“優越的地位の濫用”と“下請法違反”の関係について (2019/1/8 企業法務ナビ)
はじめに
大阪ガス(大阪市)が取引先に希望数を超える自社製品の購入を強要した疑いがあるとして、公正取引委員会は同社に警告を出す方針を固めていたことがわかりました。同社へは2017年8月にも立入検査が行われております。今回は独禁法の定める優越的地位の濫用と下請法違反の関係について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、大阪ガスは遅くとも数年前から家庭用ガス機器を販売する取引先事業者に対し、仕入れ希望数を上回るガス機器の購入を強要していた疑いがもたれております。ガス機器の購入数に応じて取引業者に発注する保守点検業務も調整していた疑いや、仕入れノルマを設け、達成しなかった場合には取引先に罰則を科していた疑いも持たれております。公取委は同社に対し独禁法違反の疑いで「警告」を出す方針を固めました。
優越的地位の濫用とその違反
優越的地位の濫用とは、自己の取引上の地位が相手より優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える行為をいいます(独禁法2条9項5号)。典型的には無償で従業員を派遣させたり、商品や役務を購入させたり、相手の商品の受け取りを拒否するといった行為が当たります。
違反した場合には公取委による排除措置命令が出され(20条)、継続して行なった場合には課徴金の対象となります(20条の6)。また排除措置命令に違反した場合には50万円以下の過料となります(97条)。
下請法違反
下請法では親事業者は下請け業者に対し、代金支払の期日を60日以内の期間内で定めることや遅延利息の支払い、書面の作成交付や書類の保存などが義務付けられます(2条の2、3条)。また禁止事項として受領拒否、代金支払拒否、代金減額、返品、購入強制、金銭や役務の提供強要、割引困難な手形の交付などが挙げられております(4条各項)。
違反した場合には是正勧告がなされ公表されます。勧告に違反した場合には50万円以下の罰金となり(9条、11条)、独禁法に基づいて排除措置命令が出されることもあります。また両罰規定があり、法人にも同様の刑が科されます(12条)。
独禁法と下請法
独禁法の「優越的地位」とは相手事業者にとって自己との取引継続が困難になると、事業経営上大きな支障を来す関係を言うとされております。両者の市場での地位や取引依存度、他の取引先確保の難易度などを総合的に考慮して判断されます。
これに対して下請法では親事業者の資本金が3億円を超える場合に下請業者の資本金が3億円以下、親事業者の資本金が1千万円~3億円の場合に下請業者の資本金が1千万円以下と具体的・形式的に決められており、また適用対象も製造・修理委託、情報成果物・役務提供委託に限定されております。
独禁法はより抽象的で範囲が広く、下請法はそれを補完するため個別具体的な規定となっております。違反した場合のペナルティも独禁法のほうが重く規定されております。
コメント
本件で大阪ガスは近畿地方を中心に都市ガスを供給しており、全国でも東京ガスに次ぐ2位のシェアもつ大手ガス事業者となります。取引先販売店にとっては取引依存度も極めて高く、大阪ガスとの取引継続が困難になった場合、経営上大きな支障を来すものと言え、大阪ガスの優越的地位は認められるものと考えられます。このまま課徴金納付命令まで進んだ場合は億単位の支払い命令もあり得ると言えます。
本件では独禁法の適用となりましたが、一般的には下請法が適用される場合にはそちらを優先的に検討されるものと言われております。下請法のほうがより具体的に規定されており、またペナルティも軽いからです。また条文上も下請法の勧告を受け、それに従った場合は独禁法の適用は無いとされております(下請法8条)。
しかし下請法に該当する場合は包括的な規定である独禁法にも同時に該当していると言え、悪質な場合には独禁法適用に移行することも有りえます。下請法違反事例は今尚増加傾向にあるとされております。自社の取引でも違反が行われていないか、周知・教育の徹底が重要と言えるでしょう。
- 関連記事
- 公取委が大阪ガスに立入検査、優越的地位の濫用について
- 伊藤園に勧告、下請法違反について
- セブンイレブン勧告に見る下請法違反のリスク対応
- 消費者団体が東京医大を提訴、消費者裁判手続特例法について
- 派遣会社代表に有罪判決、入管難民法違反について