いま、起きていることを。 (2019/3/11 70seeds)
取材、その後。3.11特集 fukunomo 小笠原さん
「風化させてはいけない」。
歴史に残るような大きなできごとがあるたびに、そして時間が経過するごとに繰り返される言葉。でも、「風化」とはなんなのだろうか。それは誰にとってどんな意味を持つことなのだろうか。
2011年3月11日に発生した、東日本大震災から8年。70seedsでは、これまでに取材した方の「その後」を届ける中で、震災の「風化」に迫っていく。
「復興」や「風化」より「福島が好き」
「風評や風化を意識したことがない」
前回記事でのそんな言葉が印象的だった小笠原隼人さんは、震災後の福島県における復興活動、PR活動の中心人物のひとりだった。
だが彼が考え、取り組み続けてきたのは復興そのものを目的とするのではなく、「福島のいいもの」を「ストーリー」とともに届けること。
その思いが形になったのが、地元の面白い人に出会えるスナック「SHOKU SHOKU FUKUSHIMA」や、福島の日本酒を月定額制で食材とともに届けるサービス「fukunomo」だ。取材時130人くらいだった購読者も少しずつ増えている。
「『fukunomo』の和もあれからちょっとずつ広がってきました。そのうち復興支援として買ってくださってるのは1割くらい。後の9割は『福島が好きだから』と答えてくれています」
「fukunomo」をきっかけに福島を訪れた方も数名生まれている一方で、課題として感じているのは「一方通行になっている」こと。よりお互いの顔が見える取り組みとして、『fukunomo』が届いたら全国で一斉にオンライン飲みをやりたい、などの構想があるのだそうだ。
話をしている中で、「顔」という言葉が、小笠原さんの口から度々出てくることに気づいた。
「挑戦」の先にあった「豊かさ」
小笠原さんが2012年に福島を訪れたときは、「課題先進地」として挑戦することが一番のテーマだった。だが、福島で過ごす日々と出会いが、小笠原さんにとっての「福島」に新たな意味をつくりだしている。
「福島の外からやってきて、日本酒もほとんど呑まなかった私が、福島の日本酒の素晴らしさを広める『fukunomo』の活動を3年間も続けてこられたのは、酒蔵さんを始め、様々な協力者の方に支えていただけているから。本当にありがたいことですよね」
『fukunomo』を支えてくれている人の顔を思い浮かべると、どの表情も「楽しそう」にしている、と小笠原さんは続ける。それは「復興」や「地域活性化」といった社会的意義だけでは得られなかったものだ。
「正しいから」だけではなく、「楽しいから」「好きだから」そんな気持ちを大切にするためにはどうしたらいいか、関わってくれる人が楽しくあり続けるためには――。そんなことを考え続けているからこそ、小笠原さんの脳裏にはいつも「顔」が浮かぶのかもしれない。
「いま、私のとっての福島は『人生の豊かさを感じられる場所』です。気の置けない仲間が増えたことで、刺激に溢れた挑戦の舞台であるという側面だけでなく、日常生活を楽しめるホームであるという側面も生まれました。福島は、その両面から人生の豊かさを感じられる場所になったんです」
1年前、「風化」を意識しない、と語っていた小笠原さん。彼にとっての福島は「できごと」の場所ではなく、リアルタイムで進む「ものごと」の場所なのだ。
岡山 史興
70Seeds編集長。「できごとのじぶんごと化」をミッションに、世の中のさまざまな「編集」に取り組んでいます。
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