働き方改革によって残業はどう変わるのか?「残業」の定義も解説します (2017/12/5 nomad journal)
「働き方改革実行計画」の中には、「労働生産性の向上」「長時間労働の是正」「柔軟な働き方」等、長時間労働の是正や残業時間の削減に関する項目があります。労働基準法で規定された残業時間(時間外労働、休日労働)の定義、各種規制、罰則を解説するとともに、働き方改革の流れの中で労働時間が規制されていくかを見ていきます。
労働基準法上の残業(時間外労働)の定義は?
労働基準法では1日8時間、1週間40時間を超えての労働は禁止となっています。
(但し、社員総数が10人未満の一部の業種、商業、映画演劇業(制作業を除く)、保健衛生業、接客娯楽業の場合は特例で1週間44時間までの労働が可能です)
労働基準法上の上限が1日8時間なので、会社ごとに8時間以下で所定労働時間を定めることが出来ます。これを超えて働けば時間外労働、いわゆる「残業」となります。
時間外労働とはどのようなものなのか?
時間外労働とは会社の指揮命令により、上記の所定労働時間を超えて業務に従事することです。会社の指揮命令に基づかない早朝出勤や居残りは時間外労働の対象外です。ただし、会社が早朝出勤や居残り残業を黙認したり、時間外労働を織り込み済みの仕事を命じた場合は、残業時間となります。
休日労働とはどのようなものなのか?
休日とは、労働契約上労働義務のない日です。労働基準法上休日の最低限は毎週1日か、4週間に4日以上です。例えば土日休みの完全週休2日制で土日に出勤した場合は、1日は週40時間を超える時間外労働として計算され、もう1日は法定休日労働の計算となります。
時間外労働や休日労働に関する割増賃金とは?
1日8時間、1週間40時間を超え、時間外や深夜(原則、午後10時~午前5時)の従事となった場合、1時間当たりの賃金の2割5分以上、法定休日の場合は3割5分以上の割増賃金を支払う義務が発生します。例えば、深夜1時に時間外労働を行った際は5割以上の割増率です。
割増賃金に代わる「代替休暇」とは?
会社と労働者の代表の間で労使協定を締結すれば、1カ月間で60時間を超えた時間外労働に対し、割増分の25%の賃金の支払いに代えて、会社は有給の休暇を付与することが出来ます。
現在の時間外労働規制はどのようになっているか?
労働基準法第32条で、会社は天災の非常時に所轄労働基準監督署長の許可を受けた時を除いて労働者を1日8時間、1週間40時間を超えて労働させてはいけないと規定しています。(管理監督者や機密の事務を取り扱うもの等については例外です。)
やむを得ず時間外労働をさせる場合は、あらかじめ労使協定を締結する必要があります。これを36協定と言います。
36協定とはどのようなものなのか?
36協定は、会社と労働者代表の間で締結します。協定で定める必要のある延長時間は、
- 1日
- 1日を超えて3カ月以内の期間
- 1年間
の3つです。
2、3の延長時間については、1カ月45時間、1年間で360時間が上限となっています。
ただし、建設、自動車運転、新商品新技術の開発業等には限度時間が適用されません。
また、この協定は所轄労働基準監督署長に事前に届出をしないと有効となりません。
特別条項とはどのようなものなのか?
上記の限度基準を超えて時間外労働をさせなければならない特別な事情がある場合は、特別条項を定め、限度時間を超えて時間外労働に従事させることが可能です。
特別な事情には、予算決算業務、納期のひっ迫、ボーナス商戦、機械トラブル時等が該当します。現在、この特別条項で働かせることが出来る時間数の上限はありません。
労働時間に関する法規制を違反した際の罰則は?
36協定を結ばずに法定労働時間を超えて残業をさせる、36協定の限度時間を超えて時間外労働を命じた場合は、労働基準法32条違反となります。罰則は6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金です。報道で有名になった「電通事件」では、罰金50万円の額が話題となりました。
また罰金金額が少額なことから、今までは簡易裁判所での「略式裁判」として非公開の書類審査のみで判決が下されることも多かったのですが、現在は社会的関心の高まりから正式の公開裁判となる事例が増えています。
今後の働き方改革による労働時間規制の流れは?
今後の働き方改革により労働時間規制が変わる可能性があります。具体的には法律による上限時間の規制、上限時間違反に罰則を科すことです。働き方改革実現会議で決定された「働き方改革実行計画」の内容について見ていきましょう。
時間外労働時間の上限規制とは?
月100時間を超える時間外労働には規制がかかる方向性で進んでいます。具体的にはまず、今まで通り週40時間を超えて労働可能となる時間外労働の限度を、原則として月45時間かつ年360時間までとします。特別条項を結ぶ場合でも、上限を年720時間(=月平均60時間)までとします。年720時間以内において、一時的に事務量が増加する場合についても、単月では休日労働を含んで限度が100時間となります。なお、特別条項の特例の適用は上限を年6回とする予定です。
勤務時間インターバル制度とは?
会社に対して「前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定の休息の確保に努めなければならない」といった旨の努力義務を課す方向が打ち出されています。これを勤務時間インターバル制度といいます。インターバル時間の長さについては9時間から11時間が平均とされています。
残業時間削減に向けた各社の取組事例について
厚生労働省が開設している「働き方・休み方改善ポータルサイト」では、各社が独自に労働時間の設定の改善を行い、残業時間削減に成功した事例が掲載されています。各社の事例を見ていきましょう。
オタフクソース株式会社(広島県・製造業)では、経営者が時間外労働の削減などの働き方改革のメッセージを発信、全社員の時間外労働の見える化を行い業務の効率化を実行しました。結果として、所定外労働時間数(1ヵ月1人平均)で20%減少(22.1時間→17.6時間) (平成26年度と平成28年度の比較)を達成しました。
日揮株式会社(神奈川県・建設業)では通常よりも1時間早く出社・退社する朝型勤務、いわゆるサマータイムを考案、推奨。毎週水曜日をノー残業デーとし、人事部と労働者代表が声かけをして回る取組を行っています。平成28年度では、本社勤務者全体の夏季の所定外労働時間が他の時期に比べて1割減少しました。
まとめ
今後「働き方改革」の流れが加速化していくことより、労働法も色々と改正されていく予定です。賃金債権の消滅時効が2年間から5年間に改正も検討されている、との報道も一部では出ています。実現すれば、サービス残業による未払い賃金請求に関しても影響が出てきます。今後の法改正の流れに注目していきましょう。
- 著者プロフィール
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執筆者:岡 佳伸
2016年10月より特定社会保険労務士として開業、元ハローワーク職員(厚生労働事務官)。雇用保険の専門家として、各種助成金、雇用保険、労働問題を得意にしています。今までに労働、社会保険、労働保険に関する記事を多数執筆、監修。近年は各種講演会も開催しています。(キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士も保有しています)
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