第63回 人マネをきっかけとした「大町市人材育成」の改革  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

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【一歩前に踏み出す自治体職員~ありたい姿の実現を目指して~】

第63回 人マネをきっかけとした「大町市人材育成」の改革 (2021/11/17 長野県大町市総務部庶務課職員係 係長 降籏広美)

関連ワード : 人材育成 公務員 大町市 長野 

「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に自治体職員のリーダーを育成する実践的な研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」受講生による連載コラム。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴っていただきます。

     ◇

 長野県大町市は、県の北西部に位置する人口2万7000人弱、職員数約700人(うち会計年度任用職員等の有期雇用職員約350人)の小さな市です。

1 人マネ部会での気づき、未来への危機感

 2020年度、私が早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会(人マネ)に参加したのは、新型コロナウイルスが私たちの生活を一変させた真っ只中でした。一緒に参加した2人の仲間と感じたのは、コロナの危機感よりも自組織「大町市役所の将来」、ひいては、小さな自治体「大町市の未来」への危機感でした。

 人マネの研究過程では、係長級以下の職員、部課長に対し、アンケート調査を実施し、その後、部長を含む30人ほどの職員と対話を行いました。職員と対話を重ねていく中で、大町市役所に足りないものは何か、今私たちは何をすべきなのかと自問自答し、たどり着いた答えは、「組織を変革するためには、人材育成だ!」という気づきでした。

昨年参加のチーム3人-

昨年参加のチーム3人

2 副市長との対話で全庁的な取り組みに発展

 2020年9月頃、私たちは、人マネでの研究課程を中間報告書にまとめ、市の人材育成のトップである副市長に、「人材育成基本方針の改定」と「人材育成ワーキングチーム」の設置を提案しました。

 当市の人材育成基本方針は、平成11年の策定以来、見直しがされておらず、時代に即したものに改定する必要があること、そしてそれを考えるのは、人事を担当する部局だけではなく、職員自らが関わる必要があるということを訴えました。

 副市長と対話する中で、「市の職員は、市の財産=人財だよね。その職員が10年後どういう職員に育っているかということは、組織にとってとても大切で、組織の行方を左右することだと思う」という意見をいただきました。そして、組織として、人材育成を推進していくこと、それには多くの職員の理解と共感が必要であることを共有し、私たちをバックアップしてくれることとなりました。

3 職員が感じていること~驚き、不満、危機感

 10月、人材育成基本方針の改定に向けて、人事部局とタッグを組んで行っていくことを確認し、まず実施したことは職員全員へのアンケート調査です。現在の職場の課題、自分のキャリアの考え方、仕事への充実度、職員研修への参加などの項目を調査しました。

 しかし、当初は、なかなか回答が集まらず、約20%の回答しか得られなかったことから、締め切りを延長し、朝会などで回答をお願いするなど周知に努め、最終的には50.2%の回答を得ることができました。そして回答を分析してみると次の点が見て取れました。

・組織の風通しはよく、上司にも相談しやすい職場が多い。
・70%くらいの人は仕事にやりがいを感じている。
・一方、特に主任・主査級は、業務が多忙で職員研修に参加できない傾向がある。
・70%くらいの人は、将来の自分のキャリアについて考えていない。

 さらに、この結果よりも驚いたことは、アンケートの最後に自由記載欄を設けたところ、多くの職員が人材育成、職員の業務への姿勢、人事などに関して意見を記載してくれたことでした。多くの職員が、現状に対して不満や危機感を持っていたのです。

第1回人材育成ワーキングチーム検討会

第1回人材育成ワーキングチーム検討会

4 「自ら考え、行動する」人材育成ワーキングチームの立ち上げ

 当市の人材育成を考える組織としては、副市長と部長等で組織する「職員研修委員会」があります。その下部組織に「人材育成ワーキングチーム(以下「チーム」といいます)を設置することとなりましたが、その目的は、職員自らが人材育成を考えることであるため、チーム自体を、「自ら考え、行動する」職員で組織することが必要だと考えました。

