海賊版サイトブロッキングに正義はあるか (2018/4/26 セキュリティレポート)
海賊版サイトについて、日本政府がインターネットサービスプロバイダ(ISP)に対してブロッキングの要請を検討していると伝えられて以降、各所で様々な議論を呼んでいましたが、4月23日にまずNTTグループが対応を表明してさらなる議論(というか炎上)が続いています。
もろちん海賊版サイトへの対策が重要であるというところに議論の余地はありませんが、今回はほぼ政府からのトップダウンで民間の通信事業者に検閲とも言える対策を要請するという手法に対して批判が集まっています。
そもそも今回の騒動は4月13日に政府の関係閣僚会議で決定されたもので、主にコンテンツ事業者団体からの要請によるものとされています。
本質的には違法なコンテンツ配信を行っているサイトやその運営者に直接的な対策がされるのが正道ですが、海外のサーバを経由して配信されており捜査の手が及びにくいなどの状況もあり、短期的かつ緊急避難的な措置として今回の要請に至ったということのようです。
一方で、プロバイダなどで構成される通信事業者団体や消費者団体は、海賊版サイト対策の必要性に理解を示しつつも、憲法第21条や電気通信事業法が定める「検閲の禁止、通信の秘密の侵害」に該当する可能性があるなどとして懸念や反対意見が主張されています。
また政府の発表以降、すでに名指しされたサイトが閉鎖されており、強権を発動させた割に実際の効力が皆無という批判もあります。
児童ポルノに対してのブロッキングは2011年から行われてはいますが、これに至るまでに2年近くの議論を費やし、それ以前にも児童ポルノ禁止法などの法整備が行われていたのに比べると、今回のスピード感には驚くばかりです。
児童ポルノがブロッキングされるまでの議論の中でも、「利用者の同意を得ないブロッキングは電気通信事業法に違反する」という指摘がありながらも「緊急避難に当たる場合など違法性阻却事由がある場合は、例外的に許容される」という判断の上に実施されています。今回の海賊版サイトに対しても、建前は同じ枠組みの論理付けということなのではないかと思われます。
児童ポルノの事例では、「子どもの権利条約」による国際的な要請があり、長い時間と議論を経て対策に至った経緯があります。しかし、今回の海賊版サイト対策においては現段階で著作権侵害は親告罪のまま(非親告罪化も検討されてはいますが、国際的な要請を含んでいるTPPが暗礁に乗り上げているので先行きはわかりません)ですし、若年層を中心に利用実態が大きい、被害額が3000億円にのぼるという事情があるにせよ、侵害者に対する司法措置ではなく利用者の権利側に手を入れる対策は拙速ではないかとの批判があります。
多くの反対意見がある中で、海賊版サイトの存在を是とする意見が無いことはおさえておくべき重要なポイントです。
誰もが海賊版サイトは違法であるということを理解した上で、「通信の秘密を犯すような手段でブロッキングを実施するだけの大義名分があるのか、議論は十分されたのか」という点で批判の対象となっています。また政府が言い出した方針が民間企業による自主規制に任せるというスタイルを取っていながら、真っ先に手を上げたのがNTTグループという点も様々な疑念を巻き起こしています。
では警察力の限界もあり、どうすればいいのかという話になりますが、すでに海賊版サイトに対して広告を出稿している企業への批判が集まるという形で広告の引き上げが起こり始めていた折でした。
また検索サイトやコンテンツデリバリネットワーク(CDN)などから対策を要請すべきという声もあります。
もっと元をたどれば、このような「海賊版サイトを利用しない・アクセスしない」という当たり前のリテラシーをみんなが持って、真っ当なサービスを利用するようにすれば自然に淘汰されるはずという希望的観測もできますが、さすがにそれも牧歌的な理想すぎるかもしれません。
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