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東京の真ん中で語られた「地方でお金を生む方法」―tabelと考えるローカルの未来@無印良品レポート (2016/12/21 70seeds

地方で働きたい。地方で叶えたい理想がある。

だけど、収入に人間関係、家族はどうする?そんな不安からあと一歩が踏み出せない…

そんな方々のハートに火をつけるべく、いままで70seedsでは地方創生のキーマンたちへの取材を実施してきました。

さらに今回、70seedsではオフラインに場を移しイベントを開催。大槌食べる通信の吉野和也さんと70seeds編集長の岡山をモデレーターに、伝統茶{tabel}の新田理恵さんをゲストに迎え、「ローカルの未来」をテーマとしたトークセッションを繰り広げました。

この記事では、満席御礼で幕を開けたイベントの様子をレポートします!

トークセッション「ローカルの未来」1

2部制で展開された今回のイベント、第1部はそれぞれの取り組みについて語ってもらいました。詳細な内容については、ぜひ以前の取材記事をご覧ください。

吉野和也さん (大槌食べる通信 編集長)
インタビュー記事
「地方の「ゆるやかな衰退」、防ぐのは“よそもの”―『大槌食べる通信』の挑戦」

新田理恵さん (TABEL株式会社 代表取締役)
インタビュー記事
「名もない草が、世界ブランドになった日-伝統茶{tabel}にみる地方の魅力の見つけかた」

※ちなみに無印良品では新田さんが手がける{tabel}の薬草茶が販売されています。

持続するにはお金が回る仕組みが必要

第二部のトークセッションは、最初から核心に切り込みます。1つ目のテーマはズバリ、「地方でお金を回すことの大切さ」。モデレーターの岡山から、実際に地方で「お金の循環」を生み出している2人に質問を投げかけました。

吉野さんの答えは、「どんなにいい活動も支援がないと終わってしまう。だから持続的に行うための、お金を回す仕組みが必要だ」というもの。

トークセッション「ローカルの未来」2

吉野:色んなところから支援をもらって何かをするっていうのは、すごい、やりやすい、語弊があるんですけど、やりやすい。ただ、それって持続的ではないんですね。やはり、助成金だったり、支援してくださる方だったりがいないと良い活動というのは終わってしまう。だから持続的に地域に対して何かをするのであれば、お金を回す仕組みを作らなければ難しい。

一方、新田さんが話したのは、お金とのかかわり方についての考え方。

新田:お金と感情は密接に考えないほうがいいかなとは思います。あくまで道具としてポジティブに捉えています。商品を取り扱うときって、良い意味で“縁を切る”んですよね。例えば、「私のコート」だとそれは「私の」ものだけど、「私の」を切ることによってコートが商品になる。「〇〇さんの山の自然薯」も「〇〇さん」を切り離すことで市場に出回ることができる。水や呼吸と同じように循環を作ることで腐らせない、新陳代謝を良くするというか、よりよい状態を作っていける、活性化できるという意味でも続けていく必要があるんじゃないかなという風に思っています。それはかかわってくれる人への感謝も込めてですね。

この新陳代謝という考え方は、地域活性化でよく語られる「よそもの」の必要性ともつながっていきます。吉野さんは「地域の人たちにその地域の良さを伝え、自信を持ってもらうことはよそものだからこそできること」と語り、新田さんは実際に熊本での商品開発の話を引き合いに、こんな話を続けました。

新田:熊本の八代の人たちは自分たちの町について「い草しかない」という印象だったんですけど、こうやって蓮の葉茶を商品化して紹介していき、蓮の葉茶という新たな魅力に気づかされ、自分の町に自信が持てたっていう声が聞けたときは嬉しかったですね。

地方でお金を生むには?

そして話はさらに踏み込んで、次のテーマへ。題して「地方でお金を生むには」。「地元は仕事がない」という声があふれる地方で仕事を作った2人に、土地の魅力を発見し、その魅力を仕事につなげていくための方法を聞きました。

「単純に仕事を作るときは“ほしいもの”から考えています。」と語るのは新田さん。

新田:お金を作るとか仕事を作るというのは価値を作るということ、それを見つけるにはとりあえず行ってみたり、逆にその地方から来てもらったりして、差分を自分の目で見つけることが大事ですね。

そして「大槌刺し子プロジェクト」から「大槌食べる通信」まで、ひとつの地域でいくつかの事業を立ち上げた吉野さんが体験から語るのは、「人を巻き込む」こと。

吉野:例えば、僕がやった大槌復興刺し子プロジェクトは、高齢の方にやることを作ることで彼女たちの生きがいになったりだとか、それが収入にもなったらいいんじゃないかと思って始めました。刺し子は針と糸と生地さえあればできて、避難所のような狭いスペースでもできていいなぁと。刺し子のデザインをしてくれたアパレルのデザイナーさんはじめ、たくさんの人たちとつながって販売につなげることができたんですね。大槌食べる通信は震災以降時間が経つにつれて疎遠になってしまった人たちとの関係を繋げることができると思って始めました。そう思って始めたらたくさんの人が気にして買ってくれて、食べる通信始まって以来の創刊号黒字を記録して。

ただ、ここで湧きあがった疑問が、「同じようなもの」がたくさんある中で、どうやって独自の価値を伝えるのか、ということ。例えばホタテでいえば大槌と隣の山田町で大した違いはないかもしれない。それをどういう風に差別化して、土地固有のファンを作っていくのでしょうか。

