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【前編】「必要な時にはきちんと価値観を議論する」 経営者が新宿二丁目で「ダイバーシティ」について語り合った (2018/11/13 マネたま

マネたま新幹線

仕事が嫌になったり、成功して浮かれたり、抱えているものを投げ出したくなったり、それでもまた頑張ったり……。働いていれば喜びも悲しさも苦しさもいろんな感情を抱えるもの。

「生きていればそんな感情を人と交換する場所だって必要だ。」

「マネたま新幹線」は、そんな感情を抱えて働き、世の中の酸いも甘いも味わっていっぱしの経営者になった四十を超えたある男が、社会人になってから苦しいことも楽しいこともぜんぶ報告していた新宿二丁目のあるバーでMCとなって他の経営者と対談する企画です。

今回のゲストは楽天技術研究所で人工知能研究を指揮している森正弥さん。楽天技術研究所は国内屈指の多国籍軍団。そんな環境で働く上で大切なこととはどのようなものか。ダイバーシティが推し進められた組織をマネジメントする秘訣は何なのか。二丁目というまさにダイバーシティの先駆的な空間で、森さんにお聞きしました。それでは前編をどうぞご一読ください!

経営者が新宿二丁目で「ダイバーシティ」について語り合った

新宿二丁目のゴッドファーザー

ひろし : ようこそいらっしゃいました~。

柳橋仁機(以下、柳橋) : 前回の企画から二年経ちましたね。

ひろし : そうよ。寂しかったわよ。

柳橋 : 今回のゲストは、森正弥さん。楽天技術研究所の偉い人。楽天は知ってるよね?

ひろし : 知ってるわよ。最近、サッカーでも盛り上がっちゃって。有名なスタープレーヤー連れてきたんでしょ。

柳橋 : そうそう。そこの研究部門のトップをやってる人。俺のアクセンチュア時代の先輩だったの。

森正弥(以下、森) : はじめまして。二丁目はよく、へぎ蕎麦を食べに来てました。

森正弥(もり・まさや)

森正弥(もり・まさや)
楽天技術研究所所長。慶應義塾大学卒業後にアクセンチュア株式会社へ入社し、大手企業の経営基幹システムや官公庁向け大規模システムの設計プロジェクト、先端技術活用のコンサルティングなどに従事。2006年に楽天へ入社し、楽天技術研究所の設立と運営に携わる。同社での活動のほか、企業情報化協会(IT協会)常任幹事、情報処理学会アドバイザリー、日本データベース学会理事、科学技術振興機構プロジェクトアドバイザー、APEC(アジア太平洋経済協力)プロジェクトアドバイザーなどを歴任。著書に『ウェブ大変化 パワーシフトの始まり』(近代セールス社、2010年)など。

ひろし : あるわよね、そこに有名なお店が。

柳橋 : この人はひろしさん。このバー「新幹線」のママ。

ひろし : 新幹線って乗ったことございます? わたし、昭和43年に国鉄に入社して、7年間、新幹線で働いてたの。ちょうどその頃の写真が出てきたわ。まだ食堂車がある時代で、博多まで9時間半もかかってたのよ。

森 : かっこいい! 映画で見るような写真。

新幹線で働いていた頃のひろしさん(左写真:右)。

新幹線で働いていた頃のひろしさん(左写真:右)。

ひろし : この頃はまだ新幹線に窓がなくてさ。食堂車はすごい綺麗だったの。この写真、マニアは喜ぶわよ。

森 : どうでもいいですけど、ひろしさんイケメンですね(笑)。

ひろし : イケメンってことはないけどさ(笑)。でも、この国鉄時代に目覚めちゃったのよね、お・と・こ、に(笑)。だから、わたしはLGBTでいうとBなのよ。

森 : お店を始められたのはいつなんですか?

ひろし : 国鉄を辞めてすぐだから、昭和50年。今、二丁目にゲイバーって630店舗くらいあるの。うちは今、9番目に古いお店。あと8人、わたしの上にいるんだけど、もう、みんな80歳近いわよ。

柳橋 : ひろしさんは二丁目のゴッドファーザーってわけだ(笑)。

ひろし : アクセンチュア時代はどんなお仕事をされていたの?

森 : 基本的に現在と同じ、技術屋です。

柳橋 : そうです。俺も元は技術者だったから森さんにはいろいろ教えてもらった。

ひろし : 柳橋さんの印象ってどんな感じだったのかしら?

