【20代当選議員の挑戦】
第5回 人口147万人都市の最年少「理系」議員が挑む、「どうしようもない」議会の再設計 (2016/1/22 一般社団法人ユースデモクラシー推進機構 代表理事 仁木崇嗣)
神奈川県の北東部に位置する政令指定都市の川崎市は、政令指定都市20市の中で面積が最も小さいにも関わらず、人口は年々増加し、今では愛媛県を上回る147万人となり、2015年4月に京都市を抜き全国7位の市となりました。財政状況も政令指定都市では最も余裕がある都市です。そんな川崎市で育ち、2015年の川崎市議会議員選挙で6,311票を得て26歳で当選された重冨達也さんにお話を伺いました。
人口が増えて豊かになることが当たり前
- 仁木
- 川崎を一緒に散歩させていただきましたが、タワーマンションがバンバン建っていて、子連れの親子も多く、街が活き活きしている様子を感じました。未来が明るく感じるイメージです。
- 重冨
- そうですか、それは僕にとっては新鮮なご意見です。都市とはそういうものだと思っていましたし、ずっと川崎で育ったので。逆に言えば、もっと日本の現実を知るために地方に行った方が良いということかもしれませんね。
- 仁木
- 重冨さんが生まれてから今まで人口が増えてどんどん豊かになっていくことが実感としてあって、それが当たり前だったわけですよね。
- 重冨
- そうかもしれないですね。
- 仁木
- 東京都市圏から離れた地方都市の若い世代はそういう実感は少ないんじゃないかと思います。地方の息苦しさや経済的な豊かさを求めて移動している現状があると思います。
- 重冨
- それをどうかしなきゃということで頑張っておられるんですよね。小杉のタワーマンションが2本、3本と増えててきだしたころは、私が育ってきた中原区っぽくないので違和感はありましたね。特に10年くらい前から小杉エリアの人口は増加傾向にあって、子育ての制度はそこまで手厚くないのですが、働く場が近いという強みによって流入人口も増えています。しかし、出入りがあることを忘れてはいけなくて、そこに住みたいから住んでいるというよりは、利便性が高いから住んでいるということです。
- 仁木
- 地の利が大きいということですね。
- 重冨
- はい。その上で、地の利を活かす政策も進めています。小杉などの広域拠点を選んで集中的に民間投資を促しています。川崎と小杉と新百合ヶ丘、鹿島田とかです。
- 仁木
- 容積率の緩和が10年くらい前でしたっけ?
- 重冨
- そうです、人口が大きく増加し始めたのもだいたいその頃ですから人口増と相関があるといえそうです。
- 仁木
- 新興住民が増えると地域での摩擦が生まれたりするのでしょうか?
- 重冨
- 確かにその懸念はあります。しかし、タワーマンションに住んでいる人もコミュニティの必要性は感じているようで、マンションごとにコミュニティができていて、かつ外の地域コミュニティとつなぐ動きもあるんですよ。駅の近くの広場で「小杉フェスタ」というイベントが開催されるのですが、この主体は行政では無く、新しく来た人たちが創ったNPOなんです。そこには、新しく来た人間ではあるけれども、移住したからには自分たちも地域に溶け込もう、地域に主体的に関わっていこうという意思が感じられますね。
- 仁木
- そうなんですね。そういった地域住民同士のパイプ役は議員も向いてそうですよね。
- 重冨
- それはあり得ますね。議員は人的ネットワークをつなぐのは得意ですからね。
人口増加にインフラ整備が間に合わない
- 重冨
- あとは、インフラが整っていない状態で人が集まり過ぎたので、駅の改札も足りなくなって最近一つ増やしたのですが、それでもまだ朝は改札に行列ができるのです。
- 仁木
- そうなのですね。今の話を伺って思ったのですが、インフラを整備したから人が増えるのではなくて、人が増えてからインフラが整備されるというのが正しい順序なんですよね。当たり前といえば当たり前ですが。
- 重冨
- そうなんですよね。その上で、人が増えたときにどのようなインフラ整備が必要かを考えておく必要があって、すでに今の駅の構造上、もう無理なんですよ。どん詰まりなんです。そういうプランが無かったんでしょうね。
- 仁木
- その反省を次に活かさないといけないですね。
- 重冨
- 保育園も小学校も足りなかったりして、今度小学校を2校つくるんですけど、人口流入による税収増とインフラ整備によるマイナスをしっかり検証しないといけなくて、例えばタワーマンションも何階建てが市にとっての最大の利益になるのかを数字で検証しないといけないと思っています。
- 仁木
- 今は人口増加で良いけれども、持続可能性を考慮しないといけないということですね。
労働で納税する経験ができないので、松下政経塾は選択肢から外しました
- 仁木
- 川崎市のことについて伺ってきましたが、ここからは重冨さんのことについてお聞かせください。まず、政治に興味を持たれたきっかけを教えてください。
- 重冨
- 21歳のころに本田宗一郎氏や松下幸之助氏の本を読んだことで、徐々に社会貢献する方法として「政治」という選択肢を意識するようになりました。
- 仁木
- ご自身が政治に向いていると思われたのですか?
