大塚家具の騒動から3年、中小企業の「事業承継」について考える (2018/1/28 JIJICO)
大塚家具の事業承継を巡る騒動から3年、現状は?
2015年の(株)大塚家具の事業承継を巡る騒動から3年が経とうとしています。大塚久美子社長率いる大塚家具は、昨期決算(2016.1.1~2016.12.31)で46億円の営業損失を計上し、今期も赤字決算となるようです(図参照)。
一方の大塚勝久匠大塚会長の方は、今年になって、当時の主役、大塚勝久氏(匠大塚会長)が、ダイヤモンドオンライン(以下「ダイヤモンド」)(“父娘げんか”を経て語る「事業承継ここを誤った」)で心情を吐露していますが、こちらもなかなか厳しそうです。
大塚家具と言えば「ニトリ」というくらいに何かと比較され、今回の騒動も、方やニトリのカジュアル路線をとる久美子社長対会員制・高級家具路線の勝久会長の争いと言われました。
ところが、勝久氏によれば、大塚家具も匠大塚も高・中級家具路線で、会員制も言われるほどシビアではないようで「そんなに違いません」とのこと(「大塚家具・勝久会長激白「娘・久美子社長と激突」社内裏事情 プレジデントオンライン)。
大塚家具とニトリを財務諸表で比べることにはあまり意味がない
残念ながら、コンサルタント諸氏は、勝久氏の匠大塚の方にはあまり興味がないようですが、大塚家具の状況については「ライバルであるニトリの方が事業ドメインが優れていた」「商品回転率がニトリの方が短く効率が良い」「リーズナブルで統一感のある品揃えがクロスセリングを導いている」とニトリの優位性を説く意見ともに「カジュアル路線はニトリとの競合に勝てなかった」「会員制の廃止で来店客が増えたが、販売員のクロージングが甘くなり、成約率が低くなった」と、かまびすしい分析が続いています。
しかし、もともとビジネスモデルが違う両社の財務諸表を比べたり、事業ドメインの優劣を語ったりすることに意味があるのか!と怒りたくなってしまいます。
ニトリと大塚家具、「事業承継」のあり方がその後の状況を分けた?
財務諸表ではなく両社の今の一番大きな違いは、一方は1つの持ち株会社のもとに各社が糾合され、強いリーダシップのもとにあるのに対して、かたや、二つの組織に分かれ一方にカネ、他方にヒトと経営資源が分断されていることにあります。
経営資源を分散された者と維持した者、その根源は、事業承継にあったのです。
家族だからこそ難しいとも言える事業承継
「ニトリホールディングス」社長の似鳥昭雄氏は、満州生まれ。貧乏な幼少期を過ごした昭雄氏は1967年父義雄氏を社長に家具屋を開業します(母の似鳥みつ子さんによれば、始めたのは父義雄氏で、昭雄氏を呼び寄せ家族で力を合わせてつくった会社だとか)。
父義雄氏が1989年に亡くなった際、その遺産の不動産を母みつ子氏が、現社長の昭雄氏が株式を、他の弟妹が現金を相続しました。
ところが、2007年に相続時の遺産分割協議書は偽造だとして、母や弟たちから告訴され、嘘つきと罵倒されています(一審は昭雄氏勝訴、その後和解)。
相続から20年近くたってから裁判になるとは、家族の対立の根深さを感じさせられますが、家族間の事業承継と言えどもM&A、乗っ取りと変わらない、いや、むしろ家族であるからこそ厳しいことをになるのだという事実を突き付けているのです。
一方、大塚家の5人の子ども達は、「長女は経済、長男(匠大塚の勝之社長)は彫刻科、二女は法律、三女が芸術学部、次男が建築」を専攻し、役割分担して会社のために働こうと志します。勝久氏も、「長女と長男が協力してやっていくのが一番だ」と「大塚家具は資産管理会社の株を兄弟5人で均等に」分割して応えます。
それぞれの特性を生かし株式を分割した大塚家具に対し、集中させたニトリ。ニトリの昭雄社長は、家族をだましても(あくまで、お母さんからみるとですが)株式という権力基盤を得、今の隆盛を迎えます。
一方、お金を持った大塚家具は、従業員を失い、販売員のクロージングの悪化で売上を落とし、勝久氏の匠大塚は資金枯渇に苦しむことになったのです。
両社の騒動から見る事業承継の重要なポイント3つ
事業承継を考えるうえで、決定的に重要な要素がこの両社の騒動の中にあります。
- 人は善意や合理的考えだけで動くものではなく、むしろ、往々にして善意から悪意が生まれ、合理性からは不合理な結末がもたらされること。
- そのような顛末を収拾、整理するためには力が必要であり、事業承継の場合は、株式がその力を与えてくれる手段であること。
- ただし、力の本当の根源は、会社を乗っ取るという強い意思の力であること。
ただし、友好的に。
- 著者プロフィール
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岡部 眞明/経営コンサルタント
財務、人・組織、経営基盤、ビジネスモデルを総合的に診断、支援
ダイナミックに変化する社会の動きに柔軟に対処し、成長するためには、経営者自身が成長することが不可欠です。人・組織を起点に、金、経営基盤、ビジネスモデルの戦略的に再構築します。
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