家族それぞれの自立をめざして~親あるうちに~ (2017/3/24 日本財団)
「みんなねっとフォーラム2016」開催
全国精神保健福祉会連合会が東京で
公益社団法人 全国精神保健福祉会連合会(東京都豊島区)は3月3日(金)、東京都内で「みんなねっとフォーラム2016」を開催しました。「みんなねっと」は同連合会の愛称、国内で唯一の精神障害者家族会の全国組織です。今回のフォーラムは標題「家族それぞれの自立をめざして~親あるうちに~」を掲げて、精神障害者と家族についての理解と啓発を進めるための講演とシンポジウムを実施し、約560人の参加がありました。日本財団は2008(平成20)年から同会に助成をしています。
みんなねっとは2006(同18)年に設立。47都道府県の家族会が会員となり、全国の精神障害者本人やその家族の声を集め、より暮らしやすい社会や偏見・差別のない社会、病気や障害があっても孤立せずに安心して暮らせる社会、の実現を目指して活動をしています。毎年度開いているフォーラムを今回も東京都豊島区東池袋の帝京平成大学沖永記念ホールで開きました。
プログラム午前の部は最初に同連合会の本條義和理事長が、北は北海道・東北、南は九州・沖縄の各地から多くの人たちが参集してくれたことに感謝の言葉を述べ「精神保健福祉法改正案が先般まとまりました。残念ながら私たちの最大の関心事である医療保護入院における家族の同意はなくなりませんでしたが、大きな前進をみたところもあります」と開会のあいさつをしました。
続く来賓あいさつで厚生労働省の田原克志精神・障害保健課長は「3日前の2月28日に精神保健福祉法の改正案が閣議決定され、国会に提出されました」と紹介し、改正法案の背景や経緯、主な内容について詳しく説明をしました。神奈川県相模原市の障害者支援施設の事件では、犯罪予告通り実施され、多くの被害者を出す惨事となりました。田原課長の説明によると、この事件を受け改正案は、措置入院患者が退院後に医療などの継続的な支援を確実に受け社会復帰につながるよう、地方公共団体が退院後の支援を行う仕組みを整備する、精神保健指定医の資質を担保するため指定医の指定・更新条件を見直す‐ことなどが主な趣旨になっています。
この後、児童精神科医として活躍している夏苅郁子さんが「それぞれの自立をめざして-本人・家族・医療者が、共に考えられる社会へ」と題し講演をしました。夏苅さんは精神科医の夫と2000(同12)年に静岡県焼津市で「やきつべの径(みち)診療所」を開業。さまざまな心の問題を抱える子どもと保護者の相談や診療に従事する一方で、統合失調症だった母親との体験を踏まえ、社会が統合失調症への理解を深めるよう、著書や講演などを通して訴え続けています。「やきつべの径」は古道の名称からとった名前だそうです。
講演で夏苅さんは、当事者・家族・精神科医の3つの立場を持ちながら生きてきたことを詳しく述べました。夏苅さんは2011(同23)年に、お母さんが統合失調症だったこと、自身も精神科に通院していた当事者であったことを公表。公表する前は自分が当事者・家族であるという事実に素直に向き合えず、28歳から亡くなる78歳まで50年も通院していたお母さんを不幸な人と思い、母親や壊れた家族のことなど早く忘れたいと思っていました。
しかし公表後に全国の家族会や当事者の会の前で繰り返し話すうちに、みるみるうちに元気になっていきました。「病気になり、とうとう治らずに亡くなった不幸な人」だったお母さんは、たった一人で一生懸命生きた「尊敬する母」に変わりました。今は毎日遺影に「お母さんの生き様を私も体現していくからね」と語り掛け、講演ではいつもお母さん手作りのスーツを着て話をしているそうです。
夏苅さんは当事者・家族それぞれの自立には、診療に当たる医師の変化・自立が必要だと指摘した上で、当事者が「語ることは治療になる。私は語ることで、自分の人生にも意味があったと思えるようになった。私はそうやって回復した。知ってもらわなければ、支援は広がらない」と訴え「たくさんの人と時間を費やしながら…人は人を浴びて人になっていく」「いくつになっても人が回復するのに締め切りはない。私は、この言葉を抱きしめてこれからもいきていく」と述べて講演を終えました。午後のプログラムは「訪問看護」に焦点を当てたシンポジウム。「それぞれの自立~開かれた対話~」を標題に掲げ、訪問看護を利用している当事者と支援者、訪問看護を利用している当事者家族と支援者‐の二組計4人のシンポジスト(意見発表者)が、基調となる体験や考えを紹介しました。司会進行役は帝京平成大学健康メディカル学部の大塚淳子教授、助言者として夏苅さんが加わりました。
一組目の当事者は26歳の女性。学生時代に引きこもりになり2年間家から出られなくなった、親の言葉さえも信じられなくなった、統合失調症を発病しパニック状態が続いた、医師や看護師ともコミュニケーションがとれなかった-ことなど不安に満ちた体験を披露し、併せて、そこから家族と共に歩んだ回復への道のりを詳述しました。今はアルバイトもして、友人と遊んだりお茶を飲んだりして楽しんでいるそうです。専門の人が相談に乗ってくれる訪問看護の心強さ、気分転換になる話せる相手、友人ができ孤独にならずに過ごせる場となっている他の支援やデイケア。「孤独から離れる。ハードルを下げる。自然体・等身大」。これが「自分で見つけた、自分の助け方」だと話しました。この女性に寄り添ってきた看護師の三ツ井直子さんは支援者の立場から、その思いを説明しました。
二組目の当事者家族は主婦。統合失調症を発症した娘さんは3回の入院を経て、以前主治医だった先生の開院に伴い、訪問診療を受けるようになりました。娘さんの通院の経過や通院治療と訪問診療の変化や比較について話し、発症以来初の来客が訪問診療。訪問診療になって薬が2種類減り、行動にも変化が見られ、4年ぶりに祖父宅に行くようになりました。親自身も外の活動に参加するなど元気になったことも併せて話しました。訪問診療をする医師とともに支援をしてきた精神保健福祉士の佐藤晋さんは、実際の訪問の内容を交えて支援者の思いを紹介しました。
最後に同連合会の松澤勝副理事長が閉会のあいさつをし、メリデンという英国の家族支援手法について言及。「3月27日(月)に発表会を予定している。訪問看護の中にメリデンの手法をいかに取り入れるか皆さんと一緒に考えていきたい」と呼び掛けました。これは「メリデン版訪問家族支援事業のこれまでとこれから」と題した報告集会で、3月27日午後1時からJR池袋駅東口のアットビジネスセンター池袋駅前別館7階706号室で開かれます。定員100人、参加費は無料です。この集会も日本財団助成事業の一環です。
●誰もが安心して暮らせる社会のために(2015.11.20)
●みんなねっと(全国精神保健福祉会連合会) ウェブサイト
- 関連記事
- 障害者トップアスリートに歯科支援
- 「自分に関係のあるお金」でないと意味がない
- 保護より機会を―障害者の就労支援「はたらくNIPPON!計画」
- パラスポーツを通じて障害者への理解を
- ソーシャルイノベーション関連記事一覧