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第一興商がカラオケ動画差止訴訟で勝訴、著作隣接権について (2017/1/20 企業法務ナビ

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はじめに

カラオケ大手の第一興商がカラオケ店で自ら歌う映像を動画共有サイトにアップロードしている個人に対し、差止を求めていた訴訟で東京地裁は先月20日、差止を認める判決を出していたことがわかりました。著作権者とは別にレコード会社やテレビ局等に認められる著作隣接権。今回はその概要について見ていきたいと思います。

カラオケ

事件の概要

判決書によりますと、原告のカラオケ大手「第一興商」は業務用通信カラオケ機器「DAM」を製造販売を行っております。第一興商は昨年8月に発売された女性ボーカルグループ「Little Glee Monster」のCDシングル「私らしく生きてみたい」のカラオケ用音源を作成しました。

被告はカラオケ店においてDAMの端末で本件カラオケ用音源を使用してカラオケ歌唱を行い、その様子を動画撮影しました。同年9月被告はその動画を動画共有サイト「YouTube」にアップロードしておりました。これに対し第一興商側は本件DAM用カラオケ音源に係る送信可能化権を侵害するものであるとして東京地裁に差止と電磁的記録の消去を求めて提訴しました。YouTubeに上げられた動画は提訴時に既に削除されておりました。

著作権とは

著作権とは著作物を排他的に支配する財産権の一種です。そして著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲にぞくするものをいう」としています(著作権法2条1項1号)。10条1項には具体的にどのようなものが著作物に当たるかが例示されております。たとえばCDに録音されている楽曲では、まず歌詞は「言語の著作物」(1号)に該当し、曲は「音楽の著作物」(2号)に該当することになります。つまり楽曲の著作権は作詞家と作曲家に原則的に属すると言えます。

著作権者には著作物に関して複製権、上演権、演奏権、上映権、公衆送信権、展示権等を排他的に占有することが認められ(21条、22条等)これらの権利が侵害された場合には差止請求(112条1項)、損害賠償請求(民法709条、法114条)等を行うことができます。また故意に著作権を侵害した場合には10年以下の懲役または1000万円以下の罰則が設けられております(119条)。

著作隣接権とは

それでは著作隣接権とはどのようなものでしょうか。上で挙げた楽曲の例で見てみますと、歌詞と曲にはそれぞれ作者に著作権が認められます。一方それを実際に歌っている歌手と、その歌を録音しているレコード会社には「著作権」は発生しません。思想や感情を表現し創作しているわけではないからです。

しかし歌手は「実演家」、レコード会社は「レコード製作者」に該当し著作権とは別の「著作隣接権」というものを有することになります。実演家には録音・録画権、放送権、送信可能化権、譲渡権、貸与権、レコードの二次使用権等の権利が認められております(91条~95条)。またレコード製作者にも複製権、送信可能化権、レコードの二次使用権、譲渡権、貸与権等が認められております(96条~97条の3)。著作隣接権が侵害された場合も著作権と同様に差止請求権や損害賠償請求権が認められております。

著作隣接権侵害の具体例

では具体的にどのような場合に著作隣接権侵害となるのでしょうか。音楽CDをそのままコピーして動画サイトにアップロードした場合、歌詞と曲に関する作者の著作権と歌っている実演者の録音・録画権、そしてレコード製作者の複製権、送信可能化権という著作隣接権を侵害することになります。

著作隣接権は著作権そのものではなく、それの「実演」に関する権利であることから、たとえば歌手のモノマネを行っても歌手自身の「実演」を録画や複製しているわけではないので該当しません。しかしコンサートや街頭ミュージシャンの演奏を勝手に録画してアップロードした場合には「実演」を録画していることから該当することになります。

コメント

本件で第一興商は「レコード製作者」に該当し制作したDAM用カラオケ音源に関して著作隣接権が発生することになります。そしてその音源が使用された自撮りカラオケ動画をYouTubeにアップロードする行為は送信可能化権を侵害するものである旨東京地裁は認めました。

被告側の答弁書では自身の歌唱の様子を撮影したものに過ぎず、原告の利益を明確に侵害したものとは言い難いと反論していました。実際に動画サイトにアップロードされた自撮りカラオケに関して、カラオケ音源の権利者から削除要請がなされることは多くありますが訴訟にまで発展したケースは極めて稀と言えます。

しかし動画にカラオケ音源の音が入っている以上、法的には送信可能化権を侵害するものと評価されます。音源をネット上で送信する権利は著作隣接権者が占有しているからです。著作物や著作権、著作隣接権は一見複雑ですが自社がどのような権利を有しているのかを正確に把握し、権利侵害に対してどのような対応ができるかを検討しておくことが重要と言えるでしょう。

提供:企業法務ナビ

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