自転車転倒事故でシマノが3900万円支払い、製造物責任法について (2017/10/18 企業法務ナビ)
はじめに
折り畳み自転車の欠陥で転倒して後遺症を負ったとして、大阪府の男性が「シマノ」を相手取り損害賠償を求めていた訴訟で16日までに和解が成立していたことがわかりました。製造物に欠陥があった場合にメーカー側に無過失責任を課す製造物責任法。今回はその規制の概要を見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、大阪府和泉市の男性(53)は2014年12月、購入3日目の折り畳み式自転車で大阪市内を走行中、トップギアに切り替えた際にペダルが空回りし転倒、左腕を骨折し、現在も腕が動かしにくくなるという後遺症を負ったとのことです。
男性は自転車の製造販売会社「アサヒサイクル」(堺市)とギアを製造した「シマノ」(堺市)を相手取り約8100万円の損害賠償を求め大阪地裁に提訴しておりました。アサヒサイクル側はギア部分のネジが規格を満たしていなかったことが原因としています。本訴訟は16日までに和解が成立しており、シマノ側が3900万円を男性に支払うこととなっております。
製造物責任法(PL法)とは
一般的に製品に問題が有り、それによって買い主が損害を受けた場合、相手方に過失があれば契約に基づいて債務不履行責任(民法415条)を追求したり、瑕疵担保責任(同570条)の追求が考えられます。
しかし末端の消費者は通常、メーカーとは直接の契約関係を持たず、また仮に瑕疵担保責任による賠償を受けられたとしてもそれはせいぜい製品の代金分程度となります。身体に重大な損傷を負った場合などには十分な賠償を受けることはできません。
また不法行為(709条)の規定によったとしても消費者側がメーカーの故意・過失などを立証しなくてはならず責任追求は困難となります。そこでPL法では製品に欠陥が有りそれにより損害が発生した場合にはメーカー側に無過失責任を負わせ、消費者保護を図りました(1条)。
製造物責任の要件
(1)製造業者
PL法3条によりますと、「製造業者等は、その製造、加工、輸入又は前条第三項第三号の氏名等の表示をした製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が当該製造物についてのみ生じたときは、この限りでない。」としています。
製造物責任の主体である「製造業者」とは(1)製造物を業として製造、加工、輸入した者、(2)自ら製造物の製造業者として製造物にその氏名、商号、商標を表示した者または製造者と誤認させる表示をした者、(3)その他実質的な製造業者と認められる氏名等の表示をした者となっております(2条3項各号)。自ら製造加工している場合だけでなく、輸入した場合やOEM生産の場合も該当します。
(2)製造物
対象となる「製造物」とは、製造又は加工された動産をいいます(2条1項)。未加工の原材料や農産物は該当しませんが漬物などは加工してあることから製造物に該当します。また「動産」とあることから不動産は該当しません。
つまり土地やその定着物、または建物などは不動産に当たることから該当しませんが、土地に定着せず移動が可能なプレハブ小屋や公衆電話、足場などは該当することになります。またコンピュータープログラムなども「動産」ではないことから該当しません。
(3)欠陥
製造物責任が生じるための製造物の「欠陥」とは、「当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう」とされております(2条2項)。一般に欠陥には設計上の欠陥、製造上の欠陥、指示・警告上の欠陥の3種類があると言われております。
設計段階で安全性に問題があった場合、製造や組み立て過程で設計どおりに製造されなかった場合、製品の特性上除去できない危険を消費者に適切に情報提供できなかった場合です。そして欠陥の有無の判断にあたっては、製造物の特性、通常予見される使用形態、製造物を引き渡した時期、その他製造物にかかる事情を考慮することになります(同条)。刃物や重機、自動車などはその特性上もともと危険性を有します。また通常予見できる使用方法を逸脱した場合も欠陥には該当しません。
免責事由
上記の要件を満たしても製造業者は常に責任を負うわけではありません。PL法4条では一定の場合に免責事由を設けております。まず想像業者が製造物を引き渡した時の「科学又は技術に関する知見」によっては欠陥が有ると認識できなかった場合です(同1号)。一般に「開発危険の抗弁」と呼ばれるもので、たとえば開発時では一般に有害性が認識されていなかった物質が使われていたり、その当時の科学水準では危険性を予見できなかった場合などです。
そしてもう一つは製造物が他の製造物の部品や原材料として使用された場合であり、「専ら当該他の製造物の製造業者が行った設計に関する指示」に従ったことにより生じ、欠陥について過失がない場合です(同2号)。製造メーカーの設計・仕様に従って下請け業者が部品を提供した場合などです。しかし下請け業者もそこに危険性が存在することにつき予見可能であれば「過失」有りとして免責されません。
コメント
本件で男性が購入した自転車は「シマノ」製のギア部品を使用して「アサヒサイクル」が製造しております。ギア部分のネジが規格を満たしていなかったとのことですから、自転車部品としての「通常有すべき安全性を欠いていた」ことになります。
本件ではアサヒサイクルが製造しておりましたが、PL法は製造・加工だけでなく輸入した場合も規制の対象としています。海外から輸入して居た場合でも欠陥があれば責任を負うことになります。以上のようにPL法は製造物に欠陥があり、それによって損害が生じた場合には、被害者は相手方の故意・過失を立証することなく賠償請求することができます。
契約書や取扱説明書などで製品の欠陥により損害が生じても責任を負わない旨の免責特約や免責条項が盛り込まれている場合もありますが、一般消費者やエンドユーザーに対しては効力が無く、また当事者間においても一般的に無効(民90条等)であるとされております。
自社製品について責任追求がなされば場合には上記の免責事由に該当しないか、また逆に他社製品によって損害を被った場合にはPL法による責任追求はできないか、両面から検討しておくことが重要と言えるでしょう。
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