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「日本に帰化する」「日本自立のチャンス」 トランプ氏勝利に在日米国人の反応は?  ニュースフィア 2016年11月16日

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 米大統領選のドナルド・トランプ氏の勝利は、日本在住の米国人にも大きな衝撃を与えたようだ。ジャパン・タイムズが行った世論調査によれば、在日米国人全体がトランプ氏の勝利に「失望・狼狽(dismayed)」しており、日米同盟の亀裂から東アジア情勢の不安定化が進むことを懸念する声などがあがっている。

 米国出身の有名人たちも、メディアを通じて「トランプ大統領」が日米の狭間にある自身や日本に与える影響についてコメントしている。タレントのパトリック・ハーランさん(パックン)は、冗談とも本気ともつかない様子で「米国民をやめようかと考え始めている」と発言。一方で「トランプ大統領」に期待を込める声もある。弁護士・タレントのケント・ギルバートさんは、トランプ旋風が「日本などの同盟国が自立する起爆剤になると期待している」と述べている。

アメリカ国旗

◆「トランプ大統領」で日本は核武装・9条改正?
 在日外国人向けの英文情報サイト『Gaijin Pot』には、大統領選投開票日前日の11月7日付で、「トランプ大統領が日本に与える影響は?(What Would a president Trump mean for Japan?)」というタイトルのブログ記事が掲載された。筆者の英国出身・東京在住の教師、アレックス・スターメイさんは、これまでのトランプ氏の発言をもとに、「TPPの崩壊」と「米軍駐留費の負担増」、さらに進んで、“戦後レジームからの脱却”を象徴する日本の再軍備・核武装と憲法改正という大変革が起こりうると考察している。

 在日米軍の駐留経費負担増を求めているトランプ氏だが、究極的にはアメリカの核の傘が外れるところまで行き着く可能性もある。そうなれば、中国・北朝鮮・ロシアという核保有国に囲まれた日本は独自に核武装せざるをえない。また、日米同盟の集団的自衛権の行使において、日本側にも積極的な軍事的負担が求められれば、足かせになっている「9条」を破棄しなければならないだろう。スターメイさんは、憲法改正を望む「日本の右翼」の多くは、「トランプを『一生に一度のチャンス』と捉えている」と指摘する。

 同ブログは、「安倍(首相)と日本の保守派にとっては、トランプはある種の“隠れた救世主”だと受け止められるだろう。だが、先行きは不透明だ。日本と日本人の人生を変える道筋が引かれるかもしれない」と総括している。

◆アジア地域全体の不安定化を懸念する声も
 上記のような未来予測は、マスメディアや識者の間でもしばしば語られており、在日米国人の間でも共通認識となっているようだ。ジャパン・タイムズの世論調査に答えた在日米国人たちからも、日米同盟の先行きを不安視する声があがっている。

 東北大学で学ぶ日系米国人のダニエル・リンドナーさんは、トランプ氏が米軍駐留経費の負担増を求めていることについて、「これにより、トランプがアジア太平洋地域の複雑な情勢を理解していないことがはっきりとした。国際関係におけるこうしたオール・オア・ナッシングなアプローチは、良好な関係を築いてきた日米を取り巻く地政学的な状況に、取り返しのつかない影響を与えるのみならず、地域の安定そのものを危うくする」と語る。同様の懸念は、識者からも出ている。テンプル大学日本キャンパス教授のジョシュア・ポール・デュピュイさんは、トランプ氏が掲げる外交政策を「一貫して支離滅裂で好戦的だった」「同盟国に敬意を払うことを軽視している」などと批判。「オバマ政権を通して概ね強固だった」とする日米関係は、「日本側からすれば、未知の水域に入っていくことになる」と述べている。

 一方、東京在住の共和党員、ウェンディー・デービスさんは、たとえトランプ政権がTPP協定締結を放棄したとしても、トランプ大統領と「日本のビジネスリーダーは良好な関係を築けるのではないか」と楽観的だ。とはいえ、外交・安全保障については「両国の外交関係は悪化すると思う。さらに、彼の『自活せよ』という方針により、アジア地域全体が不安定になる」と、先の2人同様不安を隠せない。

