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ミャンマーの子どもたちに健康な歯を―歯科医師たちのボランティアツアー (2016/2/10 日本財団)

ミャンマーの穀倉地帯イラワジを行く

1月下旬、日本財団TOOTH FAIRYプロジェクトに協力する歯科医師たちのミャンマー・ボランティアツアーが行われました。5回目の今年は、これまでの北東部シャン州から南西部イラワジ地区に場所を移して実施しました。

“開放”ミャンマーを謳歌するヤンゴンから西へ、アジア有数の大河イラワジ川を渡ると、次第に田畑が広がります。車を走らせること4時間、地区の中心都市パティンに到着。そこからさらに南へ30分、ビャンイェージョー学校に総出の村人が到着を待っていました。

子どもたちと一緒に交流した歯科医師ツアー

子どもたちと一緒に交流した歯科医師ツアー

全校生徒405人。2015年5月、TOOTH FAIRYプロジェクトの一環として新校舎が完成しました。村人は田畑で米や豆を栽培し、川で獲った魚を売って暮らしています。収入は日本円で1万円から3万円程度、貧困が全土にはびこるミャンマーでは比較的豊かな一帯といえます。それでも新校舎建設に際し、持続可能か、議論になったそうです。

「村の長老が『候補から落とすなら、俺を殺してからにしてくれ』と懇願、その熱意に動かされた」。日本財団から委嘱され、学校建設事業が始まった2013年から現場で先頭に立つ平野喜幸氏は、この地を選んだ理由を話します。村人総出の歓迎の背景です。

地元の民家にあがり生活調査をする(左から)井出壹也先生と角町正勝先生

地元の民家にあがり生活調査をする(左から)井出壹也先生と角町正勝先生

歓迎セレモニーの後、参加の歯科医師13人と南米から東京医科歯科大大学院に留学中の院生2人が3人1組で家々をまわって生活環境を調査。家族構成から年収、食生活と歯磨き習慣、歯科予防と病気の関係との知識など、家にあがり、膝を交えて話を聞きました。民俗学のフィールドワークを思わせる光景です。恥ずかしげに答える人、誇らしげに歯をみせる人、どの家も家族分の歯ブラシがちゃんと揃えてあります。ただ、町から離れ、歯医者に縁はなく、虫歯ができると石灰を混ぜた奇妙な粉薬を詰めるそうです。これが農村の現実です。

地元の男の子を診察する猪狩哲明先生

地元の男の子を診察する猪狩哲明先生

学校に戻ると新校舎の教室で口腔ケア。3人1組、ローテーションで居並ぶ生徒たちを診ていきます。法律の壁があって、治療はできません。隔靴掻痒(そうよう)ながら、1人ひとり、丁寧に虫歯の有る無しがチェックされました。

「いいよ。グッド!」。親指を立てられて笑顔をみせる女の子。「虫歯があるから治療しないと…」と指摘され、泣きそうになる男の子。すべての生徒が歯科医に診てもらったことはありません。「歯は元気に大きくなるために大事にしないといけないよ」。言われた言葉に真剣にうなずく瞳が新鮮でした。

日本では取り立てて「歯磨き指導」をすることはありません。しかし、ここミャンマーはまだ途上段階、いちから歯の予防を呼びかけなければならないのです。地域の歯科医師会役員は「指導も診察も足りていない。歯科医が足りず、手がまわらない」と苦しい実情を訴えます。

2日目はパティンから北東へ車で2時間、パヤージーゴン学校を訪ねました。小中学生が学ぶ前日の学校と比べ、高校生まで586人が通っています。イラワジ地域でも有数な進学校だそう。村の月収も3~4万円とやや高めです。

教育が行き届いているのでしょう、整然とした歓迎に驚かされました。ここの新校舎は16年2月に完成、TOOTH FAIRYプロジェクトでは最も新しい学校です。学校建設では地元に4分の1の負担を求めます。「自分たちの学校だ」と強く意識させるためです。負担分は完成後、学校に還元されます。同校では学校田を購入、栽培した米や豆を売ってランニングコストにあてています。意識の高い学校なのでしょう。虫歯をもつ生徒の割合も前日の学校より少なかったのです。

ハイスコープで女の子の口の中を見る三上博子先生

ハイスコープで女の子の口の中を見る三上博子先生

ここでは地元歯科医師会と協力、日本側の診察をもとに治療も行われました。ミャンマーの農村には先端の器具がなく、虫歯は抜くしか方法はありません。麻酔注射をうち、虫歯を抜いていく。野戦病院を思わせる状況が広がっていました。

「日本では麻酔薬を塗り、痛みを和らげるよう細い針で患部近くに麻酔注射をして抜歯する。ここでは薬を使わないし、針も太い。麻酔がかかっている時間も長い。正直、遅れていると思ったが、器具もなく、歯科医も近くにいない状況ではこれが正解なんですね」

初参加の兵庫県神戸市の大槻有美先生は、「単に遅れていると思っていた先入観が覆った」と話します。東京都の猪狩哲明、佐賀県の久野麻弓先生も初参加。「来てみて初めてわかる現実がある」と口を揃えます。日本ではあたりまえのことが、ミャンマーでは現実ではありません。ただ、親が子を思い、健康を願う気持ちは同じです。久野先生は「少しだけ手を差し伸べてあげれば、子どもたちも地域も変わる。そこに気づかされた」と話していました。

子どもたちは贈られた歯ブラシでさっそく歯磨き

子どもたちは贈られた歯ブラシでさっそく歯磨き

静岡県の小山和彦先生は5回皆勤です。「毎回新たな発見があり、それが続けてきた理由」と笑います。初のイラワジでは置かれた環境の違いに着目しました。「南は海も近く豊か。その分、甘いモノも簡単に手に入る。いかに予防が大切か、そこを徹底しなければ…」

モノがなければ虫歯もありません。教育が行き届けば虫歯は減ります。中途半端がいけないのです。継続こそ力です。ツアー参加の歯科医師たちはそれぞれ、感慨をもって交流ボランティアを終えたのでした…。

●TOOTH FAIRY プロジェクト ウェブサイト

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