熊本地震から1年、震災が明らかにした地域の課題 (2017/4/28 政治山)
2度の大きな揺れに襲われた熊本地震から1年。今なお多くの被災者が避難生活を余儀なくされていますが、復興に向けてどのような取り組みが行われているのでしょうか。震災直後に現地入りして今も活動を続けている、日本財団災害復興支援センター熊本本部の梅谷佳明センター長にお話をうかがいました。
震災直後に現地入りし、被災者とボランティアを支援
――被災地入りした経緯を教えてください。
2016年4月14日と16日に震度7の地震が起こり、当財団としては職員である黒澤司が先遣隊として直ぐに益城町に入りました。私は、同月22日に熊本入り、26日には熊本県との協定に基づき、熊本市中央区に「日本財団災害復興支援センター熊本本部」(以下、センター)を開所しました。
センターは、被災した方からのご相談や、多くのNPO団体やボランティアの方々の打ち合わせ場所として、延べ約5,000人にご利用いただきました。NPOは開設当初から30団体が登録し、活動の拠点としても活用されました。
また支援する人や団体をサポートする中間支援だけでなく、弔慰金・住宅損壊見舞金の申請窓口としての業務も行い、センターでは1,356人の申請を受け付けました。
今回の地震では多くの住宅が甚大な被害を被ったため、家屋損壊(全壊・大規模半壊)等への見舞金は当初の想定よりも大きく膨らみ、弔慰金とあわせると2万3,654世帯に対して合計47億3,080万円と大規模なものとなりました(2016年4月19日に日本財団が発表した、この分野における支給額は20億円)。
熊本城は県民の心の支え
――日本財団では早い時期に「熊本城再建」を打ち出しました。
私自身、熊本の出身なのでよく分かるのですが、地元の人にとって熊本と言えば、熊本城なんです。多くの子どもたちが遠足などで訪れますし、熊本市内の小学生であれば必ず、石垣を写生します。県民の心の支えでもある熊本城が崩れた様は、被災者をさらなる不安に陥れていました。
そんな中、「熊本城再建に30億円」というメッセージはインパクトがありました。最終的には600億を超える修復費用がかかり、全面修復には20年とも30年とも言われていますが、当財団のメッセージが呼び水になって、多くの寄付が集まる契機になったことは間違いないのではないでしょうか。
この30億円は、2017年から2022年までの6年にわたって5億円づつ、熊本市に対して助成する形で実行されます。熊本城は現在も立ち入り禁止となっていますが、まずは1日も早く、多くの県民の方々、また観光で訪れた方々が、天守閣まで行くことができるように支援したいと考えています。
長期にわたる修復事業には石工の養成も
――再建までの道のりは長くなりますね。
私たちが元気なうちに再建するのは難しいかもしれませんが、世代を超えた取り組みを視野に入れ、修復事業が検討・推進されています。
例えば、熊本市の石垣再生チームでは、石工の養成にも取り組んでいます。熊本城最大の魅力でもある石垣を修復するには長い年月がかかります。しかし石工も減少しており、一説には全国に200人ほどしかいないと言われています。
それらの技能をきちんと伝承していかなければ、近い将来、実際に作業する人がいなくなってしまいます。担い手の育成を含めて長期的な計画を立て、実行していく必要があります。
果たすべき役割は官民の狭間を埋めること
――日本財団が担う役割をお聞かせください。
私たちの仕事は、官民の狭間を埋めることだと思います。今回の震災のような大規模災害時には、どうしても行政だけでは手が回らなくなります。どの自治体でも行政改革によって人員の削減が進んでいます。
被災した人すべてが避難所に集まるわけではなく、今回顕著であった車中泊や軒先避難などの状況は、把握することすら困難でした。自治体の職員の方々は被災者からの問い合わせや相談が殺到すれば、どうしても対応は後手に回ります。当財団では、被災者と行政との間で、避難所での環境改善の対応であったり、被災者の実情調査を行ったりしました。
また、被害の大きかった益城町の木山地区に当財団の職員が常駐していました。彼は集まるボランティアをコーディネートし、支援活動に従事していました。地震によって壊れた家屋の中に入ることは危険ですが、専門的な経験と知識を活かし、安全を確保しつつ活動します。倒壊した家屋の中から、入れ歯であったり位牌であったり、またタンス預金であったりとか探したいなどの困りごとは、被災者にとっては切実な問題だったのです。
阪神大震災や東日本大震災、中越地震などの経験と学びを持った県外からの支援者は、復旧・復興には大きな力となっています。
地域の情報を共有してコミュニティの活性化を
――大規模災害にどのように備えるべきでしょうか。
被災地に1年いて痛切に感じることは、元々ある社会課題が震災によって顕在化したということです。具体的には、地域コミュニティの機能不全、少子高齢化と単身世帯の増加、目や耳、足の不自由な方への配慮不足、外国人への情報伝達不足、そして都市と中山間地域の二極化などです。
足の悪い方が近くにいることを知っていれば避難時にサポートすることができます。倒壊した建物から被害者を救出する際、そこにどのような人が何人住んでいるのか、またどの部屋で寝ているのかなどは貴重な情報です。
熊本市内の市街地の復旧・復興は進んでいますが、交通の便の悪い地域ではまだ倒壊した建物の解体が進んでいないところもあります。また現在でも、飼い犬と離れられずに、避難所や仮設住宅にも入らず、崩れそうな自宅を壊すこともできずにそのまま生活している人もいます。
日頃から地域のコミュニティを活性化させること、情報を共有すること、自助共助の精神を養うことが何より大事だと思います。災害復興支援センター熊本本部は5月の連休明けに閉鎖しますが、東京からの支援は継続します。物的な支援だけではなく、被災者の心に寄り添ったきめ細かな支援を、これからも心がけていきたいと思います。
――本日はありがとうございました。
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