まず、同じように見えて実は明確な違いがある、というのが新田さんの取り組む薬草のジャンル。

トークセッション「ローカルの未来」3

新田:薬草の場合は単純で、この村のこのおばあちゃんちの庭でしか取れない味みたいなものがあるんです。ワインのテロワールみたいな感じですね。実際に成分を調べても地域によって薬効成分が違う。あとは収穫量での希少性とか、こんな評価をもらっただとか、買いたいという信頼を積み重ねていくことだと思います。ブランディングもありますが。

品質だけでは差別化しづらい「食品」を扱う吉野さんは、思いや背景のストーリーで違いを生みだすことができるんじゃないか、と投げかけます。

吉野:現地の漁師さんみんな、「俺が作ったのが一番美味い」っていうんです。みんな言ってて、当てにならないなぁと思いながら(笑)、20人くらいホタテを作っている方がいるんですけど、それぞれどんな思いがあって、そのホタテを作れるようになったのか、みたいなストーリーを打ち出していくことで差別化になっていくんじゃないかと思っています。

それぞれ実体験に基づいた話をしてくれた2人の話から、共通して伝わってきたのは「その地域に入り込まないとわからないことがある」ということ。それが次のトークテーマにつながっていきます。

コミュニティのキーマンは「おばあちゃん」

トークセッションも佳境に入り、テーマは地方で仕事を作り出していくときに避けては通れない「コミュニティに溶け込む方法」へと移ります。吉野さんからはフランクな中からも冷静な分析が語られました。

吉野:自分のばあちゃんとじいちゃんに接するような感じで話しかけること。ちょっと他人行儀だと相手も気を遣うので、親しげに「おばあちゃん元気?」みたいな感じで話しかければ受け入れてくれると思います。でもやっぱり人によってはあまり入り込んでほしくない人もいるので、話しながら距離間をつかんで、より受け入れてくれる人との関係性を築いていくっていうのが大事だと思います。

次に新田さんが語ったキーワードは「突撃と敬意」。

新田:私の場合はまず1つには突撃してます(笑)。道の駅行くと乾燥した草がガサーっと売られていて、おいしいなと思ったものは生産者の番号が書いてあるので、「すいませ~ん」って電話して買ったりもします。突撃して歓迎してくれるところって港町とか、昔の街道沿いとか、人の交流の多いところってオープンな気質なことが多いんですね。そういうところは農家さんにいきなりアポ取って行ったりだとか、市役所に乗り込むこともありました(笑)。ここでのポイントは敬意を持っていくことですね。その町への好意とか尊敬の気持ちを込めて話すとやっぱりうれしいじゃないですか(笑)。

トークセッション「ローカルの未来」4

2人の話からリアルな場面が想像できるのか、観客の皆さんの食いつきが一段と深いものになっていきます。さらに吉野さんからは「一番力を持っているのはおばあちゃん」という裏(?)情報まで飛び出してきました。

吉野:その地域で初めて知り合った人だけとやり取りするのもいいと思うんですけど、それだと地域の一側面しか見えない。それよりもたくさんの側面を知っていたほうが良いと思います。僕は刺し子プロジェクトで200人くらいのおばあちゃんと仲良くなって、おばあちゃんって家の中でかなり力を持ってるから、いろんなことを叱られながら教えてもらいました。それはすごくよかったと思っています。

それでもまだまだ、道は遠い

トークセッションの締めくくりとして、最後に2人の失敗談について話をしてもらいました。「いっぱいあるなぁ…」と言いながら吉野さんが話してくれたのは、地域の「狭さ」ならではのトラブル。

吉野:軽いところでいうと、方言をおばあちゃんから教えてもらって使ってたら、女言葉だったってことがあります(笑)あとは、仲良くなると少し深い話も聞けるようになるんですけど、聞いた話を別の場所でしたらその話はここではタブーだった、みたいなこと。狭い社会なので、「あの人がこんなこと言ってた」っていうのが広まるとその人が地域にいづらくなたりするっていうのは怖いし、気をつけなきゃと思いました。

新田さんから語られたのは、チームや関係者をつなぐ「価値観」の話。

新田:過去に輸入物でもいいじゃない、売り上げが高ければいいじゃないっていうスタンスの方と相談してしまって、あとあとその工場と取引をしている知り合いを通じて、その方から悪口を言われていたと知り、ショックを受けたこともありました。価値観は揃っていないと歪みがどこかで生じてしまうと思うんですけど、多様性も失いたくないとも思っているので、広い目線で、我欲から一回離れて丁寧にお話ししていけば分かり合える時が来るのかもしれないですけれども、まだまだ道は遠いなぁと思います。

新田さんのインタビュー記事でも語られたことですが、新しいことをやろう、とするとき一番の課題は孤独だといいます。それだけに、価値観や同じ未来を追いかける仲間に出会えることは、とても貴重でビジョン実現のためになくてはならないものでしょう。

今回のイベントに参加いただいた観客の方々からは、アンケートを通じてたくさんの共感の声をいただきました。70seedsではこれからも、「ハートに火をつける」方々との出会いを、オンライン/オフラインの両方でつくっていきたいと考えています。

トークセッション「ローカルの未来」5

提供:70seeds

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