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金融庁が生保に不信感、会社法上の利益供与について (2017/2/24 企業法務ナビ

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はじめに

日経新聞電子版は22日、各地銀の大株主である生命保険業界が経営の監視役を果たさず、株主の立場を利用して保険商品の販売を迫っているとして金融庁が不信感を募らせていると報じました。地銀窓口で優先的に取り扱ってもらったり、地銀職員に契約の上積みを迫っている疑いがあるとのことです。このような行為が会社法に抵触しないか。今回は会社法の利益供与規制について見ていきます。

会社法

事案の概要

日経新聞によりますと、全国の上場地銀82行の上位10以内の大株主に明治生命保険、日本生命保険等の大手生保が名を連ねているとのことです。生保は顧客から預かった保険料を株式や債権等で運用し、その収益を保険金の支払や配当に当てております。金融庁は地銀が地域の中小企業への融資や育成に力を入れず、住宅ローンの低金利競争に集中している点について不満を持っており、大株主である生保がその是正に動きを見せないことに不信感を募らせているようです。さらに大株主としての地位を利用して自社製品を優先的に取り扱わせたりしているなどとしています。生保業界は株主の順位で販売する保険が決まるほど単純ではないなどと反論しています。

会社法の利益供与とは

会社法120条1項によりますと、株式会社は「何人に対しても」「株主の権利の行使に関して」「財産上の利益の供与」をしてはならないとしています。典型的には会社の経営陣が株主に対し、株主総会で議案に賛成してくれるよう金銭等を交付することが挙げられます。本条はいわゆる総会屋への利益供与を禁止することで会社経営の健全化を確保することを目的として制定されました。これにより会社財産の浪費を防止するという意味合いもあります。具体的な要件については以下見ていきます。

利益供与の要件

(1)規制の対象
本条の行為主体は「株式会社」です。取締役個人の計算で支出することは問題ありませんが、形式的に会社以外の者の名で行っていても実質的に会社財産を消費している場合は規制の対象となります。つまり名目上は取締役個人が提供していても、後日会社から補填を受けられるといった場合には該当することになります。会社財産の浪費防止という趣旨からはこのように考えられるということです。また供与の相手は株主自身に限られません。120条1項では「何人に対しても」と規定しており、第三者に提供する場合も該当します。

(2)株主の権利の行使に関して
利益の提供は「株主の権利の行使に関し」て行われる必要があります。この株主の権利行使に関してとは一般的に株主の権利行使に影響を及ぼす趣旨でという意味に解されております。利益供与を行う会社の意図・目的を重視する考え方です。裁判例も概ねこの考え方に立っているものと思われます。株主の権利、例えば議決権の行使・不行使に影響を及ぼす目的といった場合が典型例ですが、まだ株主となっていない者が株主となって権利を行使することを防止するといった場合も該当することになります(最判平成18年4月10日)。

(3)財産上の利益
提供する「財産上の利益」は金銭や物品に限られず、信用の供与や債務免除といった金銭に見積もることができる経済的利益はすべて該当すると解されております。裁判例ではQuoカード1枚(500円)の提供でも該当するとしています(東京地判平成19年12月6日モリテックス事件)。問題となるのは反対給付を伴う場合です。株主との売買契約や警備保障契約、コンサルタント契約といった会社から利益を提供するだけでなく株主からも反対給付を伴う場合でも反対給付が「著しく少ない」場合は財産上の利益の供与と推定されます(120条2項)。反対給付が相当であったとしても多数の業者から会社が株主を選んで契約したこと自体が利益と判断される場合もありえます(高松高判平成2年4月11日)。

違反した場合の効果

本条の規定に違反した場合、利益を受けた者は会社に返還する義務を負います(同3項)。そして利益供与に関与した取締役は供与した利益の価額に相当する額を会社に支払う義務を負います。直接利益供与を行った取締役以外の関与取締役は無過失を証明した場合には免責されます(同4条、但書)。また罰則として3年以下の懲役又は300万円以下ば罰金が課されます(970条)。これは事情を知って供与を受けた者も同様です(同2項)。脅迫等を行って供与させた者は5年以下の懲役又は500万円以下の罰金となります(同4項)。取締役の利益供与を見過ごした場合は監査役も任務懈怠責任を負うことがあります(423条)。

コメント

本件で金融庁は大株主である生保の扱う保険商品を優先的に取り扱うことについて、会社法上問題となる旨には言及していませんが、株主総会の議決等で経営陣に便宜的な取扱を受けることを意図して保険契約を締結した場合、相当な反対給付の範囲内であったとしても多数の保険商品の中から株主の商品を選んだこと自体が利益として本条に違反すると判断される可能性はあります。逆に明らかに本条に該当するように見えても、株主の権利行使に影響を及ぼすおそれがなく目的が正当であり、額が少額で社会通念上相当な範囲であり、総額も会社に影響を及ぼさないとされる場合には適法とされることもあります(上記モリテックス事件)。取引通念上、一般に行われている範囲の接待等は適法であるということです。株主優待制度を取り入れる場合や大株主に一定の便宜を図る場合は会社法が禁止する利益供与に当たらないか、当たったとしても社会通念上許容される範囲を超えていないかを慎重に見極めることが重要と言えるでしょう。

提供:企業法務ナビ

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