【一歩前に踏み出す自治体職員~ありたい姿の実現を目指して~】
第4回 「仲良し組織」から「SHIEN型組織」へ (2015/2/19 静岡県牧之原市産業経済部 商工観光課 総括主任 加藤智)
「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的にリーダー育成する、自治体職員のスキルアップ研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」受講生による連載コラム。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴っていただきます。第4回は静岡県牧之原市産業経済部商工観光課総括主任の加藤智さんによる「『仲良し組織』から『SHIEN型組織』へ」をお届けします。
「市民と協働したまちづくり」と職員の意識改革
2005年10月、静岡県牧之原市誕生とともに西原茂樹市長が就任し、「市民と協働したまちづくり」がスタートした。翌2006年には、利害関係者が集まり、望ましい解決策を検討する「フォーラムまきのはら」、2007年度には市民主導で市長マニフェスト検証大会の開催、2013年には津波防災まちづくり計画を5地区で実施し、男女共同サロンの手法で計画書が作成された。この取り組みが第8回マニフェスト大賞市民グランプリを受賞するなど、市民主体のまちづくりが注目されている。
市民と協働したまちづくりを推進するには、市民と職員の両輪が稼働して前進するものであり、職員の意識改革も欠かせないことから、牧之原市は2008年度より早稲田大学人材マネジメント部会に参加させていただいている。
私が参加したのは2009年で、人事研修課で職員研修を担当していた時であった。研究会参加後は、職員に対話の重要性や手法についてどのように“気づき”を広げるべきかと考え、部会幹事を自治体に派遣する「幹事キャラバン制度」を活用した職員研修の開催や、情報共有の機会としてオフサイトでの職員研修報告会の開催、そのほか、人材マネジメント部会を参考に「対話を主に自組織の課題解決のために主体的に行動する」ための通年研修を御前崎市、菊川市と合同で実施している。
その結果、職員研修報告会の参加者は、初年度の2010年度は80人、2013年度には200人と年々増加しており、現在では市議会議員も参加してくれている。
また、職員研修についても研修カリキュラムや制度を見直し、指名制から自己選択制に変更したことで、主体的に研修受講する職員が2010年度の12.2%から2013年度では41.0%に増加していることからも、少なくとも職員の主体性は高まっている。
このように各種の職員研修も「サロン方式」を取り入れ、対話を重視した研修形式を積極的に進めたことで、対話の重要性に気づいた職員も増えたと感じている。
「コミュニケーションの充実が図られている」という思い違い
当市組織は職員400人程度の小規模組織で、その多くが牧之原市で生まれ育っているため、昔からの顔見知りが多く、性格や思考も何となく理解し合っている状態である。そのため、若手職員と管理監督職もプライベートな話題で雑談することも日常的であり、「職場の雰囲気も明るい」と他市から当市への交流職員から聴くこともよくある。
私自身この職場の雰囲気や上司と部下の関係性から見ても、「コミュニケーションの充実が図られた組織」と思い込んでいたが、それは思い違いであることに気付かされた。2014年度、人材マネジメント部会の佐藤淳幹事を講師に招き、人マネメンバー10人と部長職13人で組織の課題やそれぞれの役割等についてのダイアローグ(対話)を行った際、組織の課題について、「人間関係・コミュニケーション不足」を一番の課題に挙げていた。
「仲良し組織」から「SHIEN型組織」へ
つまりは、日常的な雑談ができる環境や人間関係、職場の雰囲気はあるが、負担や手間のかかるような新規事業の推進、効果的でない前例的事業の廃止といった真に必要な行政課題についての真剣な対話ができておらず、「係や課、部を越えて助け合う業務もできていない」ということである。
少子高齢化など社会環境等の変化や大規模な自然災害等により、それぞれの地域で解決すべき課題も解決策も異なり、さらには、今までのような担当者や担当部署のみでは課題解決につながらないことも多々生じている。地方分権の時代には、いかにこれらの課題に地域が創造性や独自性、そして関わりをもって解決していくのかが重要となってくる。
市民ニーズが多様化し職員が削減される現状においては、これまでのように、「すべて」を「担当者・担当部署が」行うのではいけない。係や部を越えた連携・協力など、今まで組織間の重なりがなかったところで重なりをつくり、組織内の壁を越えてそれぞれができることは主体的にやる、協力する、協力されるといった「SHIEN※」してもらう職員、「SHIEN」し合う組織に変化していかなければ、職員も市民も満足できるまちづくりは困難である。
※SHIENとは、舘岡康雄・静岡大学大学院教授が提唱しており、弱者支援のように相手を一方的に支えたり助けたりすることを意味する「支援」と異なり、SHIEN学でいう「SHIEN」とは、対等な立場で「してもらう/してあげる」を双方向に交換する行為です。SHIEN学について興味がありましたら、出張講座を開催させていただきますので、ご相談ください。
これから牧之原市ですべきこと
今まで実施していなかった部長職と人マネメンバーとのダイアローグのように、対話の機会が少なかった世代や職階を超えた縦断的な重なりや、ほかの自治体や企業との広域的な重なりの場を設け対話することで新たな気づきを得ることができる。今までは、職員の意識改革は人事担当部署の業務と思われることがあったが、人事担当部署から今の部署に異動した自分だからこそ、今まで以上に人材マネジメント部会での学び、気づきを実践する機会だと自覚している。
人マネメンバーとともに組織内外での対話の機会を広げていくとともに、「SHIEN型組織」への転換に向けて、まずはSHIENアドバイザーの資格を2015年度中に取得することが目標である。今後はルールづくりや実践の場を設けていくことや、組織内に限らず多くの自治体へ「SHIENの輪」を広げていく活動を推進していきたいと考えている。
- ■早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会とは
- 安倍内閣が目玉政策として進める「地方創生」をキーワードに、「地方」「自治体」のあり方に改めて注目が集まっている。市民との協働や官民連携が重要になっている中で、特に職員の働きが大きな鍵となっている。これまで自治体では民間の手法を用いた「スキルアップ」は数々試行されてきたが、本来的に必要なのは意識改革であり、人や組織を巻き込むことのできる人材が求められている。早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会では「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に、立ち位置を変え、主体的に動き、思い込みを打破するリーダーを育成することを目指している。
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