森 : 最初はでかい人だな、肝が据わってるな、と(笑)。

柳橋 : ははは(笑)。態度だけはでかかったかな(笑)。

「ソーシャルネットワークで世の中は変わる」と思って会社を飛び出した

ひろし : 楽天に移られたのはいつなの?

ひろし

ひろし
新宿二丁目にあるスナック「新幹線」のママ。昭和50年に開業してから40年以上お店を経営。

森 : 2006年ですね。アクセンチュアで8年間働いて、それから転職しました。
アクセンチュアって当時の平均勤続年数が数年程度だったから、8年もいるのって通常じゃありえないんですよ(笑)。ちなみに、楽天もどんどん成長していき、その中で人がどんどん入ってきた会社なんだけど、僕は12年もいるので、相当な古株です。

ひろし : じゃあ、一つのところに落ち着くタイプなんだ。

森 : というか、自分のなかでこれだ!っていう目標を持っちゃうんですよね。その目標を掲げて夢中で頑張るから、結果的に長く居ちゃう。ちなみにアクセンチュア時代の目標は役員になって業界をリードすることでした(笑)。

柳橋 : そうだったんですか(笑)。

森 : でも、役員になる前に結局辞めちゃいましたね。僕が辞めた少し前、2004年前後にインターネットの二回目のブームがあって。ソーシャルネットワークサービスとかが始まったんです。

ひろし : なんですの? ソーシャルなんとかって。

森 : 要するに、インターネットのなかでどんどん人がつながり、コミュニティが次々と生まれていったんですよ。いまのFacebookみたいに。これからは携帯とソーシャルネットワークで世の中が変わる、そんな機運を感じたんです。世の中が変わるのを、コンサルティング業界から眺めるのではなく、近くで立ち会いたい、そういう気持ちになって。アクセンチュアって大企業相手のビジネスで、コンシューマービジネスはないんですね。だからトレンドに対する哲学も見方も違う。その乖離を自分のなかで感じて。それで飛び出して行った方が良いんじゃないかって思ったのが2006年だったわけです。

柳橋 : 俺もアクセンチュアを辞めた理由はそれですよ。

森 : あの時、インターネットの変化はユーザーを中心に起きるって実感があったんですよね。アクセンチュアはアクセンチュアで面白かったんですけど、その変化の中心からは距離を取ったところにいた。あと、2003年くらいに海外で働く機会があったんですけど、そこで気がついたのは日本のITが海外に比べて非常に遅れてるってことで。このままじゃまずいぞと、技術でこれからの日本を変えるべきなんじゃないかって野望を持ってアクセンチュアを飛び出したんです。

ひろし : ずいぶん勇気がある方なのね。でもわたしも国鉄辞めて、ゲイの世界に入った時には勇気が必要だったわよ。

世界で戦うには「ダイバーシティ」の確保は不可欠

柳橋 : その頃に想像してたインターネットの未来と、今の日本で起きているインターネットの革新ってだいたいマッチしてますか?

柳橋仁機(やなぎはし・ひろき)

柳橋仁機(やなぎはし・ひろき)
株式会社カオナビ代表取締役社長。1975年生まれ。2000年3月、東京理科大学大学院基礎工学研究科電子応用工学専攻修了。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社し、業務基盤の整備や大規模データベースシステムの開発業務に従事。2002年アイスタイルに入社。事業企画を担当したのち、人事部門責任者として人材開発や制度構築、管理体制の整備などに従事する。2008年に株式会社カオナビを創業し、2012年に顔写真を切り口とした人材マネジメントツール『カオナビ』をクラウドサービスとして提供を開始。

森 : 僕はあのとき単純なキラキラした未来を描いていたんです。でもやっぱり、世の中はもっと複雑で、そう簡単にはいかないなって思いました。とにかく変化が速いんですよね。現在は現在で違う力学が新しいイノベーションを起こしていますから。それに対応するには、多彩な人間と共に挑む必要がある。うちの研究所って150名くらいメンバーがいるんですけど、そのうち8割以上は様々な国からやって来た研究者です。

柳橋 : 俺、オフィスに遊びに行ったことあるんだけど、外国の人ばかり。

ひろし : いいんじゃない? わたしに言わせてみれば遅いくらいよ。二丁目なんて、もっと前からアメリカンスクール出身の人とか外国人がうろついてるわよ。

森 : 確かに二丁目も外国の人増えましたもんね。僕も変化に対応するにはダイバーシティが必要だって感じています。

柳橋 : ひろしさん、わかる? ダイバーシティって何か。

ひろし : わかるわよ~。多様とかなんとかそういうことでしょ。今、LGBTって言葉がどこでも使われるようになっちゃってさ。そういう意味で言ったら二丁目なんてスーパーダイバーシティよ。楽天でも社内で使う言葉は全部英語なんでしょ?

