インターネット上の人権侵害が過去最多を更新。被害にあったときの対応法  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
トップ    >   記事    >   インターネット上の人権侵害が過去最多を更新。被害にあったときの対応法

インターネット上の人権侵害が過去最多を更新。被害にあったときの対応法 (2018/4/1 JIJICO

関連ワード : IT 人権 法律 

インターネット上の人権侵害が2000件超で過去最多に

特にスマートフォンやタブレットの普及で、気軽に情報発信できる・あるいは情報が得られるようになりました。その分、いつのまにかプライバシーを侵害されたり、名誉棄損されてしまうというケースも増えてきています。この度、インターネットにまつわる人権侵犯に関する被害が2000件を超えたとの報道がありました。

今や日常的にSNSを使えるようになった半面、人権侵害にあったり、逆に人権を侵害してしまうということも人ごとではなくなってきています。

このようなプライバシー侵害・名誉棄損などといったインターネットにまつわる事件の被害者になったときにとりうる手段にはどういったものがあるのでしょうか。法的な手段も含めてみていきたいと思います。

頭をかかえる

プライバシー侵害にあったときは?まずは掲示板管理者に連絡

たとえば自分の住所や電話番号が、何者かによって勝手に一般の人が閲覧できるインターネット上の掲示板に掲載された場合、情報を公開されてしまった人は誰に対してどういった方法をとることができるでしょうか。

自分の住所や電話番号、特に自宅住所は私生活に強くかかわるものであり、一般的には公開されるのは望まないし、知られていないものです。そのためこういった事柄の公開はプライバシー侵害にあたります。

まずはプライバシーにかかわる情報が公開されている掲示板の管理者に対して削除・発信者情報の開示を求めることが考えられます。もし、掲示板の削除に関するルールがあれば、それに従って削除依頼をするのがスムーズです。

プライバシーに関するものが個人の承諾なく掲載されているというのであれば、プライバシー侵害にあたるかの判断もしやすいことから、任意の削除に応じてもらいやすいのではないかと思います。

もし、そういった定めがないときでも、掲示板の管理者にプロバイダ責任制限法ガイドライン(一般社団法人テレコムサービス協会に設置されているプロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会が定めたもの, )が定めている削除請求の方法によって削除を求めることも考えられます。

削除・情報開示を求める裁判も手段としてはあるが時間的・金銭的負担がある

それでも応じてもらえないようであれば、話し合いでの解決が難しいため掲示板管理者に対して削除を求める裁判を起こす、 あるいはそもそも発信をした人が誰かわからなければ、特定するための情報の開示を求める裁判や、それらの仮処分を求める裁判を起こすことを検討することになります。

自分の住所や電話番号が掲示板に載せられ続けるとその分多数の目に触れ被害も拡大するので、一般的には早めの対応を求める、仮処分命令の申立てをすることになるでしょう。この場合、裁判所に一定程度の担保としてお金(数十万円程度)を入れる必要があります。そのため、裁判まで行うとなると、時間的な負担もさることながら、金銭的な負担もかかることを覚悟で行う必要が出てきます。

発信者の特定のための情報の開示を受けることができれば、発信者自身に対する損害賠償請求や書き込みの削除を求めることも考えられます。

なお、掲示板管理者への損害賠償請求は、プロバイダ責任制限法(ちなみにプロバイダ責任制限法は正式名称を「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」といいます)により一定の場合免責されるとの定めがありますので、注意が必要です。

うその内容の書き込みが掲示板でされたときは?不法行為や名誉棄損にあたる可能性も

掲示板に「Aは勤め先のB社では役立たずで無能だ。」といった内容の書き込みがされていたとします。誰か個人を特定の上で、「役立たずで無能」と書かれると、その人(ここではAさん)の社会的な評価を下げるといえますので、名誉棄損となり、掲示板に書いた人に対しては不法行為・あるいは刑法の名誉棄損罪に問いうる可能性があります。

サイト管理者から、発信者の特定のための情報の開示を受けることができれば、発信者に対する損害賠償請求や書き込みの削除を求めうることはプライバシー侵害の場合と同じです。名誉棄損の場合には、刑事上の名誉棄損罪について告訴をすることも考えられます。

ただし、刑法の名誉棄損罪については、

  1. 事実が公共の利害に係わるもので、
  2. もっぱら公益目的で、
  3. 真実を語ったことを書きこんだ人が証明できれば

名誉棄損の要件を満たさず、罪は成立しないとされています。仮にⅲの真実性の証明ができなくても、確実な資料、根拠から相当な理由があると証明できればやはり名誉棄損罪にあたらないとされています。

この考え方は民法の不法行為責任でも同様に考えられ、違法性や故意・過失が否定され、不法行為責任が成立しない場合があると考えられています。

不法行為・名誉棄損はプライバシー侵害よりも明確だと判断しにくい

このように、名誉棄損にあたるとして不法行為責任が発生するか・あるいは名誉棄損罪にあたるかということは、上の例のようなケースであればともかく、一般的にはプライバシー侵害の場合ほど直ちに判断しにくいです。

また、実際のところ名誉棄損にあたるには、特定の個人への誹謗中傷であることが必要になりますが、微妙にイニシャルで表記されたり・あだ名で書かれていたりとなかなかその個人と特定するのが難しいこともあります。

そのため、掲示板の管理者に先のサイト掲示板の削除に関する規約に基づいた削除を求めても、任意に応じないことが実務上は割とみられます。

サイト管理者による任意の対応が難しいとなると、先に述べたように削除や発信者情報の開示を求める裁判あるいはその仮処分の申立てによることが必要になってきます。

ネット上で自分が加害者になってしまわないようにも注意したい

インターネットに関する被害では、これ以外にも著作権に関わるものなどもあります。特に情報を発信する側にたつときは、プライバシーを侵害したり、中傷するような内容でないかよく気をつけて行う必要があります。ことに誰でも見ることができる投稿の場合は、より情報が拡散してしまい被害も拡大する可能性があるので、慎重に行いましょう。

提供:JIJICO

著者プロフィール
片島 由賀/弁護士

片島 由賀/弁護士
島根県松江市生まれ 学習院大学卒業 平成19年3月 東京大学法科大学院修了 平成20年 弁護士登録(広島弁護士会) 法律業務全般を取り扱っています。 (離婚問題、相続、財産管理・遺言、交通事故、借金問題、退職・職場環境、その他) 広島弁護士会 人権擁護委員会(両性の平等部会)、民事・家事委員会、消費者問題対策委員会、弁護士業務妨害対策委員会、生存権擁護委員会、広島県中小企業家同友会(中支部)

関連記事
インターネット上の人権侵害の危険とは
デジタル時代の人権リスクにどう対処? ICT企業の事例から学ぶ
ネット上の誹謗中傷に対する法的対応策
子どもに伝えよう!スマホと上手に付き合うためのルール
漫画海賊サイト、なかなか撃退できないのはなぜ?著作権法上の問題は
関連ワード : IT 人権 法律