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芸人・横澤夏子の人気を支える自己プロデュース力とマネージャーとの信頼関係 (2018/10/24 マネたま

変わり種マネジメント その11

生計を立てるのはもちろん、人気を得てそれを持続させることはさらに難しい芸人の世界。そんな世界で生き抜くお笑い芸人は、どのように自身をプロデュースし、マネジメントしているのでしょうか?

今回は19歳から芸人の道に入り、21歳には『R-1ぐらんぷり』の準決勝に進出して頭角を現して以来、テレビやライブで活躍する人気芸人の横澤夏子さんにインタビュー。新人時代の自己プロデュース方法や、常に寄り添いサポートするマネージャーとの関係性、そして憧れの先輩芸人のことまでお話を伺いました。

モノマネネタの7割は人への憧れから。出会いの数だけネタが生まれる

――横澤さんは、みんながどこかで一度は見たことがあるような、ちょっと独特な言動の女性の特徴を捉えて細部までコミカルに再現する芸風ですよね。芸人一本で生計を立てる前は約20ヶ所でアルバイトをしていたそうですが、やはりその芸風はバイト時代に見た女性たちから生まれたものなのでしょうか。

横澤夏子(以下、横澤):私は高卒で、学歴がないのがコンプレックスだったので、大学生のような生活を少しでも味わうためにアルバイトをしていました。確かにバイト先で出会った人はかなりネタにしてきましたね。ちょっと嫌味ったらしい人とか(笑)。ただ私のネタって、7割は憧れで、2割は自分の口癖、最後の1割で大嫌いな人をもとにしているんです。だから基本的には、「私もこの人みたいにこういうことが言えたらいいな~」と思ったことをネタにしている感じなんですよ。

過去には、「ブライダルのネタをやってみたいな」と思ってブライダル関係の仕事をしたこともあります。私の場合、人と出会った分だけネタができるので、しめしめと思っていました。バイトはお金をもらえるうえにネタもできる、最強のシステムだったので(笑)。

――主に仕事で出会った人たちへの憧れから、たくさんのキャラクターが生まれていたんですね。そういったネタは日々増えていくと思います。どのように管理されているんですか?

横澤:ネタを思いついたら、携帯にメモしています。あとは、スケジュール帳もネタ帳代わりになっていますね。私はスケジュール帳を書き込みで真っ黒にするのが好きで、誰と何をしていたのかを細かく書くんですよ。それを見ると、そこであったことを思い出してネタにできるんです。それとは別にしっかりしたネタ帳もあって、見るとそのときムカついていた人がたくさん出てくるんですよね(笑)。

――人間図鑑みたいですね(笑)。

横澤:あとは、友だちと会ったときって自分の中のトップニュースを話すじゃないですか。そこで話す内容もネタになることが多いですね。

横澤夏子2

横澤夏子(よこさわ なつこ)

1990年7月20日生まれ、新潟県糸魚川市出身。高校卒業後、NSC東京校に15期生として入学し、ヨシモト∞ホールで19歳のときに芸人としてデビューする。『R-1ぐらんぷり』では、2011年と2015年に準決勝進出し、2016年と2017年にファイナリストに。卓越した洞察力で、日常によくいそうな女性をデフォルメして細部までコミカルに表現するのが得意。プライベートでは多趣味で、2017年に結婚するまでは婚活も精力的に行なっており、婚活パーティーへの参加回数は100回以上にものぼる。2018年7月には、その体験を綴った著書『追い込み婚のすべて』が発売。

1000人の中から選ばれるためにチャンスを逃さなかった新人時代

――横澤さんはピン芸人として活動されています。ピン芸人ならではの苦労はあるのでしょうか?

横澤:苦労というか、一番さみしいのは各地へ営業に行くときに1人だから飲みに行けないことですね。それとやっぱり、ピン芸人は相方がいないので今後について話し合えないのが悲しいです。だからマネージャーさんが相方、という感じでしょうか。

――いつ頃からマネージャーさんがつくように?

横澤:デビューしてすぐの頃は、3人のマネージャーさんが1000人の芸人をパソコンで管理していて、私はその中の1人でした。テレビに出るようになってからは、20人くらいの芸人を抱えるマネージャーさんについていただけるようになりました。そのときはやっと1000人から20人のうちの1人になれた、という感覚がありましたね。

――マネージャーさんがついていなかった頃は、どのようにご自身のプロデュースやマネジメントについて考えていたんでしょうか。

横澤:当時はマネージャーさんと会う機会自体がほとんどなかったので、やってみたい仕事があったらそれに関連するネタをやったり、周囲に話したり、SNSで発信したりしていました。

