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トランプ・ショックから考える民主主義 (2016/11/30 JIJICO

関連ワード : アメリカ 大統領選 

トランプ大統領にブレグジット 民主主義のあり方が問われる事態に

過日行われたアメリカ大統領選挙では、当初の予想を覆し共和党のドナルド・トランプ氏が大統領として指名される見込み、という結果になりました。また、トランプ氏は選挙期間中から移民問題等で過激な発言を繰り返しており、今後大統領に就任した後の政策がどうなるか強い関心が向けられています。

トランプ氏が選ばれたのは民主的な選挙による結果ですが、トランプ氏が仮に過激な政策を実行した場合、それは民主主義の結果、と言えるのでしょうか。また、近時はイギリスの国民投票でEUからの離脱が打数を占めたいわゆる「ブレグジット」問題のように、民主的手続での選択が大きな波紋を起こしている例もあります。そこで、今回は「民主主義」とその限界について考えてみたいと思います。

アメリカ国旗

民主主義が生まれてきた由来

民主主義(デモクラシー)を一言で言い換えると、「国民による支配(政治)」です。語源や由来は古代ギリシャで会議の度に参政権を持つ市民が集合して話合いを行い、ものごとを決定していたことに由来します。とはいえ、国家規模が大きくなった現代では、すべての物事を国民の話合いや投票で決めること(直接民主制)は現実的ではありません。そこで、国民が選挙によって代表者を選び、代表者が政治を行うという「間接民主制」が採られるようになりました。

なお、ヨーロッパを中心に重大事項については国民投票で決めるといった直接民主制と間接民主制を併用している国も多数あります。民主主義は「国家のあり方を決めるのは国民である」との考えを実現するものであり、王様が国のあり方を決める絶対王制と対置されています。

民主主義は万能なのか?

では、民主主義は万能で、間違いを起こさないのでしょうか。確かに、王様がひとりで何でも決めてしまうことよりは、多数の市民や議員が議論して物事を決めるほうが間違いを起こすことは少なくなります。また、議員や大統領も間違ったことをすると次に当選できないという考えから、一定のブレーキがかかることを期待することができる、と言われています。

しかし、民主主義も万能ではありません。民主的に選ばれた政府が独裁を行った例は、第二次大戦前のドイツを筆頭に多数存在します。また、直接民主主義もその時々の雰囲気に流されたり、選挙に行った人の多数意見が結論となる結果、本当の民意とはかけ離れた結果がでる、という危険性をはらんでいます。何より、全てを多数決で決めてしまうことは、少数者の権利や人権を蔑ろにする政治が行われてしまう危険性があるのです。

その意味で民主主義は万能ではなく、多数派の暴走や少数者の抑圧といった危険を有している制度である、ということは自覚しておかなければなりません。

民主主義の欠点を補う立憲主義

この民主主義の欠点を補うのが「立憲主義」です。立憲主義とは、多数決で選ばれた代表(政府)によっても制限できない国民の権利(人権)を憲法で定め、政府に憲法を遵守することを求めることで国民の人権を守り、政府の暴走を防ぐための制度です。その中には、国家権力を司法・立法・行政の3つに分け、相互に監視・抑制することで権力の暴走を防ぐ、という三権分立も含んでいます。

話を冒頭に戻しましょう。アメリカ大統領選挙で民主的な手続によって選ばれたトランプ氏でも、憲法に違反する政治はできません。また、ブレグジット問題も、イギリス高等法院が国民投票のみでは離脱ができず、議会承認が必要であるとの判断を示しています。このように、民主主義の結果が暴走しないようにしているのが、立憲主義であり三権分立の制度なのです。

アメリカ大統領選挙とブレグジットは、民主主義のその限界をわかりやすく示すものではないか、と筆者は考えています。なお、我が国でも近時憲法改正などの問題を通じて、民主主義と立憲主義の関係を再確認すべきときが来ているように思います。政治家が選挙で選ばれた以上何をやってもいい、ということではなく、立憲主義の観点から権力を適切に行使しているか、もっと市民が注意して見ていく必要があるように思います。

提供:JIJICO

著者プロフィール
半田 望/弁護士

半田 望/弁護士
半田法律事務所
弁護士登録当初から交通事故や離婚・消費者問題、労働問題等の市民事件や破産・管財事件、刑事・少年事件を多く取り扱う。また、行政事件(市民側)や国家賠償請求事件等の集団訴訟の弁護団にも多数加入し研鑽を積んでいる。弁護士業務の傍ら、地元大学での非常勤講師(民事訴訟法)や各種講演などの活動にも積極的に取り組む。

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