意識的に大豆イソフラボンなどを摂取することをお勧めしています。大豆イソフラボンを摂取すると腸内細菌の働きで女性ホルモンがつくられることは知られていますが、日本人女性の2人に1人が大豆イソフラボンから女性ホルモン様作用のあるエクオールを体内でつくることができません。そういう方には大豆イソフラボンを発酵させたエクオールサプリメントの摂取をお勧めしています。エクオールには女性ホルモンに似た効果があって、骨を丈夫にしたり、体脂肪の抑制、美肌効果があると報告されています。
手遅れにならぬよう公教育で妊娠・出産・女性ホルモンの知識を
加齢に伴い妊娠する確率は減少します。35歳くらいから、妊娠率が下がり、流産率は上がります。40歳だと体外受精が成功して無事に出産できるのは10組から1組、45歳を超えると100組に1組くらいの割合になります。高齢出産が増えていますが、そのリスクを認識する事も必要です。一般的に50歳で閉経を迎えると言われていますが、40歳以上の出産がここ10年で3倍に増えています。不妊治療を受けて50歳で出産を経験した衆議院議員の野田聖子さんのコメントを紹介します。
不妊治療は計算通りにいきません。頻繁に通院しなくてはならず、大事な委員会の採決日と採卵日が重なり、採卵を見送ることも多々ありました。最初は余裕をもっていましたが、採卵を見送ることでストレスになりますし、体外受精の回数が増えれば精神的にも経済的にも負担になります。最近は国から不妊治療への助成金がつくようになりましたが、最初は保険適用にしようというという声もありました。しかし、「体外受精をしてまで子どもを産む必要があるのか」「成功率が低い」という理由で助成金制度になりました。
日本は不妊治療への助成で留まっていますが、その先のステップが用意されていません。海外では不妊治療でダメなら第三者の卵子、精子提供、養子縁組の制度など次のステップがあります。不妊治療を始めた時、体外受精の成功率が低い年齢という自覚が無くて発言したことが、ネットから批判されました。しかし誰もちゃんと教わっていません!妊娠出産を人生計画に入れるために妊娠・出産などの知識を公教育で教えることが必要です。
ハードワークの中で健康をマネジメントするセルフケアの重要性
元テニスプレイヤーの杉山愛さんは、1994年ウィンブルドン選手権から2009年全米オープンまで4大大会シングルス連続「62」試合出場しギネス記録にも認定されました。トップアスリートとしてハードスケジュールをこなし、ギネス記録に認定されるほどの自己管理力と回復力は他のプレイヤーからも参考にされていたほどです。34歳で現役を引退し、40歳で第一子を出産された杉山さんのコメントを紹介します。
34歳彼氏なしで現役を終え、引退後2週間で運命の人に出会って結婚することができました。その後、妊娠しても流産してしまったり、不妊治療を経て40歳と3日で出産しました。4カ月で復職したので、仕事と子育てを両立しています。女性は自分のキャリアが勢いにノッテいる時でも、結婚出産など決めなくてはいけないことが多くて大変です。
結婚や出産は自由だと思いますが、知らなかったら後悔してしまうのできちんと知識を得る必要があります。吉村先生が仰ったとおり、自分の健康を記録するような自己管理が重要です。調子が良い時、悪い時など自分の体調を把握していればコンディションを調整する事ができますし、困ったときは「かかりつけ医」に相談することもできます。
従業員の健康管理は企業戦略
続いて社員の健康と業績を両立する「健康経営」を標榜している経済産業省ヘルスケア産業課長の江崎禎英さんのコメントを紹介します。
2年程前に従業員の健康管理に積極的に取り組む企業を顕彰する「健康銘柄」を発表したところ、就活生から大きな反響がありました。健康経営銘柄企業は、政府お墨付きのホワイト企業だというのです。この結果、多くの企業が健康経営に高い関心を示すようになりました。健康経営に対する経営者の意識改革を進めることで、働き方の改革、ひいては企業文化を変えていきたいと考えています。
従業員の健康が企業の業績に直結することは、リーマンショックの際に学びました。不況の中でも見事に業績を回復する企業は少なくないのですが、その経営者の多くが女性であったことが印象的でした。彼女たちによれば、男性経営者は景気が悪くなると売れそうなものを探してひたすらコストカットを目指すのですが、それは高度成長期のビジネスモデル。直ぐに外国の企業に負けてしまいます。今はモノもサービスも溢れている時代。お客さんが何に困り、何を求めているかを丁寧に考えれば仕事はいくらでもあるというのです。残業や徹夜で疲れた従業員にお客さん目線でものを考えるゆとりはありません。健康経営は成熟経済における重要な企業戦略なのです。
ヒトに限らずすべての生き物は健康寿命が終われば程なく死んでしまうものです。しかし、医療技術の進歩と経済の発展のお陰で、我が国では平均寿命と健康寿命の間に10年ものギャップが生じることになりました。財政を圧迫する程の医療費や介護費のほとんどは、このギャップの期間に使われています。多くの人は、歳を取ったら弱るのは当たり前だと考えているようですが、社会的な役割を持ち、美味しいものを食べて、心がときめいている人は歳を取っても元気なままです。
男性では高齢者の約1割が90歳近くまで衰えることがなく、中小企業の会長にそうした例が多いと言われています。残念ながら現状、女性にはそうした例は少ないのですが、今後女性の社会進出が進み、歳を取ってもお肉を食べ、日々ときめく生活をするようになれば、もっと長く元気な時間を過ごすことができるようになると思われます。
人が健康で長生きすることを望めば、社会は必ず高齢化します。基本的に社会の高齢化は良いことなのです。そうした視点に立って、社会経済システムの再構築を行うことが重要だと考えています。
女性が働きやすい社会は男性にとっても働きやすい社会
野田氏――国会議員の女性比率は1割程度で、妊娠しただけで叩かれるような職場です。国民の代表である議員の女性比率が高まれば制度の整備も進むはずです。少子高齢化で担い手不足になっている今こそ、女性のポテンシャルを見つめ直す必要があります。育児をしながらでは、保育園の迎えの時間に会議を設定されたり、男性が決めたルールに対応できません。子どもの人生がかかっているので、母親になったとたんルーティンワークができなくなります。妊娠した人がスタンダードの社会になれば、女性すべてにアジャストすれば男性にも、高齢者にも、障害を持った方にも、働きやすい社会になるのではないでしょうか。
江崎氏――従来は男性中心の社会にどう女性を受け入れるかといった議論が中心でした。しかし、今議論すべきは、超高齢社会、成熟社会に相応しい社会システムをどう創るかということです。男性中心とされる現在の社会が男性にとって働きやすい環境かといえば必ずしもそうではありません。女性の社会進出を切っ掛けに社会を変えるべきなのです。そのためには、女性の健康について「知る」「受け入れる」「変わる」という3つのステップが重要です。女性にとって働きやすい社会は男性にとっても働きやすい社会であると思っています。
吉村氏――男性ができること、女性ができることを見極めて、役割分担することが重要です。出産は女性にしかできないことなので、働きながらもキャリアを断絶させずに出産できる環境を整える必要があります。40年間、産婦人科医をしてきた実績を活かして、率先して女性の健康に必要な知識を普及していきたいと思っています。「女性の健康週間」を国民運動にするために男女ともに声をあげていきましょう。
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