「自分に関係のあるお金」でないと意味がない―就労支援フォーラム2016 (2016/12/20 政治山)
12月3日、4日の2日間にわたって、東京・新宿で「就労支援フォーラムNIPPON 2016」が開催されました。今年で3回目となる同フォーラムは日本財団と実行委員会の共催によるもので、障害者の就労支援にかかわる事業者や自治体、行政関係者など約1500人が参加、情報を共有し意見を交換しました。
1日目は、以下の3つのパネルディスカッションが行われ、その後のナイトセッションでは実践報告のポスターの前で、閉館ぎりぎりまで活発な意見交換が行われました。
(1)「モノを売るためのヒント~価値を高めるデザイン力~」
「買ってもらう」モノから「買わずにはいられない」モノへ、価値づくりとどのように向き合うべきか
(2)「働くこと、雇うこと⇔雇ってもらうこと、働いてもらうこと~それぞれの課題と責任、希望と期待~」
雇用率達成のための「義務」ではなく、意味と意義のある雇用にするための一歩とは
(3)「生活支援なくして就労支援なし~働くために必要なケアを学ぶ~」
魅力的な事業でも生活支援は必要、そのポイントと具体的手法について
2日目も早朝から多くの参加者が集まり、「ヒント!パーク」では前日の熱気そのままに意見が交わされ、その後12のテーマごとに分科会が開かれました。そして午後のシンポジウムには、就労支援の道を切り開き、多くの障害者の暮らしを支えてきた団体の責任者が一堂に会しました。シンポジウムの概要は以下の通りです。
30年前と変わらぬ現状を直視すべき
コーディネーターを社会福祉法人維雅幸育会の松村浩常務理事と同会ふっくりあモォンマールの奥西利江管理者が務め、全国社会就労センター協議会の叶義文副会長、きょうされんの赤松英知常務理事、一般社団法人ゼンコロの中村敏彦会長、公益財団法人日本知的障害者福祉協会の榊原典俊副会長、日本財団SI本部国内事業開発チームの竹村利道チームリーダーが登壇しました。
シンポジウムの冒頭では竹村氏が「いまや自動車は本当に“自動車”になろうとしている。これまでは自動車と言いつつ運転は手動だった。今は死語だが、昔はパワステ、パワーウィンドウという言葉もあった。後部座席の窓は運転中、一人では操作できなかった。それが完全に自動化されようとしている。時代は変わっているんです。なのに30年前、高知で、洗濯ばさみの組み立てをしていた作業所の工賃は月6000円で、今は9000円。そして同じ作業をしている。誰一人としてこのままでいいとは思っていない。関係者の長年の努力と積み重ねてきた実績には心から敬意を表します。しかし、その人たちが“変わらない今”を作り上げてきたとも言えるのではないでしょうか」と問題提起しました。
コーディネーターの奥西氏は「第1回目のフォーラムでは、これまでに参加した全国社会就労センター協議会などの研修会でいつも会ってる人にはほとんど会わなかった。それだけ多くの人がこの課題に取り組んでいることに衝撃を受けた。現状の取り組みと課題を共有し、自分の立ち位置を確認する機会は貴重」と述べ、本フォーラムの意義に触れました。
その後は各団体が設立の背景と取り組みを紹介し、現状打破に向けて意見を交わしました。「それぞれの団体の特徴を一言で表すと」というコーディネーターの問いかけに榊原氏は「主体的な自立」、中村氏は「当事者主体、企業性、民間性、公とは違う視点で考えよう」、赤松氏は「もっともしんどいところに光を当てる」、叶氏は「障害者の働く・暮らすを支える」、竹村氏は「現状打破 変革」と述べました。
A型B型の分類では不十分
また、雇用契約を結び給料を受け取るA型と、通所して授産的な活動を行い工賃を受け取るB型の区分(※)については、中村氏は「現状が良いとは思っていない、在宅就労はABともに認められている、テレワークなどICTが担う役割も大きい」と述べました。
竹村氏は「多くの障害者がワーキングプア、およそ25万人が苦しんでいる。わずかな就労の対価に変えるために税金が投入されるなら、年金等で直接支援を手厚くした方が良いのではないか、という視点も必要では」と再び問題提起しました。