森 : 基本英語ですね。特に僕がいるところは外国出身の人ばかりだから。

ひろし : そもそも、ってところか。

森 : なぜ僕がこの時代に働く上でダイバーシティが必要かと思うかって話をしますね。さっき研究所には150名いるって話をしましたけど、その数は決して多いわけじゃないんです。中国のインターネット企業だと桁が一個上だったり、30倍の人がいたりするわけですよ。

ひろし : あの国はとんでもない人口だからね。

森 : 例えば、今日も某中国のインターネット企業のマネージャーとディスカッションしていたんですけど、役員ではなくても4000人くらいのメンバーをマネジメントしてるらしいんですね。完全に数では負けてる。だから、少ない人数で世界と戦っていくためには、化学反応や「かけ算」が必要だと思うんです。同じ考え方や同じバックグラウンドの人たちだけで仕事をしても、結局は「足し算」にしかならない。それでは海外の規模の違う企業には勝てないわけです。普通とは違う経験をした人、違う価値観を持った人が一緒に働いて、今まで見たことがないものを作る。僕の信念はそこにあるんです。だから、楽天全体でもダイバーシティ化が進んでますけど、一番多国籍化が進んでいる組織の一つが僕の率いる研究所なんですよ。メンバーの国籍は30を超えていますし。そうなってくると、それぞれが抱えるバックグラウンドも異なる。例えば幼少期に見ていたテレビ番組も、そもそも娯楽も、教育も違うような人たちと、協働する必要が出てくるわけです。

「会社はプロダクト」という発想

ひろし : なんだか大変ね。そういう人たちと一緒に働くのって難しいんじゃない?

お酒

森 : 共通の価値観を見つけるのがとても難しいですね。例えば、日本人の感覚で、この仕事はこういう風にちゃんとやっておいて、みたいなことを言うじゃないですか。でも、「ちゃんとやっておいて」の意味合いが全然違うんですよ。日本人は、ある箇所にやたらこだわってそこの部分を100パーセントの状態で仕上げるんですけど、他の国の人だと、そこはユーザーの最終価値とは関係ないからといって10パーセントのクオリティで出してくる、とか。あるいは、他の国はそもそも出してこないとか。そういうなかで働くのはチャレンジがありますね。

柳橋 : 日本人って完璧主義者だからね。だからまずは相手の価値観を理解するところから始めないといけないわけだ。

森 : もともと、僕には「自分が相手に理解されるには、相手のことを理解することが何より大切だ」っていう信念があるんです。それでも、あらゆる価値観の人を理解していくということに慣れるまでは大変でしたね。国によってはファクトベースで議論せず、人としての哲学や信念をベースに議論する人たちもいて。

柳橋 : 就業観もぜんぜん違いますよね?

森 : 例えば、中国の企業だと、「9・9・6」っていう考え方が普通なんです。

ひろし : なぁに? 「9・9・6」って? 救急車なら知ってるけど。

森 : 「午前9時始業、午後9時終業、一週間6日働く」という就業観なんですよ。それがベースになってるから、彼ら中国企業が提示してくる報酬額などもそれに基づいてるんです。

柳橋 : 日本の「8時間・週5」が、中国だと「12時間・週6」なんだ。

森 : そうなんです。中国はどんどん勢いづいてるから、働く人もそのマーケットの勢いに乗りたいわけですよ。だから、みんな「9・9・6」で働きたいんです。

柳橋 : なるほど。すごく貪欲ですね。でも右肩上がりに成長してたらそうなるだろうなぁ。

森 : そうやってダイバーシティ化が進むと、就業観も違うけど、会社に対する考え方も違うことに気付かされます。日本だと、会社ってどちらかというと「家」みたいなムラ的な考え方があって。「家を守ろう」「社員という家族が気持ち良く過ごせる環境を作ろう」とするわけじゃないですか。でも、アメリカや世界中から尖ってる人がいっぱい集まってる先端企業って違うんです。会社が「プロダクト」なんですよ。だから、会社の価値を上げることが何よりも優先すべきことなんです。会社は「家」じゃなくて、マーケットにおける「製品」という発想なんです。

柳橋 : それはわかりやすいですね。会社は家じゃない、プロダクトだ、と。

必要な時にはきちんと価値観を話し合う

ひろし : ダイバーシティってすごいわね。でもダイバーシティでいうと、二丁目が一番進んでると思うわよ。

座談会

森 : 二丁目のダイバーシティ化って進んできてるんですか? LGBTに対する世間の見方が変わってきたって実感ありますか?