- 重冨
- いえ、向いているとは思わなかったです。どちらかと言うと、経歴上は向いていないと思っていましたが、それは選挙が決めることだと思ったので。
- 仁木
- 若くしてチャンジする方がメリットがあると。
- 重冨
- そういうことです。
- 仁木
- 松下幸之助氏の本に影響を受けたということであれば、松下政経塾には入ろうと思わなかったのですか?
- 重冨
- 最初は思いました。一応、見に行ったのですが、あそこってお給料もらえるじゃないですか。それだと、労働で納税したという経験ができないと思ったので、選択肢から外しました。大学卒業から被選挙権が得られる25歳までの間に何をするか、という選択だったので。
一つの世界にどっぷりは危険だと思い、議員秘書は選択肢から外しました
- 仁木
- 議員になることを決めていたのであれば、議員秘書になる道は検討されたのですか?
- 重冨
-
松下政経塾に行くか、議員秘書になるか、普通に就職するか、それともフリーターで25歳を待つか、という選択肢を思いつきましたが、議員秘書はどうすればなれるか分からなかったのもありますが、一つの世界にどっぷり居ることは危険だな、という思いもありました。
僕は飛行機が好きで整備士をやっていたという理系の面もあれば、保育園の時から演劇をやっているんですけど、演出家がいるわけではなくて、子どもたちで演出を考えて創っていくことをやっているんですが、それもある意味「ものづくり」なわけです。演劇のものづくりと、飛行機のものづくりのコミュニティを知っていて、バランス感覚というのが大切なんだろうなと思っていました。その時に一つの事に凝るのはいいんだけど、まあ、最低2つくらい所属していた方が良いなという感覚は持っていたので、何となく秘書になるのは危ねえって思ったんでしょうね。
議員のなり方として、秘書を経験するのが一般的だろうなとは思っていたので、その一般的なコースに行くことが自分のやりたい事と一致するのかと、変えたい側なのにおかしいんじゃないかという思いもありました。
塾講師が生徒に雇われているように、政治家も市民に雇われている
- 仁木
- それで最終的に塾講師を選ばれるわけですが、なぜ塾講師だったのですか?
- 重冨
- もともと子どもが好きだったのと、人前でしゃべる仕事なのでこれは政治家に向いているだろうと。そして、自分の持つ力を社会のために役立てたいという私の考え方を子どもにも伝えたいという思いもありました。
- 仁木
- なるほど。政治家として役立つ能力を身につけつつ、子どもたち、すなわち将来世代との接点を持てることを重視したわけですね。実際に塾講師の経験を通して得たスキルが議員の仕事に役立ったことはありますか?
- 重冨
- そうですね。わかりやすく論理的に伝えるスキルは非常に役立っていると思います。市民に市政について説明するときや、市職員の皆さんとのコミュニケーション、議場で私が調査したことや、そこから導いた結論を市長をはじめ市幹部に説明するときなどに役立っている実感があります。主観でしかありませんが。
- 仁木
- 確かに、子ども相手のコミュニケーションを習得していれば、あらゆる場面で役立ちそうですね。
- 重冨
- そうですね。コミュニケーションでは助かっている気はしています。あともう1つ、塾講師を経験してよかったと思うことがあります。それは、一見正しいと思えることでも、伝え方や伝えるタイミングによっては正しくないことになってしまう危険性があるという体験をできたことです。
- 仁木
- どういうことでしょうか?
- 重冨
-
すみません、あまり詳しくはお話できないのですが、伝え方や伝えるタイミングを誤った経験があるということですね。
企業に勤めていれば誰しもが経験することかもしれませんが、私の場合は3年半しか勤めていませんので、その間にこのことを管理職として身をもって学べたことは今考えればとてもラッキーなことでした。もしかしたら政治の世界にいても同じことを学べたかもしれません。しかし、私はやはり企業で学べてよかったと思っています。
私たち議員は数年に一度の選挙で当選すると、市民からほぼ強制的に集めた税金でご飯を食べていきます。数年に一度の選挙ではなく、今月の仕事の精度が来月の仕事の量に影響するという経験は、これから議員を目指す若者にはぜひしてほしいですね。
- 仁木
- 確かにおっしゃる通りですね。政治塾や議員秘書とは違う道として、政治家になる前に企業で研さんを積むということがより一般化しても良いかもしれませんね。
これからの議員は「知られなきゃいけない仕事だ」という意識が必須
- 仁木
- 重冨さんは「議会改革」を一番に掲げておられますが、いつごろそれが問題だと気づいたのですか?