それを受けて、中村氏は「今のお金の使われ方は、国のためにも本人のためにもならない。一方、就労の権利は保障されなければならない」、叶氏は「働くことは生き甲斐でもある、一概には言えない」、赤松氏は「予算の拡充は必要、年金充実だけでは足らない、働くことは経済基盤だけが目的ではない」と述べ、竹村氏の発言に理解を示しつつ異議を唱えました。
さらに榊原氏は、「重度、軽度で決めつけるのは差別。働くことの意味 目的、所得、仲間、自分に関係のあるお金かどうかが重要。ABの分類は行ったり来たりを柔軟にできるようにすべき」と述べ、受け取るお金の性質を強調、中村氏は「こんな中途半端な分類はない。二重契約も生じている。不十分な制度だ」、赤松氏は「ABの分類は不要、労働法を適用していくべき」、叶氏は「B型は新聞に「無職」と載る、労働者ではない障害者が20万人以上いるが、B型も大事ではある」と述べました。
思い込みが変化を妨げている
竹村氏は「事業者には思い込みがある、ラーメン屋のご主人が就労支援をするのに軽作業の作業場を運営していた。軽作業をしないといけないという決まりはないんだからラーメン屋で就労支援をすればいいじゃないかということで、実行に移すことになりました。日本財団が全国の就労支援事業所16,000カ所すべて回って変えていくことはできないが、加速させるために協力したい。榊原さんがおっしゃった「自分に関係のあるお金」でないと意味がない、自分に対する評価、労働への対価であるべきで、それが利用者の自信につながります。そういった個人の意識の変化が、生活保護や助成金ありきの現状を打破するきっかけとなるのではないでしょうか。ABの区別は、事業者側の都合になっていないかという問いかけも必要」と主張しました。
最後に、シンポジウムのテーマである「学ぶべきもの、変えるべきもの、認めあうもの~変わり続けること。それは誰のためか~」について、叶氏は「当事者のため、就労、自立、職住分離が大事」、赤松氏は「働く支援だけでは不十分、暮らしを支える、就労支援だけではない、障害者権利条約で定められた権利を実現すべき」、中村氏は「事業の収益性の確保、障害者の職域確保、自分たち以外の取り組みを学び認めることが大事」、榊原氏は「相模原事件からも学ぶことも必要、犯人は障害者は役に立たないから殺したと語った。役に立つ人たちになれば、世間の見方も変わるのではないか」とそれぞれ見解を述べました。
竹村氏は「就労支援だけでなく、生活支援が大事、理念は大事だが手法は変えていかないと。私の事業所も税金の補助も受けているし、日本財団の補助も受けてきたが、支援費がなければ事業者も必死になるのではないか、という問題提起もしていきたい」と述べ、コーディネーターの松村氏が「各団体の代表が一堂に会して討論するのは初めて、今後も継続していきたい」と締めくくりました。
事業は進化する、障害者は成長する
シンポジウムの後のエンディングでは公益財団法人全国シルバー人材センター事業協会の村木太郎専務理事が総括として、「目指す方向は同じ、互いに学び続け、現状を変えていこう。これまでありがとうとだけ言ってきた障害者が、働くことでありがとうと言ってもらえるようにしよう」と呼びかけ、最後に5つのヒントを紹介しました。
- 事業は進化する、障害者は成長する
- 運営力ではなく経営力が必要
- 外に出よう、地域の役に立とう
- 学びあう、競いあう
- 生きづらさを抱えた人を支える
※A型とは、厚労省の定める就労継続支援A型(雇用型)のことで、企業等に就労することが困難な者につき、雇用契約に基づき必要な支援を行います。B型は就労継続支援B型(非雇用型)とされ、通常の事業所に雇用されることが困難な障害者に対して、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練、その他の必要な支援を行います。
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