変わる教育現場~反転学習の効果とその課題は? (2017/10/8 nomad journal)
皆さんは「反転学習」という言葉をご存知でしょうか。場合によっては「反転授業」とも呼ばれるのですが、これまで授業で知識などを学習して、家で復習をしていたところを、家で知識などを学習し、授業で復習するという授業形式です。これまでのやり方を「反転」したことから「反転学習」と呼ばれています。こうした考えは以前からありましたが、最近のIT化の流れが教育界にも入ってきており、タブレットやパソコンで勉強する環境が整ったのも「反転学習」導入を後押ししているのは間違いありません。ではなぜこのような「反転学習」をする必要があるのでしょうか。ここでは「反転学習」が必要になる理由とその効果について説明します。
教育現場の現状とは
従来の授業というのは教室での集団授業で講義が中心でした。そこで新しいことを学び、覚える必要があります。しかし、新しい知識を学んだり、覚えたりする力はどうしても個人差が出てしまいます。特にひとクラス30人であれば、何人かは授業の内容を理解できないまま、授業が終わってしまうこともあるのです。こうした現状は先生の方も分かっていて、何とかしなければいけないと放課後に補習することもあるのですが、毎回の授業でそのようなことをしつづけることはできません。こうした現状の中で反転学習の導入が議論されてきたのです。
なぜ反転学習なのか?
前述したような教育の現状に対して反転学習がなぜ有効なのでしょうか。それは新しい知識を学んだり、知識を覚えたりすることを家でタブレットやパソコンを使って行うため、それぞれの生徒が自分のペースで学習できるからです。理解できるまで学習することができるので、授業はその知識を使う場として活用することができます。授業の時間は限られているわけですから、そこでは知識を活用すること、応用する時間に当てることができます。ディスカッションなどを授業で行えば、知識を使うことになり、その知識はしっかりと定着するようになるのです。また、新しい知識をしっかりと身につける事ができていない生徒については、授業内で個別に指導することもできるでしょう。
反転学習の効果は?
このように反転学習には大きな効果が期待できそうですが、実際にはどうなのでしょうか。日本での事例としては佐賀県武雄市の事例が上げられます。武雄市では2014年4月から「スマイル学習」を使った反転学習が行われてきました。その結果が「「ICTを活用した教育」第三次報告書―新しい学力観を求めて―」にまとめられています。それによれば、小学校4年生の算数の授業で「知能・技能」についての反転学習の効果を計ったところ、「限られたデータではあるが、「スマイル学習」は児童の「知識・技能」にプラスの効果があると推論できる」としています。「思考力・判断力・表現力等」についても、「スマイル学習」実施率が高い上位3校と実施率が低い下位3校の比較では、「「思考力・判断力・表現力」にプラスの効果があると推論できる」としています。
しかし、スマイル学習の実施率は下がってきており、さらに小学6年生算数の平均正答率の推移を見ると、「成績が著しく向上したことを示すデータは表れ」ていません(「佐賀新聞」2017年2月15日)。もちろん学習の効果は点数だけでは測れず、「スマイル学習」実施率が高い上位3校と実施率が低い下位3校の比較では、「学習意欲や学習習慣、社会への関心を高め、将来の夢を明確にするという点で「学びに向かう力」にプラスの効果がある」としています。まだまだデータとして不十分ではありますが、限定的ではあっても点数以外のところでは効果が表れているようです。
反転学習の課題は?
点数には効果が表れていませんが、「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力」に一定の効果が認められています。ではどのような課題があるのでしょうか。ここではその課題について説明します。
1.「スマイル学習」の実施率にバラつきがある
先程の報告書を見ると「スマイル学習」の実施率にバラつきがあります。なぜバラつきがあるかというと、教職員にとって「スマイル学習」を実施するのが負担だからです。実際に教職員の半数が「スマイル学習」を減らしたいと答えており、理由として「負担が大きい」「他の方法を活用したい」をあげています。つまり、教職員のその効果がはっきりと認識されていないのです。結果として実施率に差が出てしまいます。この問題を解決していく必要があるでしょう。また保護者が「スマイル学習」にどのような効果があるのか、「スマイル学習」の学力観が定着しているとは言えません。自宅で学習をするわけですから、保護者の方の協力や理解が必要なのは間違いありません。教職員にも保護者にもその効果が分かるように説明していく必要があるでしょう。
2.教材を充実させること
反転学習で使う教材をどのようにするのか、知恵を出し合ってより良い教材を作っていく必要があります。教材が生徒の興味をひくものでなければ、タブレットを使ったとしても学習意欲は上がりません。教育業界全体でどのような教材が良いのか考えていく必要があるでしょう。
3.タブレットの費用は誰が負担する?
タブレットを購入するとなった場合、その金額を誰が負担するのかという問題もあります。全額家庭で負担してもらうのは難しいでしょう。それを行政が負担するとなった場合、財政上の問題をクリアにしていかなければならないでしょう。
これから反転学習はどうなっていくのか
「反転学習」はこれからますます実施されるようになってくるはずです。ただしタブレットやパソコンを使ってただ勉強したとしても効果は表れません。どのような教材を使うか、またどのように指導するか、それらをしっかりと研究して教育現場で使うことが求められます。また保護者の方の協力も必要です。行政・学校・家庭が上手に連携して、「反転学習」を有効に実施できるようにしていかないといけないでしょう。
記事作成/ジョン0725
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