- 重冨
- 大学生のころです。そもそも政治家ってどんな仕事をしているのかを知る必要があると思ったので、議会に傍聴に行ったり、何人も議員さんと話しに行ったりしたのですが、これじゃあ、なかなか人に興味持ってもらえず、人の目が向かない世界になるよなと思いました。でも本当は人の目が向いているからこそ選挙が成り立つはずだから、議会のこれが悪い、というよりは、そもそも議会に人の目が向いていないことが悪い、ということがスタートでしたね。
- 仁木
- なるほど。「議会改革」の必要性が全国的に認識されてきて、議会基本条例を制定した議会も増えてきました。それにも関わらず、まだ不十分な状態にあるのはなぜだと思いますか?
- 重冨
-
個人レベルの意識の問題にもなりますが、議員側に一般の方にも「知られなきゃいけない仕事だ」という意識が欠如している点が大きいと思います。もちろんある人もいますが、結局、政治家って票のための活動になっちゃうから、自分に票を入れてくれる人に優しくなるんですよね。皆そういうテリトリーを持っているわけです。
じゃあ、そのテリトリーを全部合わせたらどれくらいの規模になるのか、っていうと全有権者のうち40%なわけです。投票率でいうと。ってことは6割政治難民がいるわけです。でも、政治家からしたらそれが安定状態なので正直崩したくないわけです。これが一番の問題だと思っていますし、それを改善しようとする手を打っていないということが問題ですね。手を打っていて、上手くいかないということであれば一緒に改善策を考えていくことができるのですが、その段階にはまだありません。
「どうしようもない」議会にもちゃんとしてる人はいる
- 仁木
- 極めて真っ当なご指摘だと思いますが、同じ問題意識を持っている議員は他にもおられますか?また、議会を外から見ていた時と、議会の中に入ってからと見え方が違ったことがあれば教えてください。
- 重冨
- 同じ問題意識の方は、数人ですがいます。議会の中に入ってから分かったこととしては、議会の仕事ぶりの不十分さは間違いないし改善する余地はあるんですけど、議会を外から見ていた時は、60人中ほぼ60人、例えば55人くらいはもうどうしようもない人だろうと思っていたんですけど、実際入ってみるとある程度は考え方も仕事ぶりもちゃんとしてる人がいるなと思いました。
- 仁木
- そうなのですね。それらの方は他の議員と何が違うのでしょうか?
- 重冨
- まず、勉強量が全然違いますね。あと自分の選挙区だけでなく全市で最適な制度だったり仕組みづくりを考えておられますね。
- 仁木
- 個別最適ではなく、全体最適を優先する考え方をされているということですね。
- 重冨
- そうですね。最近気がついたのですが、一般質問の内容を見ればだいたい識別ができます。学校の施設が老朽化しているっていう質問を今回の議会でも5人くらいしていたんですよ、60人いて。そうすると、ある人は「地元の◯◯小学校のどこどこが老朽化しているから早急に何とかすべきだ」という人もいれば、「地元の◯◯小学校でこういう老朽化があった事を受けて、他の学校でもあるのではないかと調査をした結果、全市的にこういう整備方法でいったら良い」という結論でくる人もいるわけですよ。
- 仁木
- 後者が全体最適の考え方ですね。
- 重冨
- そういう人たちがあまりにも少ないんです。市長にそれいいね、って思わせる生産的な質問では無く、個別の事象を取り上げて特定の人たちに向けたパフォーマンスに終わっているわけです。
- 仁木
- 言われた事をそのまま伝えるだけなら誰でもできるわけですが、地元の声を課題の原点として、どういう結論に持っていくのかが議員のプロとしての仕事と言えるのかもしれませんね。
- 重冨
- そうですね。練り込みの作業をしっかりやるかどうかが議員の仕事の質につながると思います。議員は議員としてのモノサシを持つべきですし、僕も日々意識をしています。
- 仁木
- なるほど。そういった方々と今後連携していくお考えはありますか?
- 重冨
- ただ、僕の理想とは多少違うわけで、その人達もある程度組織の一員でしかないので、完全に一緒になるということは無いにしても、仮に僕が力学的に対等な立場になった時に、根拠がしっかりとしていて明らかに良いものであれば、認めてくれるかもしれない、という感覚はあります。
- 仁木
- OSのバージョンは違うけど、アプリケーションの互換性はありそうだというイメージですかね。
- 重冨
- そんな感じです。
- 仁木
- 最後に、重冨さんは、どのような価値観を重視し、どういう姿勢で政治に取り組んでいかれますか?
- 重冨
- 大切なことは、市政運営に対する市民としての「納得感の増大」ですかね。100%納得できないことって世の中になくて、逆に100%納得できることもないんですよ。だから、最大公約数的なところを話し合いで見つけていく必要があると考えています。
- 仁木
- そうですね。市民が政策の細部まで理解することは難しいとしても、説明責任をしっかり果たしたり、情報公開を徹底することで「納得感の増大」につながるわけで、そういう努力も怠ってはいけないといえそうですね。重冨さんも日々の活動をホームページ上で公開おられるのも、そういう思いからなんですね!今日はありがとうございました!引き続き頑張ってください!
- 重冨
- はい!頑張ります!
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