弁護士運営のベンチャー企業、「日本版クラスアクション」を通して消費者救済を増やせるか (2018/9/13 企業法務ナビ)
1.はじめに
契約トラブルなどの消費者被害の救済を求める手段の一つとして存在する集団訴訟、いわゆる「クラスアクション」に新たな波が生じています。消費者被害を解決するため、インターネット上で被害者を募り、弁護士につなげるITサービス「enjin」が2018年5月に登場しました。運営するのは弁護士の伊沢文平氏です。これにより、より多くの消費者が救済されるのではないかという期待が高まっているようです。
仕組みとしては、被害に遭い集団訴訟を起こしたいと考える者がそのトラブル内容をサイト上にアップし、同様のトラブル内容の被害者を募り、賛同者及び被害額が一定以上の水準に達すれば、同サイトに登録する弁護士が調査し、集団訴訟に向けた準備に入るというものです。
2.「クラスアクション」とは
クラスアクションとは、特定の欠陥商品による被害者等、共通の法的利害関係を有する地位(クラス)にある一部の者がそのクラスを代表して他のクラスの構成員の同意を得ること無く訴えを提起する米国の集団訴訟制度をいいます。事前に当事者全員の意思をまとめることや代表者の選定といった準備の必要がなく、全ての同様の立場の人間を代表して迅速に訴訟を遂行することができます。また代表者だけでなくクラス構成員全員分の賠償請求をまとめて行うことができ、勝訴した場合は訴訟に参加しなかったクラス構成員にも賠償金が分配されます。
3.日本版クラスアクション
日本では、2016年に「消費者裁判手続き特例法」に基づき、「日本版クラスアクション」と呼ばれる消費者団体による「被害回復訴訟制度」が始まりました。しかし、訴訟の多発を警戒した産業界の意向を踏まえ、国の認定を受けた適格消費者団体のなかでも一定の条件を満たした特定適格消費者団体にのみ限定するというハードルを設定したため、適用事例はまだ1つもありません。そして、一定の条件を満たす特定適格消費者団体も現在は3つしかない状況です。
とはいっても、実際に訴訟にならずとも、特例法に基づき集団訴訟に発展する可能性があることが企業への圧力となっている、と消費者被害の救済に詳しい池本誠司弁護士は指摘しています。また、弁護士の伊沢氏も「enjinにトラブル内容が掲載されたことで事業者が返金などを進めて被害者と和解するケースも出ている」といいます。このように、「enjin」は日本版クラスアクションとしての「被害回復訴訟制度」を後押しする形で、今まで泣き寝入りを強いられてきた被害者の救済が進む可能性が期待されるでしょう。
4.課題
ただ、「enjin」には最大の課題として収益モデルの確立があります。弁護士法72条は弁護士や弁護士法人でない者が報酬を得る目的で法律事務を取り扱うのを禁じているため、株式会社による有料での弁護士仲介ができない状況です。弁護士検索サービスを手掛ける「弁護士ドットコム」も仲介手数料でなく、弁護士から徴収する広告掲載料を収益源にしています。「enjin」も今後は登録弁護士から広告料を取る方針だそうです。
また、もう一つの課題として、集団訴訟は原告側の結束の強さが成果に影響するため、弁護士と被害者が直接やりとりする意思疎通の積み重ねが大切です。そのため、ネットで集まった被害者がいかに結束できるかもキーポイントとなるようです。
5.コメント
「被害回復訴訟制度」及び「enjin」これら自体ではアメリカのクラスアクションほどの効果は生じないことでしょう。しかし、上述した通り、これらが被害者救済の一翼を担っているのは事実です。そのため、消費者サービスを手掛ける企業、とりわけ法務部としては、集団訴訟を起こされることやネットにリストアップされることで企業イメージがダウンすること等のリスクを踏まえ、より透明性のあるサービスやトラブル対応が求められることでしょう。
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