――ご自分で積極的に発信されていたと。

横澤:はい。あとはテレビ番組のオーディションがあれば、必ず行くようにしていました。吉本ってそういう情報がタレント宛てに一斉送信のメールで届くんですよ。例えば、「親戚にすごい人がいる、という方を募集しています!」みたいなメールが来たとしたら、親戚にすごい人なんて全然いなくても、とりあえず「私の親戚にすごい人がいます!」と言ってオーディションに行くんです(笑)。

――行っちゃうんですね(笑)

横澤:テレビ局に行けること自体がチャンスで、とにかく番組の関係者の方々に会うことが重要なので。たとえそのオーディションには落ちたとしても、私のことを覚えてくれるかもしれません。それに「行きます!」ってマネージャーさんにメールを送るだけで、「お、また横澤から返信が来た」と思ってもらえるんですよ。

――テレビ局と事務所、両方へのアピールになるわけですね。

横澤:マネージャーさんだって1000人もタレントを抱えていたら、一人ひとりのことなんて覚えていられないですからね。なのに同期で「1回もオーディションに行ったことがない」と言っていた人がいて、「じゃあ何をやっているの?」と思ったんですけど、そうなるとそのうち募集のメールすら届かなくなっちゃうんですよね。

横澤夏子3

マネージャーはメンタル面もマネジメントしてくれる“相方”のような存在

――自己プロデュースと努力を重ねて、多くの人の目にとまるようになったわけなんですね。人気が出るようになってからの、これまでのマネージャー遍歴は?

これまでに5、6人ついてくださって、みなさん印象的でしたね。『エンタの神様』でネタにした人もいるくらいです。ある女性マネージャーさんはいつもすごくオシャレで、私が「可愛いですね」って言うと「そんなことないです、そんなことないです!」ってすぐに話を終わらせようとする人だったので(笑)。

横澤:私は2017年に入籍をしたんですけど、婚姻届を出すときに一緒に来てくださったマネージャーさんもいます。というのも、マネージャーさんに「役所に行ったら絶対に記者がたくさん待ち構えていますから、一緒に行きましょう!」って言われたんです。でも実際に役所に行ってみると、記者なんて1人もいなくて(笑)。あれは恥ずかしかったですね。他にも一緒に街コンに行ったマネージャーさんもいますし、今のマネージャーさんとはお休みの日に一緒に皮膚科に行きました。これもピン芸人だからなのかな。さみしいから誘っちゃうんですよ。

――街コンに皮膚科まで(笑)。マネージャーさんとは本当に常に一緒なんですね。中でもしてくれた気遣いで、うれしかったことはありますか?

横澤:今の女性マネージャーさんは、髪型を褒めてくれるんですよ! お気に入りの服も褒めてくれるからうれしいですね。私、褒められて伸びるタイプなので(笑)。

私が思うに、女性のマネージャーさんのほうが一生懸命、いろいろとお世話をしてくれる人が多い気がしますね。母性本能なのかな。私はわりと感情の波があって激情型なんですけど、私が言うことも全部「わかります、わかります」って言って受け止めてくれるんですよ。

――気持ちをしっかりと汲んでくれるのは、支えとして大きいですよね。

横澤:そうなんですよ。嫌な人がいたときも、私を上回る勢いで代わりに怒ってくれて。それだけ怒ってくれたらもう自分の感情は鎮めるしかないので、私の扱いがわかっているというか、本当にお上手だなと思います。

横澤夏子4

――仕事の面だけではなく、気持ちの面もマネジメントしてくださっていると。

横澤:私の取扱説明書みたいなものが、歴代のマネージャーさんたちに受け継がれているんじゃないかなと思うくらいです(笑)。私は少しでも空き時間があると落ち着かないタイプなので、「横澤さんは仕事の合間に空きがあるとそわそわします」とか、「月に1度はネイルサロンに行く時間をほしがります」とか書かれているのかな……。引き継ぎマニュアルがあるなら、1回見せてほしいですね。

――(笑)。改めて、横澤さんにとってマネージャーさんはどんな存在でしょう?

横澤:一番のビジネスパートナーですね。マネージャーさんと2人合わせてコンビのような感じなので、相方だと思っています。私が今いただいているお給料も全部マネージャーさんが持って来てくださったお仕事によるものなので。

――例えば番組の収録やライブが終わった後に、マネージャーさんに意見を聞くこともあるんですか?

