政策や構想策定に市民の声を反映、「加古川市版Decidim」で意見収集を実現 (2022/8/15 兵庫県加古川市役所 企画部政策企画課 スマートシティ推進担当)
兵庫県加古川市は、人口約26万人の東播磨工業地帯にある都市で、県下最大の一級河川・加古川が市の中央を横切るように流れています。また、多数の文化財を所有する鶴林寺や、標高は304mと低いながらもその端正な山のすがたから「播磨富士」とも呼ばれている高御位山(たかみくらやま)、70年以上の歴史を持つご当地グルメ「かつめし」など、歴史・文化・自然が調和したまちです。ぜひ、兵庫県へお越しの際には、加古川市にお立ち寄りください。
本市では、「市民中心の課題解決型スマートシティ」を実現するため、2020年度に「加古川市スマートシティ構想」を策定しました。2021年度より「Make Our Kakogawa」をコンセプトとして、民産学官より様々な人たちが、立場を超えてより良い加古川市の未来のために「ともに考え、ともにつくる」取り組みを推進しています。
2020年10月には、一般社団法人コード・フォー・ジャパンと「加古川市におけるスマートシティの推進に関する協定」を締結し、住民対話・参画を促す「DIY都市」の考えに基づいた活動の一環として、「加古川市版Decidim」を導入しました。
Decidim(デシディム)は、「自分たちで決める」を意味するカタルーニャ語にちなんで、2016年にバルセロナで誕生したオープンソースの参加型民主主義プラットフォームです。オンラインで多様な市民の意見を集め、議論を集約し、政策に結びつけていくための機能を備えているツールとなっており、国内では本市が初めての導入事例となります。
Decidimは、計画策定までの議論やデータが可視化されるため、参加者が納得できる最適解を導き出すことが可能となっており、オンライン(デジタルな参加)とオフライン(会議・ワークショップへの物理的な参加)を融合させながら、議論を活性化させることに加えて、デジタルデバイドの解消・幅広い世代の政治参画の実現が期待できます。
また、コロナ禍において、市民を集めたワークショップの開催は困難な状況が続いていました。これまでオフラインイベントに参加したくても時間の制約から参加がかなわなかった、子育て世代をはじめとするサイレントマジョリティの意見をいかに拾い上げるかということは、行政の大きな課題となっていました。本市ではDecidimを活用した新しい市民参加型合意形成の取り組みを進め、これらの行政課題を解決しようとしています。
これまでも地域課題を解決するため、市民の同意を得ながら1475台の見守りカメラを設置するなど、市民生活の安全安心を高めるまちの実現に向けたスマートシティの取り組みを実施してきました。
その一方で、スマートシティの推進においては、スマートシティが「単なる先進技術の導入が目的化したもの」になっているのではないかといった課題感があり、コード・フォー・ジャパンの関治之代表理事と意見を交換する中で、「加古川市スマートシティ構想」を策定する意見収集ツールとしてDecidimを紹介していただきました。タイミングよくコード・フォー・ジャパンが日本語化プロジェクトを進めようとされていたので、本市で試験的に導入してみましょうということで話が進むこととなりました。
本市の岡田康裕市長も「オープン&チャレンジ」をスローガンに掲げ、市政運営を行っていることから、市長自身も将来、市民生活の中に当たり前に存在するものになるのではないかと感じられ、Decidimの導入にいたりました。
「加古川市スマートシティ構想」の策定にあたっては、2020年10月末から2021年1月までの期間において、「加古川市版Decidim」を活用しながらオンラインでの議論を行い、その間に2回のオフラインミーティングを実施し、議論を収束させていきました。その後、2月にパブリックコメントを実施し、3月に「加古川市スマートシティ構想」を策定しました。稼働後、約2カ月間で計196名のユーザから261件の投稿がありました。参加者の約4割が10代という結果となり、若い世代の政治参画にも寄与しています。
その後も、「加古川市版Decidim」を様々な機会に取り入れています。本市では現在、全国有数の一級河川・加古川の豊かな水辺空間を地域資源として、“かわ空間”と“まち空間”が融合した良好な空間形成を目指し、加古川の河川敷に賑わいを創出する『かわまちづくり』を進めています。
本プロジェクトにおいても、様々な立場の方のご意見やアイデアをワークショップやDecidim上で募集し計画を策定しているところです。
さらに、2022年4月に開設された子育てプラザと公民館の複合施設の愛称を決定する際には、投票機能を活用しました。
また、地域の高校生や大学生との意見交換の場においても「加古川市版Decidim」を活用したところ、高校生からは本市の特産品でもある靴下のPRに家族への感謝の気持ちを示す贈り物として定着させたいという提案をいただきました。このアイデアは日本電気株式会社のプロボノ倶楽部の皆さんの力も借りながらブラッシュアップし、「高校生自らが実践する」というコンセプトで地場産業の活性化に向けた取り組みを行っていただいています。
「加古川市版Decidim」の特徴として、単なるオンラインツールとして活用するのではなく、オフラインミーティングと組み合わせることにも工夫をしています。
前述した子育てプラザと公民館の複合施設の愛称募集での事例では、クラウドソーシングで集めた約400件の愛称候補の中から事務局で9案に絞り、その中からDecidimを活用して3つに絞り込みました。その後、地域の回覧板や市役所のロビーなどでシールによる投票を実施するなど、オンラインツールだけでなく従来の方法(オフライン)も組み合わせながら愛称を決定していきました。
愛称が決定された後、施設がオープンするまでの間に、施設の完成状況やオープン時のイベント案内なども「加古川市版Decidim」上で共有することによって、愛称決定に参加したという実感が生まれることにつながり、施設への親しみや利用につながっていく流れが作られています。
この度、「マニフェスト大賞2021(第16回)」において優秀コミュニケーション戦略賞を受賞することができました。このような評価をいただけたのは、ひとえに「加古川市版Decidim」を活用し、市政に参画いただいている皆さんの積極的な姿勢のおかげです。
「加古川市版Decidim」は、市民の皆さんの主体的な活動をはじめとした「誰もが活躍できる出番のある」まちづくりを進めていくための手段にすぎません。今後も、市民が主役となるスマートシティ推進に関する事業を進めていき市民の皆さんが「加古川市に住んでよかった、住み続けたい」と思っていただけるまちづくりを行っていきたいと考えています。
最後になりますが、自治体の業務は、市民生活にとってなくてはならないものであり、多くの自治体が独自の施策を行うなど様々な工夫をされています。その一方で、良い取り組みがなされていても地域の中に閉じられてしまい、外部から注目されにくい状況にあります。
マニフェスト大賞が掲げる各地域の優秀な事例を表彰するといった目的は、各自治体における取り組みを発表することで、他の地域にその取り組みが広く知られるようになり、新たな事例創出に向けた機運醸成を図ることができる、大きな推進力となるもの、可能性を開く扉だと感じています。
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