 そこで、2021年3月に人事部局主導で職員公募を行うこととし、2020年度人マネ参加者の私たち3人を含め、9人の職員からの応募がありました。このうち7人は人マネ出身者(マネ友)です。余談ですが、私は、この後人事部局の係長に異動となります(もちろんこの時点ではまったく知りません!)。

5 「今班」と「未来班」

 5月、チームの第1回検討委員会では、職員アンケートの結果からも市の人材育成に不満や課題を感じている職員が多いことなどを共有し、対話を進めました。人事部局の担当課長を含め10人の対話により議論を進めたのですが、2つのグループに分け、5人くらいで議論を進めた方が効率的であるという意見から、班を2つ作ることとしました。それが「今班」と「未来班」です。

今班で職員がすぐに身に付けたい業務を検討中

今班で職員がすぐに身に付けたい業務を検討中

 「今班」は、今すぐに実行するべき「人材育成」や「業務改善」に焦点を当て、その内容について検討する班です。新規採用職員や若手職員が早く身につけておきたい市役所共通の業務などに焦点を当てています。

 「未来班」は、将来の人材をどのように育成していくか、人材育成基本方針の根幹となる内容に焦点を当て、検討を進める班です。目指す職員像、役職に応じた役割などを検討し、将来の職員について考え、人材育成につなげていきます。

 この2つの班に分かれ、約4カ月間にわたり対話を進め、それぞれの班の対話の内容、課題、意見等については、LOGOチャットを通じて共有を図りました。今LOGOチャットを振り返って見てみると、すごい量の対話をしているなと改めて感じています。

未来班での対話場面

未来班での対話場面

6 人材育成基本方針、人材育成推進計画の策定に向けて

 チームでは、人材育成基本方針を策定するに当たり、ページ数を抑え、わかりやすくシンプルなものにして、職員に読んでもらえるようにすることを心掛けました。その代わりに人材育成基本方針に基づく行動計画として、人材育成推進計画を策定し、具体的な手法や取組内容については、行動計画で示すことにしました。

未来班で人材育成推進計画検討中

未来班で人材育成推進計画検討中

 現在、基本方針と推進計画については、職員研修委員会に提出し、指摘された疑問点や修正点を整理しているところです。現時点(2021年10月上旬)では、完成に到っていませんが、私たち目指した人材育成基本方針は、次のとおりです。

人材育成基本方針

7 将来の大町市役所、大町市の未来に希望が持てるように

 基本方針と推進計画を策定後、人材育成に全職員を上げて取り組んでいくためには、できるだけ多くの職員にこの内容を知ってもらい、共感してもらうことが課題です。

 職員全員が、「大町市の人材育成の柱である、学び、共感、挑戦」を認識し、自分で自分を成長させるための行動を起こすことで、将来の大町市役所、大町市の未来に希望が持てることを期待するとともに、私たちチームのメンバーも活動を続けていきたいと考えています。

未来班で他自治体の基本方針を読んで検討中

未来班で他自治体の基本方針を読んで検討中

 まずは、職員同士の対話を促すため、対話研修を立ち上げ、いろいろなテーマに沿って対話する研修を行います。職員の中で気づきが生まれ、自ら学び、他者に共感し、前例に捉われず行動する、そのような職員が増えていくよう、チームのメンバーと、そして今後は仲間を増やしながら、一歩ずつ、粘り強く取り組んでいきたいと思います。

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■早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会とは
安倍内閣が目玉政策として進める「地方創生」をキーワードに、「地方」「自治体」のあり方に改めて注目が集まっている。市民との協働や官民連携が重要になっている中で、特に職員の働きが大きな鍵となっている。これまで自治体では民間の手法を用いた「スキルアップ」は数々試行されてきたが、本来的に必要なのは意識改革であり、人や組織を巻き込むことのできる人材が求められている。早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会では「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に、立ち位置を変え、主体的に動き、思い込みを打破するリーダーを育成することを目指している。
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