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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェスト学校~政治山出張講座~】

マニフェストを起点とした市民参加と協働のまちづくり
~静岡県牧之原市の取り組み(前編)活躍する市民ファシリテーター~
(2013/03/07 早大マニフェスト研究所)

ご好評いただいている「早稲田大学マニフェスト研究所」連載。今週は議員・首長などのマニフェスト活用の最新事例をもとに、マニフェスト型政治の課題や可能性について考える「マニフェスト学校~政治山出張講座~」をお送りいたします。今回は、市民参加と協働のまちづくりを、市民と行政が一緒になり取り組んでいる静岡県牧之原市の事例をご紹介します。

◇        ◇        ◇

市民参加と協働には覚悟が必要

 最近の自治体の総合計画を見ると、「市民参加」「協働」といった言葉をよく目にします。また、この2つは、首長、議員の選挙の際のマニフェストの中にも、頻繁に出てくるキーワードでもあります。市民参加は、政策形成過程である、行政の計画、実施、評価のすべてのプロセスに市民に参加してもらい、行政に深く関わってもらうこと、協働は、市民と行政が一緒に行うことを指しますが、言うは簡単、実行するのはなかなか難しいものです。行政にとっても仕事のやり方が大きく変わりますし、市民にとっても責任が問われます。それぞれ負担は増し、お互いにそれ相応の覚悟も要ります。

 そうした、市民参加と協働のまちづくりを、市民と行政が一緒になり、2006年から7年に渡り、本気で取り組んでいるのが、第3回マニフェスト大賞でマニフェスト推進賞特別賞(みんなで語ろうまきのはら実行委員会)、第4回でマニフェスト推進賞最優秀賞(みんなで語ろうまきのはら「逆マニフェスト」実行委員会)、第6回でマニフェスト推進賞優秀賞(牧之原市自治基本条例を育てる会「牧之原市自治基本条例から始まる市民協働によるマニフェスト・サイクル」)を受賞している静岡県の牧之原市です。今回と次回に渡り、この牧之原市の「マニフェストを起点とした市民参加と協働のまちづくり」について紹介したいと思います。

スタートは市長のマニフェストとその評価から

 牧之原市の取り組みのスタートは、2005年10月に行われた牧之原市長選挙に際して、西原茂樹市長がマニフェストを掲げて立候補し、当選した時に遡ります。その時のマニフェストの基本方針の中には、「市民参画と協働を推進します」「官主導から市民本位の行政に転換します」等ということが掲げられていました。

 その後、市長のマニフェストは、2006年に総合計画として行政計画化、市民のまちづくりへの参画、行政との協働を積極的に推進する姿勢が、明確に市の方針として位置づけられました。そして、この流れが市民レベルで大きく動き始めたのは、2007年、市長のマニフェストを市民主導で評価しようとする「みんなで語ろうまきのはら実行委員会」が立ち上がった時です。

知識とスキルがなければ協働は進まない

市民ファシリテーターの進行で行われる「サロン」の様子 市民ファシリテーターの進行で行われる「サロン」の様子

 実行委員会のメンバーは男女ほぼ半々、職業も、会社員、専門職、NPOの代表、青年会議所の理事長、主婦、大学生など11名と多岐に渡っていました。メンバーが、評価に際して幅広い市民からいかに意見を募ればよいかということに悩んでいたところ、静岡大学の日詰一幸教授から、当時静岡青年会議所で行われていた市民討議会という手法と、その企画と進行を担っていた会議ファシリテーター普及協会の釘山健一さんを紹介してもらいました。

 市民討議会とは、ドイツのプラーヌンクスツェレの仕組みをベースに、現在全国の青年会議所が実践している新たな市民参画手法で、無作為抽出で集められた市民が、地域の課題について議論してまちづくりに反映させるものです。また、釘山さんのファシリテーション・スキルは、参加者の意見を聞き出すだけではなく、その主体性を引き出すことに力点をおいたもので、そのためには、会議は思いっきり楽しくならなければならないという考えがベースにあるものです。

 メンバーは、事前に研修会を開き、釘山さんから、ファシリテーションの知識とスキルを学びました。そして、実際に開催された市長マニフェスト評価のための市民討議会では、メンバー自らがファシリテーターとなり、住民基本台帳から無作為に抽出された延べ80人の市民が、5~6人のグループに分かれて、子どもの安全、防災、環境等、市長マニフェストの5つの主要事業のテーマについて意見を出し合い、課題などをまとめました。実行委員の市民が、知識とスキルを身につけていたため、マニフェスト評価といった難しいテーマでしたが、初めて顔を合わせた市民同士が打ち解け、楽しく話し合うことができました。

市民ファシリテーターによる「男女協働サロン」の実践

楽しい雰囲気で進む「サロン」 楽しい雰囲気で進む「サロン」

 翌2008年度、ファシリテーションを活用した市民討議会の手法が協働のまちづくりに有効であることを実感した実行委員会のメンバーと行政は、その手法を定着させるためには、その運営を担う人材の育成が重要ということで、釘山さんを再度招き、まちづくり協働ファシリテーター養成講座を実施しました。研修は、一般の市民だけではなく、地域コミュニティーのリーダーである区長(自治会長)や、市長をはじめとした市職員も参加して行われました。そしてその研修の実践の場として、「男女協働サロン」が行われました。

 「サロン」は、5~6人のグループに分かれ、ワークショップ形式で進められます。従来のワークショップと異なり、会場の飾りつけをして、お菓子を準備し、「自分だけしゃべらない」「人を批判しない」「楽しい雰囲気で」という3つのルールの下で進行します。また、研修を受けた市民ファシリテーターが中心となり、意見を引き出し、合意形成にまで導いていくところが大きな特徴です。この年は、学校や保育等のテーマ別の「サロン」と、市内の5地区での地区別「サロン」等、計24回のサロンが開催され、約700人の市民が参加しました。

牧之原市の市民ファシリテーターの皆さん 牧之原市の市民ファシリテーターの皆さん

 その後も、市民ファシリテーターが中心となった「サロン」の手法を活用して、2009年度には、行政に対するマニフェスト型提案(逆マニフェスト)を作る市民討議会が開催されました。また、2010年度には、この手法を活用して、市民が中心となり『牧之原市自治基本条例』が作られ、2011年度には、住民自治を担う地縁組織である自治会組織のあり方が検討されました。こうした実践の積み重ねにより、牧之原市には、市民ファシリテーターによる「サロン」という場が進化発展しながら、市の政策形成過程の重要な仕組みとして定着してきています。

 次回は、牧之原市において、現在進行形で行われている、この「サロン」を活用した地域の津波防災計画づくりについて紹介するとともに、協働のまちづくりの成功の要因を考えたいと思います。

青森中央学院大学 経営法学部 専任講師 佐藤 淳
青森中央学院大学 経営法学部 専任講師
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学専任講師(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。
■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。所長は、北川正恭(早大大学院教授、元三重県知事)。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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