 ジャパン・タイムズは、「トランプ氏は勝利宣言の中で、厳しい選挙戦を終えた今、アメリカ人は『一つにまとまらなければならない』と言った。しかし、このメッセージは日本在住のアメリカ人の間には響かなかったようだ」と記している。

◆在日米国人の「隠れトランプ」は?
 メディアで発言が伝えられる米国出身の有名人のなかで、トランプ大統領誕生に最も落胆しているのは、お笑いコンビ『パックンマックン』のパックンこと、パトリック・ハーランさんだろう。ハーバード大卒の知的エリートでもある彼は、選挙結果が出る前から反トランプの姿勢を鮮明にしていた。ニューズウィーク日本版の連載コラムでは、「きっとない。トランプ大統領という悪夢はきっと実現しない。でも、万が一にでも、トランプが大統領になった場合、日本の皆さん、お願いします。国籍ください!亡命でも、難民申請でも何でもします! 毎日お味噌汁飲みます!トランプ大統領のアメリカにだけは、住まわせないでください!!」と魂の叫びを上げていたくらいだ。その「悪夢」が実現した後の11日付の朝日新聞のインタビューでは、実際に「本気で米国民をやめようかと考え始めている」と発言。だだし、「米国民をやめるには『出口税』を納めないといけない。それがトランプ氏の資金になると思うと悔しいので悩む」とややトーンダウンしている。

 反対に、トランプ大統領にある種の期待を抱くのは、弁護士・タレントのケント・ギルバートさんだ。産経新聞が同氏のコメントを取り上げている。「日米同盟や極東アジアの防衛問題を懸念する声もあるが、私は日本などの同盟国が自立する起爆剤になると期待している。いちいち米国にお伺いをたてなければ、外交や防衛問題を含め、国益を追求できない異常な依存関係から決別するときだ」。同氏は、「不満が高まり過ぎると、人々は独裁的要素を持った主導者を待望するようになる」と、一歩引いた立ち位置からトランプ旋風の危うさにも触れているが、日本側からの視点では、予想されるその強い副作用を肯定的に捉えているようだ。

 一方、お笑いタレント・IT企業役員の「厚切りジェイソン」こと、ジェイソン・デイビッド・ダニエルソンさんは、中立的な分析をする。自身のブログで、持ちネタの『WHY Japanese People?』をもじった『Why Trump?」と題した記事をエントリー。多くのアメリカ人はトランプ氏、クリントン氏の「どちらの候補も嫌だと思っていた人が多かった」とし、今回の大統領選は「嫌われ者同士でよりマシなのはどれか」という選択だったと書く。そのうえで、生粋の「政治家」であるクリントン氏と比べれば「新鮮な考えを持つ政治家ではないトランプの方が期待できる」と考えて投票したアメリカ人が多かったことが、選挙結果に反映されたと見ている。また、「トランプを支持しているというと、トランプの暴言までまんま思っていると思われてしまうのではないかという心配で、トランプを支援しているとなかなか言えません」と、支持を明言しない「隠れトランプ」が多かったとし、そのためにマスメディアの予想が大きく外れたのだと見ている。

 ジェイソンさんはまた、「トランプになったところで心配している人が多いようですが、そこまで心配しなくても大丈夫です。なぜなら、アメリカの大統領は勝手に法律や対策を決められないからです。アメリカの政治って、しっかり権力分立しています。なので、あまりにもとんだ対策が拒否されるはずです」と、トランプ大統領就任後の先行きに楽観的だ。タレント・TVプロデューサーのデーブ・スペクターさんも「サンデー・ジャポン」(TBS系)で、「トランプ自身は生粋の共和党の人じゃないから、彼自身は娘もしっかりしているし」とコメント。簡単には暴走はしないと見ているようだ。ただし、暴走を抑えるべき側近の中に「すでにちょっと危険人物が含まれている」と警戒する。そして、トランプ氏が当選した理由については、「アメリカにアホが多いんですよ。よく勉強していない人が多いんですよ」と吐き捨てた(デイリースポーツ・オンライン)。

 まれに見る接戦と予想外の結果により、アメリカの「分断」を懸念する声が高まっている。ジャパン・タイムズの調査では在日米国人には反トランプ派が多いようだが、その中にも「隠れトランプ」が含まれているのだろうか。祖国と居住する日本との狭間に揺れる胸中は複雑なようだ。

提供:ニュースフィア

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