【早大マニフェスト研究所連載/マニフェスト学校~政治山出張講座~】
公務員とマニフェスト (2013/4/18 早大マニフェスト研究所)
ご好評いただいている「早稲田大学マニフェスト研究所」連載。今週は議員・首長などのマニフェスト活用の最新事例をもとに、マニフェスト型政治の課題や可能性について考える「マニフェスト学校~政治山出張講座~」をお送りいたします。今回は、公務員にとっての首長マニフェストの存在や、マニフェストに対する信頼について事例を挙げて考察していただきました。
◇ ◇ ◇
住民との約束で公務員は変わる
選挙で候補者が約束したマニフェストを組織の事業計画に落とし込み、具体的に実行していくのは公務員です。民主主義というのは、民が選んだものをどうやって忠実にやるかが重要です。ところが、公務員が恣意的にやれば、それは暴力的な行政になってしまいます。マニフェストを公務員が信頼しているかどうか、納得しているかどうかも大変重要なテーマです。今は、残念ながら政治への信頼があまり高くないため、マニフェストそのものへの信頼も希薄なところがありますが、政治家が民から信頼され始めたら、公務員はその政治家に付いていった方がいいと思います。
例えば、2003年の岩手県知事選挙で、当時の増田寛也知事は200億円の公共事業カットを県民に約束しました。それまでは、選挙の公約といえば甘い内容しかなかったので、200億円カットするということはあり得ませんでした。苦い薬が入ったのです。増田知事は、苦い薬の入ったマニフェストを掲げ、9割の得票率で当選しました。
すると、当選後の初登庁のときに、県庁の土木部長から、「200億円カットをするためには、3つの方法がありまして、どれでもできます」と言われたそうです。この事例は、政治家を信用し、民と約束したら公務員は変わるということの象徴的なものだと言えます。
もし、その約束がないとしたら、土木部長に「やってください」と言うと、「いや農林部の方が」と言い、農林部長にお願いすると、「教育委員会はどうなりますか」と言い、教育長に言うと、「いや福祉の方はどうでしょうか」というように、たらい回しになります。これがお役所仕事です。
ところが、トップが約束したら、その日のうちに200億円をカットする案が出てきました。これは政治家と公務員の関係が好循環に作用したということでしょう。公務員こそ候補者の(特に当選者の)公約の内容については注視しているのではないでしょうか。このようになってこないといけません。
時には“苦い薬”も必要
また、行政府が司法も兼ねるぐらい強くなりすぎると問題です。そのことは公務員にとって、ものすごく不幸なことです。何をやっても自由ということで、公務員の不祥事が多発していました。今までは情報非公開だったからです。
「公務員は皆グルですよ」とか、「官僚主義に陥るな」とよく言われます。これは、公務員が馬鹿にされていることをよく表している言葉ではないでしょうか。公務員が尊敬される存在になるのであれば、政治家もがんばり、お互い尊敬されるようになって、ようやく住民と一緒に活動できる環境が整ってくるのではないでしょうか。
今年は、夏に参議院議員選挙を控え、そのほかにも各地で地方選挙が多数ある年です。候補者が民から真に信頼されるためには、耳触りのよいことばかりを並べた公約よりも、街の将来像がしっかりと描かれたうえで、その将来像を実現するために希望が持てるような政策と、時には従来の慣例を大きく変化させたり予算配分を見直すなど、民にとっても苦い薬がきちんと示され、納得感が醸成できるプレゼンテーションを期待したいと思います。
- ■早大マニフェスト研究所とは
- 早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。所長は、北川正恭(早大大学院教授、元三重県知事)。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
- マニフェスト学校~政治山出張講座~
- ネット選挙とマニフェスト(2013/4/4)
- マニフェストを起点とした市民参加と協働のまちづくり~静岡県牧之原市(後編)~ (2013/3/21)
- マニフェストを起点とした市民参加と協働のまちづくり~静岡県牧之原市(前編)~ (2013/3/7)
- 早大マニフェスト研究所 連載記事一覧