“最後の” TPP閣僚会合始まる 消極姿勢のカナダ、日本市場諦められずジレンマ ニュースフィア 2015年7月29日
米ハワイ州マウイ島で28日より、環太平洋経済連携協定(TPP)参加12ヶ国による閣僚会合が開かれる。6月にアメリカで貿易促進権限(TPA)法が成立したことで、各国はそれぞれの交渉カードを出しやすくなったとされる。今回の会合では、全体合意への期待がこれまで以上に高まっている。けれども安倍首相が「交渉は最後が一番難しい」と述べるように、困難な問題はまだ残っている。海外メディアでは、今回の会合で合意する可能性を疑問視する報道が目立った。
◆米大統領への貿易促進権限の認可で交渉に弾みがつく?
米オバマ大統領とともに、TPPの早期妥結を目指す安倍首相は、24日に官邸で開いたTPPに関する主要閣僚会議で、「今回の閣僚会合は、TPP交渉の妥結を実現するための最終局面の会合です。ゴールテープに手が届くところまできましたが、交渉は最後が一番難しいわけです」と発言した。
フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、一部の交渉当事者の間に楽観的な見方が広がっていることを伝えている。閣僚会合に先立って、24日より首席交渉官会合が開かれたが、交渉官らは、最終合意の一歩手前であり、閣僚会合の終わる31日の発表にはひそかに自信を持っている、と語ったという。また、オバマ政権は、合意を確信しているため議会に対し、TPP閣僚会合は今回が最後のものになると考えていると通告したという。
これまでのTPP交渉は紆余曲折を経ている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、TPP交渉の歴史には、遅れ、逆戻りが満ちていると語り、これまでの流れを簡略に描いている。TPPは先月、TPAの議会承認を得る難しさのため、すんでのところで頓挫するところだった、としている。
FTは、TPAが認められて以降、TPP妥結への楽観が強まった、と語る。ロイターは、TPA法成立により、交渉をまとめるために必要な難しい決断を行うよう、各国閣僚に準備させるための折衝ラッシュが引き起こされた、と語る。
◆米大統領選が実質的にタイムリミットを設定?
このように、TPAによってTPP交渉全体に弾みがついた格好だが、もしも今回の閣僚会合で合意に至らなければ、状況は再び難しくなる可能性があるようだ。その原因とされているのは、2016年に米大統領選挙が控えていることである。
閣僚会合で合意に達したあと、各国はその内容を自国に持ち帰り、政府なり議会なりで承認する必要がある。アメリカの場合、通商外交権が議会にあるため、議会が最終的に承認することになる。WSJによると、今回の会合で交渉がまとまらず、合意が遅れた場合、議会での採決が大統領選の真っただ中で行われることになりかねず、そうなると現政権下での承認の可能性は低くなるという。ロイターも同様に、今回、合意できないと、年内の議会承認を目指すことになり、すでに厳しいスケジュールが危険にさらされる、と語っている。
一方で、WSJは、米大統領選が控えていることを各国は承知しているため、国内の懸念にかかわらず、合意に協力する経済的および戦略的理由を全ての参加国が持っている、とする見解を紹介している。
TPAの件といい、アメリカの国内問題がTPP交渉全体に大きな影響力を持っているようだ。
◆海外メディアでは合意成立への不透明感が主導的
一部の交渉当事者らの意気込みとは裏腹に、海外メディアには、今回の会合での合意の成立を危ぶむ声が並んだ。FTは、TPAによって合意への楽観が強まったことを伝えた後で、「けれども、アメリカと他の国々は、本当に協定を結べるのだろうか」と疑問を呈した。今回の会合が不首尾に終わることになりかねない厄介な問題が残っている、と同紙は語る。
WSJは、今回も協議はつまずくのではないかと参加者と観察者が心配するほどの不確定要素が残っている、と語る。ロイターは、マウイ島にいる当局者らがムードは楽観的だと語ってはいるものの、最も困難な問題が最後まで残されてきた、と語る。
各メディアが重要争点として挙げているのは、新薬のデータ保護期間などの知的財産問題、カナダが乳製品の市場開放に慎重な姿勢を取っている問題、国有企業優遇の問題などである。
特に今、注目を集めているのは、カナダの問題だ。カナダは、大いに保護されている自国の乳製品市場を開放せよとの強い圧力にさらされているが、10月に選挙が控えている。ハーパー政権は政治的打撃を避けたがっており、まだ提案を示すことすらしていない、とFTは伝える。合意に対して最も差し迫った脅威となるのは政治的なものかもしれない、としている。ロイターは、カナダが乳製品の受け入れ拡大を拒んでいることが大きな障害となっており、ニュージーランドとアメリカを激怒させている、と語る。
FTによると、この問題のために、カナダはTPPから脱退すべしとの声が、特にアメリカで上がっているという。米上院議員のオリン・ハッチ氏とロン・ワイデン氏は、駐米カナダ大使への書簡で、TPPへのカナダの参加を支持するのは、TPPが要求する高い水準をカナダが満たせることが条件だ、としたそうだ。
◆日本への輸出を考えると、カナダにはTPP不参加という選択肢はあり得ない?
そんな中、カナダの有力全国紙グローブ・アンド・メールは、カナダにとってTPP参加がいかに重要であるかを説明する解説記事を掲載した。その理由に挙げられているのが、日本への輸出の問題である。TPPによって日本への輸出が拡大するという話ではなく、むしろTPPに参加しなかった場合、日本市場でのシェアを大きく失う恐れがある、という話だ。カナダにとってTPPは、まったく日本を目的とするものだ、と記事は語っている。
記事によると、昨年、カナダから日本への輸出額は106億カナダ・ドル(約1兆円)に達した。日本はカナダにとって、アメリカ、中国、イギリスに次ぐ4位の輸出相手国だったという。カナダは、アメリカやメキシコなどとは自由貿易協定(FTA)を結んでいるが、日本とは結んでいない。
TPP加盟国から日本へ輸出される物品の関税が、低く抑えられ、あるいは撤廃されたのに、カナダから日本への関税が維持されていたとしたら、どうなるか想像してみよ、と記事は語る。カナダからの輸出品の何十億ドル分もが、価格優位性で競合国に負け、ほぼ一夜にして一掃されるかもしれない、としている。
ハーパー首相が、カナダのTPP参加が「絶対必要」と語る時、それはこういう意味なのだが、選挙運動の混迷の中で、政府がこの話を説明するのは容易ではない、と記事は政府をフォローしている。