医療大麻の有効性について (2016/11/16 JIJICO)
多くの先進国で用いられている医療用大麻
大麻は日本では依存性のある麻薬の一つとして、大麻取締法によって所持や栽培、医療使用までが禁じられています。しかし、大麻に含まれるカンナビノイドといわれる生理活性物質は、多発性硬化症、てんかん、緑内障などの難病を含む数多くの病気に対して、幅広い薬効を持つことが知られています。
カナダ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、スイスなど、先進国の多くでは医療用として大麻が用いられています。また、アメリカにあっては、連邦法は禁止しているものの、28州とワシントンDCでは医療大麻が住民投票に基づいて合法化されています。先進国にあっては日本だけが医療大麻の理解に乏しく、その利用については大きく立ち遅れていると言っても過言ではないでしょう。
緩和ケアと医療用麻薬
癌やAIDSといった重大な病気の治療にあっては、病気に伴う痛みや倦怠感といった身体症状に加え、治療に用いる抗がん剤や抗ウィルス剤の副作用が強いために、治療に取り組む患者さんの苦痛は時に耐えがたいものとなります。特に抗がん剤による吐き気や食欲低下は、時に患者さんの余命までも左右することがあります。治療に伴う患者さんの苦しみを和らげる処置は緩和ケアと呼ばれますが、癌による死亡者が全死亡原因の3分の1にまで増加する中で、近年その重要性はとみに増していると言えます。
日本における緩和ケアでは、オピオイドといわれる鎮痛、鎮静効果が強い医療用麻薬が痛みの緩和の目的で用いられます。オピオイドはモルヒネといわれる麻薬が元になって合成されている化合物です。周知のとおり、モルヒネは大麻よりも依存性が遥かに強い麻薬であり、オピオイドもそれに近い性質を持っています。ただ、依存が形成されないように、必要最低限の量から適切に用いられることで、癌による激しい痛みを和らげるために有益な薬となっているのです。さらに、オピオイドは副作用として初期に強い眠気をもたらすことがあり、その効果は個人差があります。
大麻の医療的使用をめぐる裁判が訴えかけたこと
様々な薬効をもつ医療大麻は、痛みや吐き気を和らげ、食欲増進作用が強いことから、海外の多くの国では緩和ケアに重要な薬と考えられるようになっています。モルヒネより依存性や毒性が少なく、貴重な薬効に富む医療大麻の緩和ケアでの使用を検討することは、日本では癌の患者さんが100万人に迫ると推測される現今にあっては、喫緊の課題ともいえるでしょう。
余命半年を宣告された末期の肝細胞がんの患者さんが治療目的で、自宅で大麻を栽培して使用し、去年の12月に大麻所持のために路上で逮捕された事件がありました。裁判の供述調書によれば、その患者さんが悩まされていた末期がんに伴う痛み、不眠、抑うつ、食欲低下といった症状が大麻の使用によって劇的に緩和されていたそうです。その患者さんは、大麻の使用理由について問われると、「生きたいから」とのみ答えておられました。逮捕によって大麻が使用できなくなり、今年の7月にお亡くなりになりました。
もちろん大麻が使用できていたとしても、余命が伸びていたかどうかはわかりませんが、少なくとも患者さんの末期がんの苦しみは緩和できていた可能性はあるでしょう。
医療用大麻の是非について真摯に議論を重ねるべき
すでに大麻の医療使用が認められているドイツですが、平成26年7月に、ケルンの裁判所において、慢性的な痛みを訴える患者さんに対し、治療目的での大麻の自家栽培が認められるべきだとする判断がなされています。この判断からもわかることですが、我々は耐えがたい苦しみを少しでも和らげたいという患者さんの切実な願いを無視したり、生きるための努力を邪魔すべきではありません。
私事ですが、私の義父は、大腸がんによる吐き気と食欲低下に苦しみぬいて亡くなりました。今でも残念なことですが、その最後の日々は医療用麻薬のオピオイドの使用に伴う眠気によって、あまり話もできませんでした。
日本では、芸能人の誰が大麻を持っていたとか、そんなことばかりが注目されているように見えます。我々に求められていることは、様々な病に苦しむ患者さんの側に立った、医療大麻の使用の是非についての真摯な議論であり、癌によって、余命わずかと診断されている人々が、少しでも安らかな日々を送るためにしてあげられることは何か、偏見にとらわれずに考え直すことではないでしょうか。
- 著者プロフィール
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鹿島 直之/精神科医
町田まごころクリニック
1995年 東京慈恵会医科大学卒業。2011年 町田まごころクリニックを開業。働き盛りの方はもちろん、お子様やお若い方、お年寄りまであらゆる世代の方の心に寄り添った治療を考えています。どなたでも安心して心を癒やす場の提供を心がけています。
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