ひろし : 変わった、変わった。例えばレズビアンバーなんて、昔は二丁目に2軒しかなかったのに、今は20軒以上あるんだから。それからレインボーの旗よね。レインボーの旗ってどこの国にもあって、要するに、ゲイもレズビアンもウェルカムよってことなのよね。それがマルイのメンズ館に立てられてるんだから。

柳橋 : それはダイバーシティ化が進んでる証拠だね。

ひろし : 何も差別しませんよってことよね。でも、世界広しと言えども、二丁目くらいよ、これだけ小さな場所にゲイバーが密集してるのって。

柳橋 : 楽天技術研究所では、特に性的マイノリティの面でのダイバーシティ化はどうなんでしょうか?

森 : うちは働きやすい環境づくりに関してはどこにも負けない自負があるので、どんな性差別もありませんし、性的マイノリティの方も働く上での困難は少ないと思いますよ。

柳橋 : 一方で、俺なんかは、社員が性的マイノリティであることって、就業上何か問題があるのかな、って思うんです。社員それぞれの性的指向や自認する性が違うことと仕事で成果を出すことって、本質的には何も結びつかないはずじゃないですか。

森 : 僕は多様性が好きな人間なので、働く上で不必要な概念を仕事に持ち込まないんですよ。宗教の違いとか、性別の違いとか。そのことと、その人が「仕事で何をしたいか」ということは全く関係がないので。ただ、レイヤーマネジメントが存在するとそう単純ではないですよね。自分の部下が、そのまた部下にどういう考えを抱くかっていうのはまた別の問題になって、難しい。

ひろし : そういう時、あんたどうすんのよ。

森 : 価値観を議論していくしかないですね。

柳橋 : 全く同感です。マネジメント層が不問にしても、現場の人間がそれをどう受け止めるかっていうのは別の問題だから。そこはきちんと価値観を議論しないと。

森 : ただ、踏み込み過ぎてしまうと、業務遂行とは関係のない不必要な議論に入り込む恐れもありますね。場合によってはハラスメントになってしまう。

柳橋 : 「不必要に踏み込まない」っていうのが、答えかもしれませんね。企業は社員にとって働いて価値を発揮してもらう場所だから、本来は社員の性的指向や自認する性といったプライベートな領域に会社が踏み込むべきではない。だから、必要以上に配慮することもないのだけど、全く配慮しないのもおかしい。そのバランスがマネジメント層には大事なんですよね。

俺はスポーツをずっとやってたんだけど、スポーツと仕事って似てると思ってて。優秀なプレーヤーがどんな性的指向を持っているかとか、どんな宗教観なのかとか、スポーツをする上では本来的にはどうでも良いことのはず。それと似たところがあるんだと思います。

「アンリトゥンルール」を徹底的に議論せよ

森 : うちはいろんな国の人がいるから逆にやりやすいんですよね。最初から共通の価値観を持っていないから、「まずはそこを議論してやり方を決めましょう」ってところからスタートするわけで。でも、いわゆる日本人は共通の認識を言語化するのが苦手な面がある気がしますね。

柳橋 : 日本には「アンリトゥンルール」を議論したがらないっていう文化がありますよね。俺は、あれがあまり良くないと思うんだ。仕事に関係する必要なことは、徹底的に議論した方が良いと思う。一方で、仕事と無関係なこと、つまり、政治的、宗教的、性的指向といったことは議論する必要がなければしない方が良い。そのバランスを取ることが日本人は下手くそだと思う。

森 : 会議の場でも日本人はただ黙って聞いてるだけだったりしますからね。

柳橋 : そうなんです。以前、若手社員が会議で何も喋らないから「なんで何も言わないの?」って聞いたら、「え? 会議って偉い人の話を聞く場じゃないんですか?」って答えて。正直、ふざけんなよ、って思った(笑)。だから、日本では仕事上の「アンリトゥンルール」を議論することがダイバーシティ化を進める上で必要不可欠なんだと思います。多様性を進めようとしたら、「アンリトゥンルール」の存在する領域が小さくなるのは当然なんだと思う。そのために必要なことに関しては議論に次ぐ議論をすべきなんですよね。

提供:マネたま

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