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【一歩前に踏み出す自治体職員~ありたい姿の実現を目指して~】

第27回 ピンチをチャンスに!熊本地震の経験を対話で振り返る~熊本市・災害対応カードゲーム「クロスロード」体験記 (2017/1/19 熊本市政策局復興部復興総務課 池田哲也)

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「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に自治体職員のリーダーを育成する実践的な研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」受講生による連載コラム。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴っていただきます。

クロスロードを実施した「復興ミーティング'16」の様子

クロスロードを実施した「復興ミーティング’16」の様子

熊本地震で職員が直面した「分かれ道」

 2016年4月14日21時26分、4月16日1時25分、二度の最大震度7の揺れを観測する熊本地震が発生しました。

 この地震により、熊本市では、最大で避難者数が110,750人、避難所数が267カ所となりました。観測史上類を見ない余震にも見舞われ、自宅や避難所の建物に入るのを怖がる人たちが多く、車の中で生活する「車中泊」の車が避難所の駐車場となった学校のグラウンドだけでなく、さまざまな場所に散見されました。

 この地震後、市役所職員は、避難所の運営や救援物資の受け入れ・避難所への配送、被害を受けた道路・上下水道などの復旧作業、り災証明発行などの業務に忙殺されることになりました。そういった災害復旧の場面で、それぞれの職員が「分かれ道(クロスロード)」に立ち、どのように対応するか決断をしながら業務を遂行してきました。

 私は地震発災当時、政策企画課に勤務しており、今回の災害対応では震災直後の避難所への毛布運搬から始まり、救援物資の受け入れや避難所の拠点化など、数々の業務に携わりましたが、そのときの対応を今振り返ると、その決断が本当に正しかったのか、迷うところがあります。

災害対応カードゲーム「クロスロード」

 「クロスロード」とは、阪神・淡路大震災で災害対応にあたった神戸市職員へのインタビューをもとに作成された、カードを用いたゲーム形式による防災教育教材です。カードに書かれた事例(例えば、「避難所に500人の避難者がいるが、食料が300食しかなく、今後届く見込みもない。食料を配布するか?」)について、ゲーム参加者は、YESかNOかで自分の考えを示し、その後、参加者同士でその判断について意見交換を行います。

クロスロードの問題

災害対応についてYesかNoで判断する

災害対応についてYesかNoで判断する

 このゲームは、災害対応を自らの問題として考え、それぞれの意見や価値観を参加者同士で共有することが目的です。必ずしも正解のない災害対応において、ゲームを通じ、誰もが誠実に考え対応できるよう、災害が起こる前から考えておくことが重要であると気づくことにあります。

 ゲーム感覚で楽しみながら、災害時の対応について考えることに、このゲームの意義があります。特に熊本地震を体験した私たちは、地震での対応を振り返るとともに、今後、災害が起こったときのことを真剣に考え、次の災害に備えることが可能です。

 まさに、震災時に迷いに迷った「決断を疑似体験」できるゲームになります。

カードゲームを通じ、市民を交えて熊本地震を対話で振り返った

カードゲームを通じ、市民を交えて熊本地震を対話で振り返った

「復興ミーティング」でクロスロードを実施

 私は、震災後に新しく設置された復興部の職員として、今回の地震の経験を振り返るとともに、今後の災害への備えや復興に向けたまちづくりについて語り合う場として、オフサイトの勉強会「つながるカフェ」や、職員を対象とした勉強会、市民の皆さんと語り合う「復興ミーティング」を開催しました。

 2016年11月23日に開催した「復興ミーティング」は市長、副市長などの幹部職員も参加しました。幅広い年代の市民の皆さんや職員と地震当時のことを振り返りながら、いくつかの事例についてYES、NOの判断をしてもらい、それぞれの判断について意見交換をしました。私は、全体のファシリテーターを務めましたが、特にYESとNOで意見が分かれたグループでは、なぜそう判断したのかについて、議論が白熱していました。質問がシンプルなので、それぞれの参加者が様々な仮定をしながら判断し、意見交換を通して、いろいろな考え方があるのだなと納得しながら、ゲームが進んでいきました。

クロスロードの問題

クロスロードの問題(クリックすると拡大されます)

 第8問目までは、市長と副市長の判断が全く一緒で、ファシリテーターの私としては、物足りない展開だったのですが、最後の第9問目の「り災証明を簡易調査で行うか、本格調査で行うか」で判断が分かれ、意見がぶつかるという展開で大いに盛り上がりました。このように市役所の幹部同士でも判断が分かれるということは、災害現場での判断の難しさを如実に表していると思います。

 参加者のアンケート結果では、「学生と社会人の意見、考えの差があることを知った。また、実際その状況になった経験をされた方もいて、その時にどんな決断をされたのか知ることができた(10代・女性)」「話し合って考えを整理することは、判断を的確に行うための手助けになると思った。このようなゲームでの体験は楽しく研修できるので、校区単位での防災研修に活用できると思った(50代・男性)」など、クロスロードを通して、決断の場面では多様な考え方があることを把握するとともに、事前に疑似体験をしておくことの大切さを実感し、「今後、こういった体験会を広げていくことが大事だ」との意見が多く出されていました。

 私自身、今回、ファシリテーターとして、全5回のクロスロードを体験しましたが、熊本地震を経験した参加者の意見は、実体験に基づいた真摯(しんし)なものが多く、それぞれの場面で被災者の皆さんが真剣に考え、判断し、地震による苦難を乗り越えてきたのだなと改めて実感することになりました。

大西市長もグループに参加し意見交換

大西市長もグループに参加し意見交換

今後のクロスロードの可能性

 熊本地震後も全国各地で大きな地震が発生しており、今後も、大地震が発生することが予想されます。クロスロードは、ゲーム感覚で気軽に災害時の対応を疑似体験することができ、もしもの災害対応に備えるのに有効な手段です。今後、私たちが経験した被災体験とともに、このクロスロードを、ほかの多くの地域に広げていく活動ができればと考えています。

 また、私たち自治体職員は、行政現場の様々な場面で判断しなければならず、その判断に迷うことも多いと思います。このクロスロードは、「災害時の対応をどのように考えていくか」をもとに作られていますが、災害時の対応だけでなく、行政現場における判断が分かれる業務の事例を、対話することで、みんなで考えていけるようなゲームとして展開できないかと思案しているところです。私自身の自治体職員としての成長を促す意味も込めて。

【平成29年1月28日開催】あなたが創るくまもと 復興ミーティング / 熊本市ホームページ

ファシリテーターを務める熊本市政策局復興部復興総務課の池田哲也さん

ファシリテーターを務める熊本市政策局復興部復興総務課の池田哲也さん

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■早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会とは
安倍内閣が目玉政策として進める「地方創生」をキーワードに、「地方」「自治体」のあり方に改めて注目が集まっている。市民との協働や官民連携が重要になっている中で、特に職員の働きが大きな鍵となっている。これまで自治体では民間の手法を用いた「スキルアップ」は数々試行されてきたが、本来的に必要なのは意識改革であり、人や組織を巻き込むことのできる人材が求められている。早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会では「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に、立ち位置を変え、主体的に動き、思い込みを打破するリーダーを育成することを目指している。
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