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「セクハラやじ」に潜む議会の根深い問題 (2014/6/24 政治山)

6月18日に開かれた東京都議会において、みんなの党の塩村文夏議員の質問中に女性蔑視ととられるやじを行った議員がいたとして海外でも報じられるところとなり、23日、大田区選出の自民党議員、鈴木章浩氏が名乗り出て、塩村議員に謝罪する事態にまで発展しました。この件について、政治山に議会に関する寄稿をいただいている東京大学大学院情報学環交流研究員の本田正美氏に伺いました。

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そもそも、やじは禁止されている?

――今回は、やじの内容が女性蔑視ととられる内容だったこと、そして、当初は誰がやじを発したのか分からないとされたことから、大きな騒動となったと思われますが、そもそも、議会においてやじを行うことは認められているのでしょうか。

「東京都議会の場合、東京都議会会議規則第43条で、発言はすべて議長の許可を得た上で行うこととされていますから、議長の許可を得ない発言は認められていません。当然、やじも会議規則違反であり、それを行うことは認められていません。やじがあっても、それは正式な発言ではありませんから、それがそのまま会議録に載ることもありません。ですから、議場でやじを行った議員を特定する作業をすぐに行わないと、今回のように会議終了後に『犯人探し』をしようとしても、それは難しくなります」

――では、質問者や答弁者以外は、基本的に静粛にしなければならないということでしょうか。

「会議規則に基づけば、そうです。一般的な常識に照らし合わせても、誰かが発言している時には静かに聞くべきですから、今回のやじの件でも、その内容の酷さと同時に、議会においてやじが行われていること自体も批判を呼び起こす原因になっているのだと思います。『必要なやじもある』とか『やじは議会の華』というのは議員の間では常識なのかもしれませんが、一般社会では受け入れられない非常識だと私は考えます」

――やじが非常識でありながら常態化しているのであれば、会議規則の意味がないのではないでしょうか。

「議会には様々な背景を持った議員が集まります。そこでのやりとりは、いわば政治の現場そのものとなるわけですから、時として、やじや合いの手などの会議規則に反する不規則発言があることもあるでしょう。実際問題として、そのすべてを法律で禁じて、規則違反として片付けるわけにもいかないのではないでしょうか。やじなどは会議規則に反する行為ではありますが、すべてを逐一取り締まるのではなく、その場その場の判断で、あまりにも酷いやじなどについてのみ議会として毅然と対応する。それぞれの議会で、地方自治法や会議規則も鑑みながら、有意義な議事運営がなされるような工夫を不断に行っていくべきなのだと思います」

都議会における最初の対応が間違っていたのではないか

――議事運営の工夫という意味では、そもそも、やじがなされたその場で何らかの対応が議会として必要だったのではないでしょうか。

「その通りです。そういう意味では、議会としての最初に取るべき対応に都議会が失敗したと言え、やじを行った議員だけではなく、都議会を構成する全議員の見識が問われた事件だったと思います」

――では、実際に、どのような対応が考えられたのでしょうか。

「先ほど、議長の許可を得て発言をする必要があるという会議規則を紹介しましたが、あまりに酷いやじが続くようであれば、地方自治法第129条に基づき、議長が議会の秩序維持のために、やじの制止ややじを行う議員を議場から退出させることができました。本会議においては議長の役割は非常に重要ですから、質問者の人格を否定するようなやじがあれば、まずは議長が毅然と何らかの対応をすべできあったと思います」

――議場にいた議員はどのような対応ができたのでしょうか。

「質問を行った塩村議員も、例えば質問終了後に、やじが酷かった旨を議長に抗議することができました。塩村議員の人格を否定するような内容のやじであり、そのようなやじを行うことによって塩村議員の質問を遮ることを意図していたと思われますから、質問を終えた直後などに、議長に対してやじについて抗議すべきした。あまりに酷い内容のやじであったため、あの場で抗議することが咄嗟にできなかったのかもしれませんが、議会で起きたことである以上、その場で解決を図るよう努めるべきだったと思います」

「その他にも、あの議場にいた議員、特に塩村議員が所属する会派のみんなの党の幹事長などがやじを行った者を特定することを求める動議を出し、毅然とした対応を求めるべきでした。そのような動議が他の会派からも出されなかったわけですから、都議会全体が女性蔑視ととられるやじを許容する議員の集まりであると言われても仕方がありません。あのようなやじを行った議員だけが責められるべきではなく、もっと根深い問題がそこには横たわっていたのではないでしょうか」

本田正美氏【取材協力】
東京大学大学院情報学環交流研究員 本田正美

1978年生まれ。東京大学法学部卒。2013年、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。現在、東京大学大学院情報学環交流研究員。専門は、社会情報学・行政学。特に電子政府に関する研究を中心に、情報社会における行政・市民・議会の関係のあり方について研究を行っている。共著本に『市民が主役の自治リノベーション』(ぎょうせい刊)がある。
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