横澤:聞きます聞きます! 私は収録の後すごく不安になるタイプなので、「私、今スベってたよね? スベってたでしょ?」って。そうしたら大抵、マネージャーさんは「スベってません。大丈夫です!」って言ってくれるんです。私がそう言わせているだけなんですけど(笑)。しかもそこから誘導尋問みたいに、「いや、絶対スベってた! だって大丈夫って言う時点でヤバくない?」と続けていくという(笑)。

――それはマネージャーさんも困りますね(笑)。

横澤:そうなんです。かなり面倒くさい奴になっちゃうんですよ。だからその分、後で一緒にご飯を食べに行ってマイナス要素を相殺するようにしています(笑)。

尊敬できる先輩芸人の共通点は「落ち込まないこと」

――芸人の世界は上司がいない分、先輩芸人が1つの指標になると思います。目標にしている方がいたら教えてください。

横澤:渡辺直美さんですね。もともと高校時代にクラスで直美さんのモノマネをしていたんですよ。そんなふうに憧れていた人と、今一緒に食事に行くことができているなんて、夢のようなことだと思っています。

直美さんは自己プロデュース力がすごくて、したいことがいつもハッキリしているんです。私は毎日ジタバタしていて、単独ライブで国内を4、5県回るツアーをするだけでも大きな仕事だと思っていたんですけど、直美さんは「あたし、ワールドツアーするんだ」って言うんですよ。ワールドツアーなんて、普通ボケワードだと思うじゃないですか。

横澤夏子5

――確かに、規模が壮大過ぎますよね(笑)。

横澤:だから「すごい、いつかできたらいいですね!」くらいの感じで聞いていたら、「いや、来年からスタートすんだよ」って(笑)。それで2016年に本当にしちゃうんだから、すごいと思います。直美さんは会うたびに芸人として違うステージにいてキラキラしているので、会うだけで力がもらえるパワースポットみたいな存在ですね。

――そんなふうに尊敬できる先輩芸人に共通することって、何だと思われますか?

横澤:直美さんしかり、よく食べる人が多い気がします(笑)。あとは落ち込まないことですね。盛大にスベっても、「まぁいいや!」って言って流す人が多い気がします。私はその度に、「そこは忘れるんだ!」ってよく驚かされます。もちろんグチを言うこともありますけど、みなさんくよくよしないで先を見ている。かっこいいな、と思いますね。

――横澤さん自身は落ち込んだときにどう対処されているんですか?

横澤:私、NHKの朝ドラが大好きなんですけど、私が思うに朝ドラって木曜日に視聴者が落ち込む回を持ってきて、土曜日にいい雰囲気で終わるんですよ。それと同じで私自身落ち込んでも、「今日は朝ドラで言うところの木曜日なんだ」って思い込むようにしています。「絶対また土曜日が来るでしょ」って(笑)。

――なるほど、大好きな朝ドラの登場人物になるんですね(笑)

横澤:あとはナレーションを入れることもあります。「夏子、落ち込むばかりではないのでした」とか、「また楽しいことがあるとも知らずに……」みたいに(笑)。そうすると、元気になれるんです。

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先輩にかわいがられる後輩、後輩にイジられる先輩でありたい

――芸人の世界は上下関係が大切だと思います。先輩芸人と接するうえで、気をつけていることがあれば教えてください。

横澤:先輩が食事に連れて行ってくださったら、美味しそうに食べるようにしています。あとは誘ってもらえるように、夜は時間を空けておくようにしていましたね。そのせいで当時していたアルバイトはクビになったんですけど(笑)。

――(笑)。でもそれくらい徹底して先輩とコミュニケーションを取ることで、かわいがってもらっていたわけですよね。そんな横澤さんにも、今やたくさんの後輩がいると思います。後輩にアドバイスすることもあるんでしょうか?

横澤:ありますね。でもそこまでアドバイスめいたことはしないです。後輩が売れたら困るので(笑)。話をするとしたら、失敗談をしていますね。こういうことをやったらスベったとか、こういう展開にならないようにしたほうがいいよ、という感じで。あとは先輩に怒られた話もします。自分の成功談を話しても、「夏子さんすごいです!」と言われて終わっちゃう気がするので。

――確かに成功談って、自慢にしか聞こえないこともありますよね。

横澤:その点失敗談だと、「今は活躍しているこの人も、昔はこういう失敗や苦労をしていたんだ」と思って少し元気が出るじゃないですか。

――横澤さんは、後輩にとってどんな先輩芸人でありたいですか?

横澤:後輩がイジりにくい先輩にはなりたくないな、と思います。というのも、あいさつに厳しい先輩がいるんですけど、その人自身は全然あいさつしないんですよ。なのにそれを指摘できないっていうのが、すごくストレスで。風通しも良くないし、その人のお説教も聞く気持ちにならなくなるじゃないですか。だから、例えば後輩と一緒に写真を撮ったときに「夏子さん、この顔変ですよ」って指摘してもらえるような、何でも気軽に言い合える関係性をつくっていきたいですね。

横澤夏子7

提供:マネたま

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