第一生命が「責任投資委員会」立上げへ、社外監査役について (2017/2/28 企業法務ナビ)
はじめに
第一生命は投資先企業の株主総会での議決権行使に際し透明性を確保するため、4月から「責任投資委員会」を組織することを発表しました。機関投資家としての議決権行使や利益相反を防止し、コンプライアンス促進のために社外監査役の監査体制を強化することを主眼としています。今回は社外監査役について見ていきます。
社外監査役とは
監査役は取締役と同様に株主総会によって選任され(会社法329条1項)、調査権限を行使して会社の業務の適法性を監査します(381条)。しかし通常は取締役と同様に企業内の人間から選ばれることになり経営陣との馴れ合いから十分な監査が期待できないこともあります。そこで社外の人間を監査役とすることによりコーポレート・ガバナンスを強化しコンプライアンスの促進を図ることが社外監査役の趣旨と言えます。会社法上、社外監査役の設置が義務付けられるのは監査役会設置会社です(335条3項)。監査役会を設置する場合、3人以上の監査役を必要とし、そのうち半数以上が社外監査役でなくてはなりません。
社外監査役の要件
社外監査役の要件については、会社法の平成26年改正で強化されております。以下の5つの要件すべてに該当することが求められております(2条16号)。具体的に見ていきます。
(1)過去10年間にその会社または子会社の取締役、会計参与、執行役、支配人、使用人になったことがないこと。つまり会社の経営に関与する地位に就いたことがないことが求められます。
(2)過去10年間にその会社または子会社の監査役であったことがある場合、その就任前10年間に上記(1)にあたらないことが求められます。
(3)その会社の親会社等(自然人であるもの)または親会社の取締役、監査役、執行役、支配人、使用人でないこと。自然人で親会社等とは簡単に言うとその会社の議決権の過半数にあたる株式を有している株主のことをいいます。このような株主は社外監査役だけでなく社外取締役にも就任できません。
(4)その会社の親会社の子会社の業務執行取締役等でないこと。つまり親会社を同じくする、いわゆる兄弟会社の業務執行取締役や(1)に挙げられる者に該当しないことがもとめられます。
(5)その会社の取締役、執行役、支配人、重要な使用人に当たる者の配偶者や2親等内の親族でないことが求められます。
責任限定契約
社外監査役も取締役と同様に会社に対して任務懈怠責任を負うことになります(423条)。場合によっては相当な額の賠償を会社や株主から請求されることになり、これを敬遠して社外監査役の人員を確保できない場合もあります。そこで会社との間で責任限定契約を締結することができます(427条1項)。これにより役員の負う会社への賠償責任を2年分の報酬額にまで限定することができます。この制度は平成26年改正前は社外取締役、社外監査役、会計監査人のみ利用できましたが、改正により業務執行を行わない取締役以外に拡大されました。なお責任限定契約を締結する前提としてその旨定款で定めることが必要です。
コメント
以上のように監査役会を設置する場合には、その半数以上が社外監査役でなくてはなりません。また公開会社であり大会社(資本金が5億円以上か負債総額が200億円以上の会社)である場合には監査役会の設置か委員会等設置会社とならなければなりません(328条)。
昨今企業不祥事が後を絶たず社外の人間による監査の役割が重視されております。そこで26年改正により上記要件のうち(3)(4)(5)が追加されました。これにより社外監査役の要件はかなり複雑なものとなっております。社外監査役の選任の際には注意が必要です。なお社外監査役の登記の際には、これら要件に該当していることを証明する書面の添付は不要とされております。
社外監査役の確保は容易ではありませんが社外の人間を積極的に導入することによって内部統制やガバナンス体制への積極性が示されコンプライアンス意識の高い企業と評価されます。社外監査役の導入を積極的に検討することも重要と言えるでしょう。
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