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地域の独自色が出るポエム条例、全国でポエム化は拡がるのか!? (2014/4/18 政治山)

関連ワード : 人吉市 本田正美 村口隆 条例 熊本 税金 

 今年1月14日にNHKのクローズアップ現代「あふれる“ポエム”!? ~不透明な社会を覆うやさしいコトバ~」の中で取り上げられた、熊本県人吉市のポエムを使った条例。条例をポエム化した背景や他自治体の状況について、東京大学大学院情報学環交流研究員の本田正美氏に伺いました。

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ふるさと納税をポエムでうたう

 ――人吉市で制定された条例の名称を教えてください。

「『子どもたちのポケットに夢がいっぱい、そんな笑顔を忘れない古都人吉応援団条例』です」

 ――その条例のどこがポエムなのでしょうか。

「この条例の第1条の前に、以下のような前文が付されています。

人吉をふるさとだと思っていただいているすべての方々に伝えたい。
ふるさとはあなたの思い出のとおり、今も青い山々と翠(みどり)なす球磨川のきらめきの中で春夏秋冬を優しく刻んでいます。
あの春の日、大きな夢と少しの不安を抱いて旅立った人吉駅のプラットホームは、昔と同じ官製(昭和)の匂いがかすかに残ったまま新生SLを迎え、秋空に響き渡るおくんち祭りの青井さんは国宝になりました。

実際の条例では、もう少し『ポエム』が続きます」

 ――ポエムが条例に付されているということですね。この条例は何を定めているのでしょうか。

「条例自体は、いわゆる『ふるさと納税』に関するものです。第1条以下は一般的な条例の文言です」

 ――このような「前文」が条例に付されることは一般的なのでしょうか。

「人吉市の事例のような『ポエム』が付されることは一般的ではありません。ただ、『前文』は珍しいものではありません。例えば、2006年に北海道栗山町議会が全国に先駆けて制定した議会基本条例にも、前文が付されています。現在は400を超える議会によって議会基本条例が制定されていますが、その大半に前文が付されています」

理念をポエムにすることで地域の独自色を出す

 ――なぜ「前文」の「ポエム化」が起きたのでしょうか。

「地方分権一括法施行以降、全国各地で独自色を出した取り組みが行われるようになっています。ポエムを付すことは、条例で独自色を出すための工夫の一環ではないでしょうか」

 ――このような「ポエム化」は今後も広がっていきますか。

「人吉市議会議員の村口隆さんに情報提供をいただいたのですが、先の3月議会には、『ひとよしから、米を原料とする球磨焼酎の地域文化を紡ぎ広める条例』が提案され、この条例の前文にも『ポエム』が付されていたそうです。具体的には、以下のような文章から始まります。

 清流球磨川、こんこんとたたえる水。黄金に輝く稲穂。みず穂の里人吉(ひとよし)は、晩秋、朝霧が濃くなる頃、球磨焼酎(くましょうちゅう)造りが始まる。なめらかで、厚みのある焼酎。香りの焼酎。蔵元に息づくそれぞれの味わい。

この後、最初に出された応援団条例の前文よりも長く、『ポエム』が続きます」

 ――その条例は成立したのでしょうか。

「村口さんに伺ったところ、委員会では成立せず、継続審査となったそうです。市の執行部からは、政策条例についてはポエムが付されることに問題もあるが、理念条例では前文が必要であり、それはポエムであっても構わないという趣旨の答弁があったそうです」

 ――政策条例と理念条例について教えてください。

「政策条例は予算措置が伴う条例を指し、理念条例は何らか理想などを掲げるに留まる条例を指します。各地で広まっている“ご当地のお酒で乾杯をしよう”という『乾杯条例』も理念条例の一種です。予算措置を必ずしも必要としないことから理念条例を定めることのハードルが低く、理念条例の濫造という事態が起きつつあると言っても良いと思います。そして、理念を掲げる際に、具体的な条文の中で独自色を出すことが難しいことから、『ポエム』という前文を付す。そのような選択をする例が各地で今後も見られることになるのではないでしょうか」

本田正美氏【取材協力】
東京大学大学院情報学環交流研究員 本田正美

1978年生まれ。東京大学法学部卒。2013年、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。現在、東京大学大学院情報学環交流研究員。専門は、社会情報学・行政学。特に電子政府に関する研究を中心に、情報社会における行政・市民・議会の関係のあり方について研究を行っている。共著本に『市民が主役の自治リノベーション』(ぎょうせい刊)がある。
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熊本県人吉市「子どもたちのポケットに夢がいっぱい、そんな笑顔を忘れない古都人吉応援団条例(外部サイト)
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