【一歩前に踏み出す自治体職員~ありたい姿の実現を目指して~】
第42回 「SIMとよはし2030」を財政健全化に活用~伝え方の工夫で受け手側の行動が変わる (2018/7/5 愛知県豊橋市総務部行政課主任 丸山精也)
「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に自治体職員のリーダーを育成する実践的な研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」受講生による連載コラム。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴っていただきます。
はじめに
現在、豊橋市は市の貯金である財政調整基金残高の減少が続き、その残高は10年前の約半分に迫るなど財政的に厳しい状況となっています。速やかにその対応を図る必要があることから、豊橋市は財務部門を中心とした財政健全化プロジェクトチームを2017年に設置し、取り組みを進めている状況です。
簡易な文書で伝えても重要さは伝わらない
このプロジェクトチームでは主に歳出抑制、歳入増加の方法を検討し、取り組みを進めています。このうち、私が関わっているのは歳出抑制、つまり「事業の廃止」「事業見直し」などの取り組みとなります。
これらの取り組みは、市長など経営層や財務部門が「○○事業を廃止する」と決めることも可能だと思いますが、市としては、まず事業を一番把握している各課職員が考え、行動することが重要であると考えています。このことから、財務部門等から各課へ事業見直しの通知・依頼を行い、各課職員が検討など行います。
しかし、財政健全化のための事業見直しについて、各課職員の受け止め方は様々です。福祉、環境、産業と様々な分野の業務を推進しなければならない中で、簡易な文書で「財政健全化を進めなければならないから事業の見直しをするように」と通知・依頼をしても、ことの重要さはなかなか伝わるものではありません。
「各課職員が考え、行動することが重要であると考えていても、取り組みの重要性が職員にしっかり伝わり、全体の行動に結びつかないと取組効果も半減してしまう」。そう思うようになった私は、「職員への伝え方やそれを促す仕組みが重要である」と強く感じるようになり、その手法に頭を悩ませていました。
財政健全化に向けた私の取り組み
そんな頃、私は「SIMふくおか2030」というゲームの存在を知ります。
このゲームは、参加者が架空の都市の幹部職員となり、限られた時間と予算の中で自治体を経営するシミュレーションゲームであり、当時から全国の自治体職員の間で評判となっていたものです。
私は、このゲームが2016年12月に愛知県名古屋市で行われることを知り、参考になるかもしれないとの思いで参加したところ、「職員に財政健全化の必要性などを伝える効果的なツールであること」、さらにSIMふくおか2030を「とよはし版」としてカスタマイズすることで、市の職員に「自分ごと」として財政を感じてもらうことができると強く感じ、早速、豊橋市に持ち帰ることにしました。
ゲームに参加した2週間後には上司等にも体験してもらい、そのゲームの優良さが評価されたことから、私は豊橋市版を作成すること、財政健全化の取り組みに活用することを決意し、上司等の了承を得ます。その後、2017年3月に「SIMとよはし2030」を完成させ、翌4月には新人研修、財政健全化を担当とする職員、部長級向けに実施するとともに、その後も市の係長(主査)クラスを対象として、市の財政予測とSIMとよはし2030を組み合わせた研修を実施するなど約200人に体験してもらいました。
そもそも、この研修は「税収等歳入の大幅な増加が今後見込めない中で、既存の事業をやめなければ、新しい事業を始める予算を確保できない」「自分が推進する事業を守るのでなく、市全体を見渡して事業の優先順位を検討しなければならない」との意識を職員一人ひとりに持ってほしいとの目的で行いました。
研修は非常に評判がよく、受講者のアンケートでは、「研修の狙いが非常に伝わってくる意義ある研修でした。財政調整基金残高も危機感を持たなければならない水準まで来ており、待ったなしの状況だと感じました」など、こちらが意図していることを受講者のほとんどに伝えることができたと感じています。
まだ、市全体で見ると財政健全化の必要性を深く理解し、行動している職員は多いとは言えない状況だと感じていることから、今後その理解者を増やすとともに、その理解を行動につなげるための動機付けなど、システムの構築についてもさらに検討しなければならないと考えています。
2018年度予算編成では従来の課題を踏まえつつ、新たな事業創出と既存事業廃止を促すための予算編成方法に変更するなど、市として取り組みを進めています。そんな中、自分が関わる取り組みが市の健全な財政を維持し、持続可能な行財政運営を行っていくための一助となればと、今後も行動していきたいと考えています。
伝え方の工夫で受け手側の行動が変わる
上記で紹介した取り組みのほか、早稲田大学人材マネジメント部会への参加を経て、伝え方について学んだこと、それを活かした取り組みについて、少しだけ紹介したいと思います。
私は市役所内の研修講師をすることがありますが、その研修の際に活用していることを紹介します。それは「一方的に説明せず、随時対話の時間を入れること」です。
例えば、業務改善研修を行うとします。私は業務改善の定義や手法などを職員に説明していきますが、その中で、10分間に1回を目安に2~3人のグループで「思ったこと、気づいたこと」「自分ならその手法をどう活用できそうか」など、1~2分間程度の短い“対話”の時間を入れるようにしています。
これは、聞いているだけでは自分としてどのように理解し、どう活用するかまで整理するのは困難ですが、時間を与え、投げかけられた質問や講師の考えに対して、気づきや思いを話し合い、共有することにより、それらを整理し、自分ごととできる可能性が高まると考え、行っているものです。それを意識的に行った研修について、具体的に業務改善をイメージできたかなどを受講者から聞き取ると好評であったことから、私は効果があるものと認識しています。
これがあるかないかで理解度やその後の受講者の行動は変わると考えています。
また、新人職員向け豊橋市歌研修というのを行いましたが、これは読んで字のごとく新人職員が豊橋市歌を歌えるようになることを目指す研修です。このご時世、人によっては歌うことに抵抗もあり、「さぁ、歌ってください」といっても抵抗感はつきものだと考えています。
そこで、その抵抗感を和らげるために、まずは市歌を聴いた後、グループ内でその曲について「思ったこと、感じたこと」を何でも好きなように対話をしてもらっています。
これにより、抵抗感を和らげ、「しょうがない、歌うか」という姿勢に変わり、その後、歌わせ方を工夫すれば皆が楽みながら学ぶ時間に変えられると考えています。
このほか、「事務引継ぎの徹底」を全庁的に図る取り組みにも関わりました。
この取り組みで重要なのは、「事務引継ぎが重要であることの認識を多くの人へ広めること」にあると考えていました。対象が非常に広範に渡ることから文面でそれを表現し、かつ読んでもらう必要があったことから、まずはその重要性を読み手が「自分ごと」として認識しやすい手法を検討し、それを新たに作成した「事務引継ぎの手引」の冒頭に記載することとしました。また、手引をいかに見てもらうかについても検討し、PC起動時に広告を表示するなど、事務引継ぎの徹底を図りました。
以上、細かいことですが、伝え方の工夫で受け手側の行動が変わることを、早稲田大学人材マネジメント部会などを通して深く理解し、その手法等を今後の業務に活かしていけると感じています。
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- ■早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会とは
- 安倍内閣が目玉政策として進める「地方創生」をキーワードに、「地方」「自治体」のあり方に改めて注目が集まっている。市民との協働や官民連携が重要になっている中で、特に職員の働きが大きな鍵となっている。これまで自治体では民間の手法を用いた「スキルアップ」は数々試行されてきたが、本来的に必要なのは意識改革であり、人や組織を巻き込むことのできる人材が求められている。早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会では「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に、立ち位置を変え、主体的に動き、思い込みを打破するリーダーを育成することを目指している。