平成30年著作権法一部改正について (2018/8/2 企業法務ナビ)
はじめに
環境変化に対応した著作物利用の円滑化を図り、新しいイノベーションを促進するための柔軟な権利制限規定の整備を目的とした著作権法の一部を改正する法律が、2018年5月28日参議院本会議で可決され、成立しました。同法は、2019年1月1日から施行されます。改正条文の内容と現行法との違いを踏まえた上で、企業としてはどう対応していったらよいのか、以下で考えてみたいと思います。
改正内容について
1.はじめに
改正内容の概要は、(1)デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備(第30条の4、第47条の4、第47条の5等関係)、(2)教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備(第35条等関係)、(3)障害者の情報アクセス機会の充実に係る権利制限規定の整備(第37条関係)、(4)アーカイブの利活用促進に関する権利制限規定の整備等(第31条、第47条、第67条等関係)です。この中で、企業に一番影響があるのは、(1)だと思われますので、以下では(1)について詳しく紹介します。
2.(1)の目的について
(1)は、ビッグデータを活用したサービス等のための著作物の利用について許諾なく行えるようすることを目的としています。
3.著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」に関する権利制限規定(新30条の4)について
現行法では、ビッグデータを活用したサービス等のための著作物の利用については、個別の規定で対応しています(30条の4、47条の7)。しかし、サイバーセキュリュティの確保等のためのソフトウェアの調査解析、その他の新たなニーズに関する利用については、規定がありません。そのため、規定が無い事項について、企業が行った場合に、適法か否かが不明確なところがありました。
これを受け、新30条の4は、同条各号に定める場合その他の著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない場合には、その必要とされる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができるとしています。例えば、AIの学習用のデータの解析は、同条2号の場合に当たるので、適法に行えることになると思われます。
サイバーセキュリュティ確保等のためのソフトウェアの調査解析は、「著作物に表現された思想、又は感情の享受を目的としない場合」に当たるので、適法に行うことができると考えられます。
また、著作物の利用目的が包括的になり、利用方法を限定しない形の規定に改正されたことで、企業は、想定できない著作物の利用方法が現れた際にも、適法に利用できる余地が生じたことになります。
他方、同規定は、利用行為の例示があるものの、抽象的な形になったので、適用範囲が不明確で、適法な利用なのかの判断がしにくいという問題があります。
4.電子計算機における著作物の利用に付随する利用等に関する権利制限規定(新47条の4)について
電子計算機における著作物の利用についても、現行法は、個別の条文で規定しています(47条の4、同条の5、同条の8、同条の9)。しかし、その他の新たなニーズに関わる利用については規定がありません。それを受け、新47条の4が、現行法の利用を適法としつつ、その上でその他のニーズに対応するため、制定されました。
同条1項は、電子計算機のキャッシュ等の関係での著作物の利用ができるとしています。同条2項は、電子計算機のバックアップ等の関係で著作物を利用ができるとしています。両方とも、利用目的を包括的に規定し、利用方法に限定を付しておりません。これにより、企業としては、電子計算機における著作物の利用が広く認められることになり、現行法に比べ、著作物を利用しやすくなると言えます。
例えば、現行法の47条の5では、目的が「送信障害防止」等に限定されています。そのため、キャッシュには様々なものがあるにもかかわらず、上記目的外の行為が、同規定の対象外となる可能性がありました。しかし、目的を包括的に規定したことで、上記の目的以外の場合であっても、適法となり得ることになりました。
また、今よりは、著作権侵害に問われる恐れが少なくなります。他方で、条文が包括的な文言になったことで、自己の利用行為が、同条に当たるかの判断がしにくくなったと言えます。
5.新たな知見・情報を創出する電子計算機による情報処理の結果の提供に付随する軽微利用等について(新47条の5)
現行法では、インターネット情報検索のための、複製等が行えます(現行法47条の6)。しかし、その他の検索サービスや、情報解析サービスは対象外ですし、また、その他のニーズが生じた場合対応した規定はありません。これを受け、新47条の5は、適法な利用行為を現行法よりも広い範囲にするため、「電子計算機を用いた情報処理により新たな知見又は情報を創出することによって著作物の利用の促進に資する次の各号に掲げる行為」としました。
同条各号は、(1)所在検索サービス、(2)情報解析サービス、(3)(1)(2)のほか、電子計算機による情報処理により新たな知見・情報を創出する行為であって国民生活の利便向上に寄与するものとして、政令で定めるものと規定しました。(1)(2)により、現行法では、カバーされない検索サービス・情報解析サービス(例えば書籍検索サービス、論文剽窃検証サービス)も適法に行えるようになると考えられます。
また、(3)により、現段階では想定されない利用方法も、今後適法に行える余地があります。利用方法の限定はありません。ただし、権利者への一定の配慮をするため、利用は、軽微利用(利用される著作物の割合、量、表示の精度等を総合考慮して判断)に限定されています。
企業は、以前より利用範囲が増え、活動が広がる一方で、軽微利用の範囲が不明確であることから、どの範囲での利用が許されるかがわかりにくいということが問題になるかと思います。
コメント
現行法は、個別規定で著作権を制限しています。これに対し、改正著作権法は、包括的な権利制限規定を設けました。これにより、著作物の利用がしやすくなった一方で、適用の範囲が不明確になったと言えます。
権利制限規定の適用を受けない利用行為は、著作権を侵害したとして、権利者から、損害賠償請求(民法709条)や利用行為の差止請求(著作権法112条)をされることがあります。そのため、企業としては、著作物の利用行為が、現行法の権利制限規定の範囲内の行為かを、まず、判断していただきたいと思います。
範囲内の行為であれば、本改正は、現行法で範囲内の行為を除外する目的ではないので、問題ないかと思います。範囲外の行為であれば、従前の権利制限規定の趣旨・改正条文の目的等から見て、不適当であるかを、確認していただければと思います。
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